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2020.03.23
【インタビュー】創立20周年を迎えるラグジュアリー オンラインリテーラー「ユークス(YOOX)」が考えるサステナビリティと今後の戦略とは
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「ヴォーグ・ユークス・チャレンジ」のローンチイベント会場の様子
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(左から)Federico Marchetti、Anna Wintour、Emanuele Farneti
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(左から)Emanuele Farneti、Sara Sozzani Maino、Federico Marchetti
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Coco Rocha
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Eva Herzigova
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Amber Valletta
当時はまだまだEコマース後進国だったイタリアにおいて画期的な形で2000年にローンチした、ヨーロッパ初のラグジュアリーオンラインリテーラー「ユークス(YOOX)」。2015年には英国を拠点とする「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」と合併して「ユークス・ネッタポルテ・グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP)」となり、2018年にはリシュモングループの傘下となってより国際的にビジネスを広げた。そして現在では世界最大級オンラインリテーラーとなっている。
同社の強みのひとつとして、スペシャルエディションやリミテッドエディション、コラボ企画や同社主催のコンクールなど、そのオリジナリティ溢れた企画力があげられるが、先のミラノファッションウイーク中には新たに、ファッション誌「ヴォーグ」とのコラボレーションによる新プロジェクト「ヴォーグ・ユークス・チャレンジ(VOGUE YOOX CHALLENGE)」を発表した。このプロジェクトは、専門家たちによって選出された10名のファイナリストが今年9月のミラノファッションウィーク中にプレゼンテーションを行ない、その結果、優勝者には流通、コミュニケーション、メンタリングにおけるユークスとヴォーグイタリアによる継続的な支援が受けられるほか、プロジェクト実施費用として5万ユーロが授与されるというものだ。
そこで、同社ファッション部門プレジデントのパオロ・マッシオ氏に、新プロジェクトの話からこれらの企画がもたらす効果、そしてライバル企業と差別化や将来への展望など様々なお話を聞いた。
「ヴォーグ・ユークス・チャレンジ」のロゴ
2009年からすでにサステナビリティの取り組みを展開
「『ヴォーグ・ユークス・チャレンジ』は、サステナブルなアプローチに投資するデザイナーやクリエイター、スタートアップ企業を支援する目的で生まれました。このサポートに寄ってより良い未来の基盤を築くと同時に、テキスタイルおよびファッションシステムの認知度向上に貢献したいと考えています。ただ、YOOXとヴォーグイタリアはすでに2011年からこのようなアップカミングなデザイナー達のサポートに力を入れており、今回の企画はこれまでの9年の実績の進化形と言えます。若いデザイナーやスタートアップ企業たちをサポートすることが、現在の問題解決や革新に繋がるのです。なぜなら彼らこそが明日のファッションを担っているのですから」。
タレントスカウトもさることながら、実は同社はかなり早い時期から、サステナビリティの取り組みにも力を入れていた。それは2009年に始まった「ユークシジェン(YOOXYGEN)」というプロジェクトに遡る。これはエコプロダクツを集めたスペシャルエリアを同サイト内にオープンしたり、デリバリーの際の二酸化炭素排出を補う活動など、人間の活動が環境に及ぼす影響を補うことを目指したプロジェクトだ。またさらに近年では「ザ・ネクスト・グリーン・タレンツ(THE NEXT GREEN TALENTS)」という、サスティナビリティをテーマとした新進気鋭デザイナーのコレクション発表のサポートを行い、それを「ユークシジェン」のカテゴリーにて世界100ヶ国以上で発売している。
サステナビリティからカスタマイゼーションまで時代を先駆
マッシオ氏は続ける。「『ユークシジェン』を始めた当時は、まだエコという考えはトレンドではありませんでしたが、顧客のリクエストからこの企画は生まれました。以来、我々はサステナビリティという考えに強く興味を持ち、常に前向きにアプローチを進めてきました。現在ではその流れは広がり、多くの企業が製造やサービスにおいてサステナビリティのために尽力しています。特にファッションにおいてはサプライチェーンにおいてクリアであること、そして地球へのダメージが少ない素材作りを目標にすべきだと考えています」。
このように常に新しいムーブメントの先陣を切ってきたYOOXだが、後発の多くの競合サイトの出現で、今やマーケットは飽和状態とも言える。他社との差別化については、業界の先駆者はどう考えているのか。
「YOOXは常に顧客第一を貫いてきました。顧客の意見に耳を傾け、顧客を取り巻く状況すべてにおいてきめ細かいサービスを構築してきたことが、長年にわたって競合他社より優位性を保っているのだろうと考えます。そのためにイノベーションとカスタマイズには特に力を入れています。例えば仮想スタイリングができるアプリ『ユークス・ミラー(YOOXMIRROR)』。この革命的な方法により顧客は3Dアバターとやり取りでき、ショッピング体験のパーソナライズ度が向上しました。またAIを介して、すぐにホームページを刷新し、各顧客の好みや購入習慣に基づいてカスタマイズされたバージョンにアクセスできるようにしています。
今後の戦略の軸はZ世代顧客の獲得とサステナビリティの強化
プライベートレーベルの「8 by YOOX」のビジュアル
さらにファッション、デザイン、アートにおいてどこよりも豊富な選択肢を揃えていること。前出の『ユークシジェン』やプライベートレーベルの『8 by YOOX』などオリジナルなラインもあります。テクノロジーへの投資だけでなく、それを顧客へのユニークなサービスに活かすことがYOOXのDNAなのです」。
顧客へのパーソナルなケアやサービスなど以前はリアル店舗が強みとしていた点を補い、オンラインだからこそできる幅広い選択肢の提供や、小規模での実験的な企画モノの展開を行う・・・そんな姿勢を変えずにアップデートしてきたところにYOOXが業界のトップを走り続ける理由がありそうだ。今年は20周年を迎えるYOOX。今後は、特にジェネレーションZなどの新しいターゲットの獲得、よりエスクルーシブなオリジナルの企画、そしてさらなるサステナビリティの強化など、攻めの姿勢を極めていく様子だ。
取材・テキスト by Miki Tanaka
Paolo Mascio
パオロ・マッシオ
ミラノ・ボッコーニ大学卒業後、クラフト、コカ・コーラなどの多国籍企業にて消費者商品マーケティングに携わる。エスプレッソグループのマーケティングディレクター、マンダリナダックのインターナショナルリテールディレクターを経て、2009年にYOOXに入社。社内での様々な役職を経て、現在はファッション部門プレジデント。