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2020.05.22

アフターコロナのマーケットを見据える米国ファッション業界のニューノーマルとは

アパレルウェブ「AIR VOL.35」(2020年5月発刊)より

賑やかさが消え、人影のないNYの街

 新型コロナウィルス感染拡大を抑えるために、通勤・通学を含む外出が禁止され、食品、薬品など生活の最低必需品を販売するエッセンシャル事業以外の小売・サービス事業の営業が2ヶ月以上禁止された米国。小売業界では多くの企業が店舗の従業員全員と本社従業員の一部を無給休暇またはレイオフ(一時的解雇)したと報道されています。その数は約100万人とも言われ、外出禁止令解除後も消費回復には時間がかかるという見方が強くなっています。ファッション業界も他の業界と同様に、外出禁止令が緩和されても、大勢の犠牲者を出したニューヨーク、サンフランシスコ、シアトル、シカゴなど大都市圏の消費者を中心に、しばらくは店舗来店を敬遠するのではないか、という予測もあります。

コロナ禍の影響が大きいファッション業界が抱える3つの問題

(図表1)外出禁止令下のEコマース売上の推移

(出所:Signifyd社、米国のWWD紙掲載、2020年4月14日)

 ファッション業界がこの状況下で苦しんでいる主な要因、それが余剰在庫と注文のキャンセルです。この問題を見越して「Gap(ギャップ)」を始めとする専門店チェーンはオンライン販売分以外の夏および秋物商品のオーダーを全てキャンセルしました。一方で、「Walmart(ウォルマート)」「Target(ターゲット)」、「H&M」、「ZARA」などは大量のキャンセルをすることは、主なサプライヤーである東南アジアの企業存続や低賃金で働く貧しい従業員たちの人権にも関わるとして、キャンセル自粛のスタンスをとっています。いずれの場合も、小売業者は春物の在庫を大量に抱え、夏以降の営業も厳しい予測をしています。

 

 また、店舗売上の損失も悩ましい問題です。オムニチャネル戦略が浸透している米国では、百貨店大手の「Nordstrom(ノードストローム)」は既に全社売上の約30%がEコマース経由、詳細な数字は公表していないものの、「Abercrombie & Fitch(アバクロンビー&フィッチ)」、「American Eagle Outfitters(アメリカンイーグルアウトフィッターズ)」「Lululemon(ルルレモン」」などもその水準と言われています。しかしここまで、デジタル化、EC化が進んだブランドでも、そもそもの店舗数が多すぎるため、店舗の売上消失分を埋めることは厳しいだろうというのが市場の推測です。

 

(図表2)米国主要小売企業の株価推移

 では、市場が激変する今、生き残る企業とそうでない企業ではどの点において差があるのでしょうか?企業を個別に見ていくと3つの点で明暗が分かれることがわかります。まず一番重要なのが「資金の流動性」です。当然ながら財務内容が悪ければ、景気回復まで企業体力がもちません。例えば、S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの調査によると、1年以内に債務不履行となる可能性が高い業界のトップは百貨店業界で、その可能性は42%と言われています。これは渡航自粛などで1ヶ月早く影響を受けたホテル・クルーズ業界の37%より高い確率です。もし、このまま店舗閉鎖が続いた場合、キャッシュフローがどの程度もつのか?Cowen and Company社の調査によると、ノードストロームと「J. C. Penney(JCペニー)」が8ヶ月なのに対し「Macy’s(メーシーズ)」、「KOHL‘S(コールズ)」は5ヶ月、3ヶ月という結果がでました。企業体力の差が、コロナ後における経営の方向を変えていきそうです。

 

 また、「販路の多様性」も当然ながら、重要となります。Eコマースも重要ですが、直営アウトレット業態の有無も明暗を分けそうです。ノードストロームは業界でいち早くアウトレット業態、百貨店・Eコマース両方のEコマースを導入し、4つの業態で顧客の利便性を測り、幅広い客層にリーチするオムニチャネル戦略を取っています。一方、メ―シーズはEコマースには力を入れているものの、アウトレット業態は店舗内展開のみ、コールズとJCペニーはアウトレット業態を持っていません。株価推移(図表2)から投資家の企業への期待を見ると、ノードストロームは半年前の株価から52%下がっていますが、JCペニーは76%以上、メーシーズとコールズは66%以上です。ノードストロームはアウトレットと百貨店の中間に位置し、同じ百貨店でも複数の販路を持つことの強みが評価されているとも読み取れます。

 

 最後にカギになるのは「従業員対応」です。この苦しい時期に従業員の雇用を確保できるかどうかは、全企業が苦渋の決断を迫られ、大量の無給休暇(休業中、給料は支払わないが店舗再開時にはそのまま元の仕事に戻る)およびレイオフ(一時解雇)が行われています。そんな中、「NIKE(ナイキ)」とルルレモンは店舗閉鎖中も6月1日までは従業員に給与を支給し、店舗再開に必要な人材を確保しています。さらにルルレモンは幹部社員の給与を20%削減、取締役の報酬をカットして「We Stand Together」基金を立ち上げ、コロナ感染の影響を受けた従業員を支援しています。こうした企業の姿勢は従業員のモチベーションを下げることなく、今回の状況が落ち着いてから、従業員は大きな力を発揮してくれるのではないでしょうか・・・

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