PICK UP

2020.03.27

【連載―ファッション×○○業界に学ぶ】相乗効果を生む理想のコラボ、「Zoff」がフェスや旗艦店を通してアーティスト支援を続ける理由

アパレルウェブ「AIR VOL. 29」(2019年11月発刊)より

 

編集:福塚真一郎(アパレルウェブ)
編集協力 編集:株式会社ロースター/文:角田貴広/撮影:藤井由依(ロースター)

(左)株式会社インターメスティック
クリエイティブデザイン本部
東 祐太朗氏

 

(右)エイベックス・エンタテインメント株式会社
ビジネスアライアンス本部
三上 清太郎氏

 

 アイウェアブランドの「Zoff(ゾフ)」は2006年以降、フジロックフェスティバルへの協賛や、自社企画のフェス「Zoff Rock」の実施、アーティストとのコラボ広告など、音楽に関連する数多くのプロジェクトを発足してきました。今年の広告塔にはエイベックスのアーティスト・ビッケブランカを起用し、8月末の「Zoff Rock」出演も含む長期間のコラボを実現しました。また、2019年8月29日には、渋谷センター街の新商業施設「グランド東京渋谷」1階に、音楽をテーマにした新店舗「Zoff グランド東京渋谷店」をオープンしました。

 

 ここでは、5,800万曲以上の配信楽曲数を誇る定額制音楽ストリーミングサービス「AWA」とタッグを組み、ヘッドホンスペース「Zoff Rock Sound Stationpowered by AWA」を展開。来店者が、AWAで公開しているZoff Rock Officialアカウントのプレイリストを楽しめる空間を演出しています。音楽をテーマにした新店舗やフェスなどの音楽体験とアイウェアにはどんな相乗効果があるのでしょうか。プロジェクトを担当したインターメスティック クリエイティブデザイン本部の東祐太朗氏とエイベックス・エンタテインメント ビジネスアライアンス本部の三上清太郎氏に話を聞きました。

ポイント:ブランドと親和性の高いアーティストとコラボし、広告起用から限定ライブまで長期間のプロモーションを作る
狙い:音楽を通じて「Zoff」のカルチャーを幅広いファンに伝えるとともに、店舗では顧客に新しい音楽との出合いを届ける
効果:アーティストやファンの自発的な拡散もあいまって、ブランド認知・イベント応募数ともに増加した

「Zoff」が音楽にまつわるイベントやコンテンツに注力してきたのはなぜですか?

 

 インターメスティック (以下:東)「Zoff」は2001年のブランド開始以来、アイウェアをファッションアイテムにすることを目指し、価格設定やデザインにこだわったり、デザイナーズブランドとのコラボなどを実現してきました。カルチャーに根ざした企画こそが「Zoff」の特徴です。そんな中、メガネをかけることで新しい自分に気が付くというのは、音楽との出合いに似ていると感じていました。普段から「Zoff」を利用していただいているアーティストも多く、そうした方々とともにブランドも成長していきたいとの想いから、音楽業界とのコラボレーションが始まりました。

 

今年の広告ビジュアルには、ビッケブランカさんを起用しましたね。

 

: 一時休止していた「Zoff Rock」を昨年復活させ、その取り組みが社内でも評価されたため、今年はさらに本腰を入れて企画を作ろうと考えていました。そんな時に偶然エイベックスの三上さんと出会い、同い歳ということもあって仲良くなり、アーティスト選定などを相談させてもらったんです。

 

エイベックス 三上(以下:三上)もともと、弊社が無人島の猿島でやっている「Good Music Party」や、eスポーツの大会「RAGE」などのイベントにご協力いただけないかという相談を僕がしたんです。最初は問い合わせフォームからの連絡でした(笑)。そうしたら、東さんがビッケブランカのライブにお越しいただいたことがあるということで、ぜひ「ZoffRock」に出ていただけないかと逆提案をされて。最初は「メガネ屋さんがなんで音楽イベントをやっているんだろう」と思いましたが、話を聞いてこれは面白いと思いました。自分が持ってきた提案を一旦置いといて(笑)、「Zoff Rock」のお話に乗っからせていただいたんです。

 

: 僕が偶然ライブを見に行ったのが昨年の12月。今年のキービジュアルの撮影を2月に行ったので、そこから急ピッチでご調整いただいた感じでした。

 

企画を作る上で気をつけたことはありますか?

 

: サングラスの販売ピークは5月のゴールデンウィークや7月の夏休みシーズンなんですが、「Zoff Rock」は8月の末。アジアにある「Zoff」の海外店舗ではそのあとも年間を通じてビジュアルを掲出しますので、長期的なブランド訴求がしたいと考えました。6月のビッケブランカさんのワンマンライブで広告と同じ背景のフォトブースを会場に出させていただくなど、三上さんにもご協力いただきながら、ファンの方に喜んでいただきながら話題が続くような施策を用意しました。

 

三上: 会場のフォトブースで撮った写真をSNSに投稿をしてくれたら、特製のメガネ拭きがもらえるという内容だったのですが、実際すごい反響でしたね。

 

: ライブのために地方からいらっしゃるファンも多く、私たちの想定していない範囲にいる方とも接点が作れたというのはすごく嬉しかったです。年配の方で投稿のためにその場でSNSアカウントを作ってくださる方もいて、年齢問わず幅広い訴求ができました。

アーティストやコンテンツの選定基準は?

 

: タッグを組むことで双方に価値があるかどうかです。デザイナーズブランドとコラボしたのも、「Zoff」の価格帯で多くの方にブランドの良さを伝えられると考えたからです。アーティストに関しても、フォロワーやCDの売り上げではなく、本人のアイデンティティが一番重要です。ビッケブランカさんは普段からライブで観客を楽しませるパフォーマンスやMCをしていて、彼なら絶対にブランドの価値を伝えていただけるという確信がありました。

 

三上: アーティストがただメガネをかけているのではなく、なぜ「Zoff」のメガネをかけているのかを説明できるというのは必要ですよね。

 

: そうなんです。実は、ビッケブランカさんは普段から「Zoff」をかけてくれていたんです。それがブッキングの決め手になりました(笑)。僕としても単なるタイアップにはしたくないという思いがあったのですが、お会いした時にブランドのことをすごく語ってくださったんです。実際にライブやSNSでも自然と啓蒙をしてくれて、そのまわりにいるファンまでもがSNSなどで拡散をしてくれて。

 

三上: ライブやフェスでも本人がかけていますし、MC中にメガネの話になったりもして。アイウェアはかけるだけでその人の印象を変えることができるので、様々な印象を訴求したいアーティストとメガネはかなり相性がいいんです。

「 Zoff Rock 2019」キービジュアル

理想的なプロモーションのあり方ですね。コラボ企画において、どのようなターゲットやKPIを定めましたか?

 

: フェスでサングラスをかけてくれるような10代後半から30代がターゲットです。また、アイウェアの購入キャンペーンとして500人規模の「Zoff Rock」のチケットを用意したので、その応募数は一つのKPIになりました。長期的にはイベントを通じて「Zoff」と音楽の関係性を訴求すること自体も重要なKPIですね。

 

実際にイベントを通じた反響はいかがでしたか。

 

: キャンペーンの応募数は昨年の倍以上でした。2年目ということで認知度が上がっているにしても、嬉しい結果でしたね。

 

三上: アーティスト側の反響で言えば、ビジュアルの認知度が上がったことです。ビッケブランカは今年「まっしろ」という曲が日本テレビ系列のドラマ「獣になれない私たち」の挿入歌になったこともあって、楽曲自体の認知度は上がっていたのですが、広告を通じて本人のビジュアルを訴求できたことは嬉しかったです。

メガネを作る待ち時間に、未知の音楽と出合うという新たな体験

「Zoff」は今年、音楽をテーマにした「Zoff グランド東京渋谷店」もオープンしました。この店舗はどんな位置付けですか?

 

: 同じ建物にライブハウスがあったり、近くにもたくさんのライブハウスがあって、渋谷のなかでもいろんなジャンルの音楽や人種が集まる立地にあります。地下にライブハウスができるということを知って、これは音楽を旗艦店のテーマにするしかないなと。サングラスの広告は春夏がメインなので、年間を通して「Zoff」と音楽の関係性を表現するプラットフォームとして、ファンとコミュニケーションをとりたいと考えました。

「 Zoff Rock 2019」ライブ中の様子

三上: アーティストからすれば、リアルな場の接点って意外と少ないんです。もちろんファンや音楽好きな方にとってはライブハウスやCDショップなどがありますが、この店舗はメガネを見に来る場所じゃないですか。そんな場所でうちのアーティストを紹介いただけるのはすごくありがたいことです。しかも毎月プレイリストを変えていて、新譜も流してくれるので、アーティストにとっても嬉しいことですよね。

 

: この場所はライブ待ちのお客さんが店の前に列をなすような特殊な立地です。だから、空き時間に少しでも音楽に触れてもらえたらいいなと思ったんです。また、メガネ屋ではメガネを作っている間の待ち時間が発生します。そこで店を出てしまうのではなく、音楽に触れてもらい、新しいメガネと一緒に知らなかった音楽に出合えたら、目も耳も豊かになるじゃないですか。私たちがメガネを通して新しいスタイルを提案するように、普段のプレイリストとは異なる新しい音楽をあえて聞いてみるとか、そんな店舗の可能性を感じたんです。これはリアルでしかできないことです。

Zoffグランド東京渋谷店内「Zoff Rock SOUND STATION」

店舗がオープンしてからの反響はいかがですか。

 

: 「Zoff Rock」を知らない人もまだたくさんいる中で、「なぜヘッドホンがメガネ屋に?」ということから接客につながったり、そこでお話をして「Zoff」のことやアーティストのことを知ってもらい、継続的な関係性が生まれるなど、すでに効果を感じています。実はここの店長も普段下北沢でDJをするなど音楽に詳しい人で、彼も含めて、音楽と距離の近い店舗をこれから維持していきたいと思います。

 

三上: 僕もお客としてお店に行ってみたんですが、ショップスタッフがアーティストのことを説明してくれて、聞けばそうやって音楽に興味を持つ方も多いようで、非常にありがたいと思いました。僕からすれば「Zoff」はもはやメガネ屋ではなく、情報の発信地だと思っています。

 

最後に、今後のコラボレーションの計画を教えてください。

 

: こうした取り組みを継続する中で、会社のカルチャーが根付いていくんだということを音楽を通して知りました。今後もライブのプレミアム感自体は維持しつつ、いろんな方に音楽を通じて「Zoff」のファンになってもらえるようにコラボを続けていきたいと思っています。店舗に関しても、まずはグランド東京渋谷店でいろんな楽しみ方、音楽の聴き方を提案しながら、ゆくゆくは他の店舗にも拡大していけたらいいなと思います。

まとめ

 ブランドの世界観をきちんと理解するアーティストを広告に起用することで、ブランドの本当の良さがファンを通して自然と広がるというのは、プロモーションのもっとも理想的なあり方でしょう。背景には、音楽好きな東さんが足繁くライブに通う中で感覚の合うアーティストに出会えたという必然性もあります。店舗に目を向けると「メガネを作る待ち時間に新しい音楽と出合える可能性がある」という購買体験は「ECや他社ではなく、Zoffグランド東京渋谷店で買う」という十分な理由になると感じました。アイウェアをファッションアイテムとして大衆化することに挑戦してきた「Zoff」という企業だからこそ、経営層レベルでカルチャーやアーティストへの理解を持っており、企画を全面支援してくれたという企業体質がプロモーションの成功には大きく影響しているのではないでしょうか。

アパレルウェブ「AIR VOL. 29」(2019年11月発刊)より

 

 


■AIR(APPARELWEB INNOVATION REPORT)とは…

 

 アパレルウェブが持つマーケティングプラットフォームに蓄積されたビッグデータやメディアのログなどから導いた独自データや分析結果、海外のファッションビジネスにおけるテクノロジー導入事例など、ファッションビジネスにおいて即効性のあるレポートを定期的に提供しています。

メールマガジン登録