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2020.04.24
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.65】不安に向き合う「備え」の装い 2020-21年秋冬東京コレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.65
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(左から)ヒロコ コシノ、ハイク、ミントデザインズ
2020年3月16~21日に予定されていた「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」は新型コロナウイルスの影響で中止に追い込まれた。参加するはずだった各ブランドは無観客ショーを開いたり、動画配信に切り替えたりと、対応に追われた。2020-21年秋冬シーズンの東京コレクションは、不安な状況を見越したかのように、不測の事態に備える人たち「プレッパー(Prepper)」や身を守る「プロテクション(防護)」のムードが濃くなった。クラシック回帰や「強い女」イメージ、凝ったディテール、ジェンダーミックスが広がったのも、来季の目立った傾向だ。
◆ハイク(HYKE)
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無観客でランウェイショーを開いた「ハイク(HYKE)」は、困難な時代におじけない女性像を、アウター主体の装いで打ち出した。全身を覆うオーバーサイズのコート類は「プロテクション」のムードを帯びた。グローバルモードで勢いづく「プレッパー」のムードにも通じている。あごまで覆うチンガードとハイネックはタフ感を醸し出す。ロング丈のポンチョやマントは穏やかにボディーを包み込む。ブランケットコートも披露した。
ニットケープを重ねるレイヤードやトレンチコートの解体も仕掛けた。ライナー(裏地)の外出しはトリッキーな演出。プリーツスカートできちんと感とフェミニンを忍び込ませている。フリンジを随所にあしらって、動きを加えた。ビッグバッグが武骨さと華奢感を引き出している。ミリタリーとワークウエアへの敬意を払いながら、表面のスムーズな質感で、洗練度を高めていた。
◆ザ・リラクス(THE RERACS)
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ダッフルコートやモッズコートなどのアウターを軸に据えて、プロテクティブな装いを組み立てたのは「ザ・リラクス(THE RERACS)」。高い襟やハイネックで凜々しさを漂わせている。ロングブーツがタフ感を添える。縦長のシルエットとスムーズな質感がしなやかな落ち感を引き出した。ユーティリティーとクラシックが交わり、絶好の居場所に着地。起毛したウール素材が穏やかな風合い。エコレザーをたっぷり使ったボトムスも用意した。
全身を包み込むコートドレス風のフォルムは朗らかなボリュームを備えている。ジップアップワンピースやキュロット風ワイドパンツは機能とエレガンスを併せ持っている。フロントポケットやフラップポケットがミリタリー感を帯びる。黒、ネイビー、白、ベージュ系のワントーンで落ち着いた印象に。プロダクトとプロテクトを両立させたウエアは、着る側の「身を守りたい気分」をすくい上げていた。
◆ミントデザインズ(mintdesigns)
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「ミントデザインズ(mintdesigns)」は無観客でショーを開いた。渋谷パルコの通路をランウェイに使い、真っ赤な2階建てロンドンバスをバックに配した。30を超える職種をモデルに設定して、それぞれの仕事にふさわしい装いを用意。リボンを首の横で結ぶ寄宿学校風の演出も見せ、グローバルで勢いづく制服テイストも取り込んだ。さめた色味を多用し、ほのぼのとノスタルジックなムードを帯びさせている。
キーディテールにスカーフを迎え、ネッカチーフやヘッドスカーフに生かした。長く垂らしたり、胸を覆ったりと、服とドッキングさせて、レトロな雰囲気を演出。バスマップ柄をキーモチーフに選び、ネオンイエローを差し色に生かした。ショート丈ブルゾンやプリーツスカート、アシンメトリーアイテムが動きを加えている。テキスタイルに強みを持つブランドらしく、光沢を帯びた布や、紳士服の裏地は異なる質感をまとわせていた。
◆ヒロコ コシノ(HIROKO KOSHINO)
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無観客ショーを開いたうえで、公式サイトとインスタグラムで動画を配信した「ヒロコ コシノ(HIROKO KOSHINO)」。スリムなシルエットに、量感やモチーフでスリリングな「遊び」を仕掛けた。クラシックなまとまりを保ちながらも、ディテールや柄にカオスをはらませている。ファーストルックのパンツ・セットアップは襟元が水平で、袖には異形のボリューム。ケープを添えたり、素肌をのぞかせたりと、肩口の演出も多彩だ。ラッフルやティアードで装いに起伏を与えた。
抽象アート風のモチーフが着姿を弾ませる。チェック柄や白黒ストライプも生かしている。縁をかがるような縫い目をデフォルメしたり、下襟(ラペル)の色だけを変えたりと、アイキャッチーに演出。黒主体のドレッシールックでは、レザーのつやめきやレースの透け感など、異なる質感を響き合わせ、ムードを濃くしていた。
◆サポートサーフェス(support surface)
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カッティングの冴えに定評のある「サポートサーフェス(support surface)」は、布の表情を引き出したコレクションを披露した。平坦な部分が見当たらないほど、しわ、ひだ、たるみ、ねじれなど、様々な起伏を布地に与え、着姿に抑揚をもたらした。ギャザーを寄せたペーパーバッグウエスト風のハイウエストは、凜々しい風情。逆に、優美なドレープはフェミニンを薫らせた。
変形ボウタイを組み込んだようなブラウスは立体的な見え具合。背中側にも見どころを用意している。花柄トップスとチェック柄スカートといった、モチーフミックスが動感を添えた。たっぷりした幅のパンツは堂々とした着映え。ハンカチーフヘムのようなアシンメトリーも多彩。袖には量感の変化を持たせ、フェザー飾りもあしらった。タックやギャザー、ドレープなどの布あしらいが手仕事感も寄り添わせている。
◆タエ アシダ(TAE ASHIDA)
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「タエ アシダ(TAE ASHIDA)」は異なる素材感やムードの「衝突」から、趣深いたたずまいに導いた。ファーやレザーなどの質感を生かして、重層的なイメージを引き出している。ライダースジャケットとロングスカートを引き合わせたルックには、ロックとエレガンス、ストリートとドレッシーが交差。ふわもこトップスとスキニーパンツ、ほっこりアウターにレディーライク靴といった、巧みな「ずれ感」を演出している。
襟の折り返しやポケットのフラップに別色を差し込んで、ひねりを加えた。片側の肩だけを露出したり、片方の袖だけを透けさせたりといった、印象的なアシンメトリーを多用。気品を宿したワンピースにも、型にはまらないディテールを添えた。鈍いまばゆさを帯びたメタリック生地で、華やかなドレスを仕立てて、リュクスとグラマラスを交じり合わせている。
◆ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)
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「ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)」は丁寧なテーラーリングを軸に、羽織り物主体のコレクションに仕上げた。キーピースの一つはトレンチコート。水着ライクなオールインワンに重ねて、意外感の高いコンビネーションを組み立てている。一見、オーソドックスに見えながら、実は身頃が二重だったり、背中側の表情が凝っていたりと、入り組んだ仕掛けが施された。
ロングコートを生かしたレイヤードもウィットを帯びている。トレンチも背中側の肩を落として「抜き襟」風にまとった。ドレッシーなスカート・セットアップは、トップスがストールを垂らしたかのようで、バックレスの大胆ルック。ヌーディーカラーのシースルー・タンクトップには、上から細ベルトを巻いて、フェティッシュなたたずまいに。石肌を思わせるオリジナルモチーフは装いにクールなムードを漂わせていた。
◆マラミュート(malamute)
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「マラミュート(malamute)」はコレクションをインスタグラム上で配信した。得意のニットを生かしながらも、布帛使いを広げ、趣深さを増している。しなやかなシルエットのパンツ・セットアップを軸に、洗練されたスタイルに仕上げた。これまで見せなかったプリント柄を採用。ぼかし気味の花柄やシャープなチェック柄をテキスタイル向けプリンターで写し込んだ。ペプラム風ボンディングでウエストにボリュームを演出。ケーブルモチーフも縦に起伏を添えている。
ハイネックと組み合わせたレイヤードは縦長感が伸びやか。「ロング×ロング」のシルエットで優美なフォルムを提案。裾に長く垂らしたフリンジは着姿に軽やかな動きを加えていた。ニットウエアやジャケットの上から巻いたベルトが細感を引き出す好アクセントに。アートモチーフのようなイヤリングやネックレスでニュアンスのある表情をつくった。
◆スリュー(SREU)
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古着のリメイクに強みを持つ「スリュー(SREU)」は、洗練を深めた。オーガンジー系の透ける素材を用いて、軽やかなレイヤードを組み立てている。透ける白いコートは崩しトレンチのたたずまい。袖のひじから先に素肌が透ける黒トップスも見せた。デニム素材を多用して、解体と再構成を試みている。デニムパンツは腰周りだけを残して、残りはチェック柄スカートでハイブリッドに仕立てた。
パッチワーク風に生地を縫い合わせたドッキングピースも披露。パンツの正面はデニム、背中側はチェック柄だ。サファリルック風のセットアップはパンツ正面にスリットを切れ込ませている。自在に生地を操るクリエイターは袖に切り替えを配して、異素材をマリアージュ。重層的な着映えに導いていた。
◆ノントーキョー(NON TOKYO)
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ブランド初のランウェイショーを、前回の「Rakuten Fashion Week TOKYO」(2020年春夏)で開催した「ノントーキョー(NON TOKYO)」。今回はメンズとウィメンズを合わせて100を超えるルックを発表。ネオンカラーを印象的に使った装いは全体的にアクティブで前向きな勢いを感じさせる。ウィメンズはフェミニンなストリート感をまとった。フェルト風生地で仕立てた、コートライクなジャンプスーツはアウトドア気分を宿す。大襟と量感が朗らかムードを弾ませている。
ニット帽子とスポーツスニーカーも繰り返し登場した。腕に巻いたアームウォーマー、もふもふ素材のバッグはほっこりテイスト。チェック柄と有刺鉄線モチーフを重ねたオリジナル柄はパンク感を帯びた。ショートパンツ、レギンス、フレアパンツと、ボトムスは多彩。ポケットがたくさん付いたスカートはワークウエア気分を漂わせていた。
◆ルプコ(RPKO)
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「ルプコ(RPKO)」はマニッシュとフェミニンを響き合わせつつ、ディテールに工夫を凝らした。パンツは裾に切り替えやフリルをあしらって、ムードを深くしている。エキゾチック柄で彩ったパンツのセットアップや、ピンドット柄のワンピース、細ひだのプリーツスカートなどノスタルジーを薫らせるアイテムを提案。細いストラップで肩から吊った、ハイウエストのパンツもレトロな風情。タフな印象のブーツを引き合わせて、ジェンダーミックスに整えている。
ショートスリーブのジャケットやつやめいた質感のコート、ブラウスなどで、レトロな品格を薫らせた。肩口の切り替えや、共布のベルトで、動きをプラス。古風なフリル使いや懐かしげな花柄を、現代的なシルエットに組み込んで、タイムレスな装いにまとめ上げていた。
先の読めない状況を迎え、タイムレスでシーンフリーの装いも目に付いた傾向だ。コレクションの準備は新型コロナ禍が本格化するずっと前に始まっているから、偶然の一致と言えるが、もともとめまぐるしいトレンドへの疲れやサスティナビリティーの浸透が背景にあり、時代の空気感を先読みした結果とも映る。この先も不安感や警戒モードが当分は続く見通しだけに、時代の転換点を印象づける東コレとなった。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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