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2020.03.04

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.63】タイムレスとオリジンの調和 2020-21年秋冬ニューヨーク&ロンドンコレクション

(左から)MARC JACOBS、COACH、BURBERRY、MM6 Maison Margiela

 2020-21年秋冬シーズンのトレンドを占う世界4大コレクションのうち、ニューヨーク・ファッションウィーク(2020年2月7~12日)とロンドン・ファッションウィーク(2020年2月14~18日)では、ノスタルジーとミニマルの傾向が前シーズンからの勢いを保った。サステナビリティーの大波にも目配りして、長く着てもらえる服づくりにシフト。全体にタイムレスでクラシックなムードの中に、現代的な着心地のよさや、それぞれのオリジン・持ち味を盛り込んでいる。

■NYコレクション

◆マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)

 「マーク ジェイコブス」はこれまでに比べ、抑制を利かせた、ミニマル寄りの装いを打ち出した。軸に据えられたのは、無地のセットアップ。1960年代の雰囲気を帯びた、ノスタルジックなたたずまい。紳士服風ではない、きちんと顔のジャケットが古風な着姿に導いた。

 

 パステルトーンのピンクやイエロー、ブルーが繰り返し用いられ、どこか懐かしいムードを醸し出した。Aラインのコートも、ジャクリーン・ケネディに通じる、クラシカルで正統派の着映え。“カオスとフォーム”というテーマに沿って、ほのかなずれ感を帯びながら、全体はテイストを統一。エイジレスでタイムレスなコレクションに仕上げた。

◆ザ・ロウ(THE ROW)

 「ザ・ロウ」はこれまで以上にシックでタイムレスな装いにまとめた。ミニマルに向かうのは世界的な流れだが、無機質な見え具合は避けて、コンフォートでありつつ、穏やかなムードを漂わせている。スーツ、セットアップの幅を広げ、テーラードウエアの表現力を高めた。ベストの代わりに、同じ色味・質感のロング丈コートやシャツを組み込んだ、新タイプのスリーピースは三つぞろいの表情を深くしている。

 

 ロング丈コートを生かした、流れ落ちるようなシルエットはスレンダーでしなやか。キーピースに選んだハイネックも縦長イメージを増幅。統一感を高めながらも、印象はソフトで伸びやか。黒、グレー、ベージュなどのベーシックカラーを多用して、着映えを落ち着かせている。胸の高さに抱えた、大きめのクラッチバッグがボディの細感を引き出した。髪をタイトに包み込むヘッドピースはジェンダーニュートラル感を強めていた。

◆マイケル・コース コレクション(Michael Kors Collection)

 ポンチョやケープといった、クラシカルなアウターを押し出したのは「マイケル・コース コレクション」。カントリー気分と都会的エレガンスを響き合わせる提案だ。タイムレスやエイジレスという、今回のNYの主題を象徴するかのような構成。ブランケット(毛布)風の羽織り物でAラインをこしらえる造型が朗らかで伸びやかなシルエットを生んだ。ナチュラルテイストやリラクシング志向にもマッチした装いだ。

 

 ケーブルニットのセーターはジャケットやマフラーまで組み込んだようなユーティリティーウエア。上質な素材感でニットルックを格上げしている。シャーリングを施したほっこりエコファーのアウターは穏やかな着映え。アメリカの別荘ライフを思わせる、飾り立てないラグジュアリーを新たな軸に据えている。足元にはライディングブーツを迎えて、アクティブ感も添えた。

◆コーチ(COACH)

 「コーチ」はレザーをキーマテリアルに選んで、ポップなカラーパレットの若々しい装いをそろえた。ブランドのヘリテージ素材である革の表情を生かして、異素材レイヤードを組み立てている。レッド、グリーン、イエロー、ブルーといったヴィヴィッドカラーでレザーを染め上げ、楽観的な気分をまとわせた。複数の色をパーツごとに変えて、カラーブロッキングのポジティブな着映えに仕上げている。多くのモデルがかぶったニット帽も朗らかなムードを添えた。

 

 レザー仕立てのキュロットパンツでクールでアクティブに。トレンチコートは様々なバリエーションを見せた。足元はカラフルなソックスで彩り、スニーカーとローファーで軽快に仕上げている。モチーフではマルチカラーのストライプで勢いを乗せた。NYの代用的なポップアーティスト、ジャン=ミシェル・バスキアとのコラボレーションが実現。バスキアの抽象的モチーフが随所にあしらわれた。全体にクラシカルでありつつ、ミレニアル世代への目配りが感じられるコレクションにまとめ上げられていた。

■ロンドンコレクション

◆バーバリー(BURBERRY)

 「バーバリー」はヘリテージを重んじつつ、カルチャーミックス感を深めた。アイコンのトレンチコートは襟まわりにエコファーをあしらったり、オフショルダーのドレスライクに仕立てたりと、幅を広げた。シンボル的なチェック柄もふんだんに取り入れている。リカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)の個人的な思い出を写し込んだコレクションだけに、自らのブランド立ち上げを準備したインド由来のマドラスチェックも織り交ぜた。

 

 ケープやポンチョを使って立体感を強めた。ベージュやブラウンを軸に据えて、穏やかな着映えに誘った。英国流テイラードでパンツスーツを仕立て、ウィメンズにもスリーピースを持ち込んだ。ワンピースの上からロングスカーフを巻いたドレープが布の起伏で優美なムードを漂わせている。ボーダー柄ネックウエアやラグビーシャツが若々しい。カットアウトを組み込んだ、複雑なレイヤードも試した。

◆JW アンダーソン(JW ANDERSON)

 装飾を抑えるミニマル化が広がる中、「JW アンダーソン」はフォルムと素材で「遊び」を盛り込んだ。コートはコクーン風のボリュームを持たせ、朗らかに仕上げた。スカートもバルーン状に膨らませている。優美な裾広がりラインを描くコートにはスーパー大襟をあしらい、ビッグシルエットをさらに弾ませた。別色のケープはアウターと一体化させている。

 

 襟と肩をふわふわ素材で雲のような見え具合に飾り、量感を高めた。メタリック素材がレトロなつやめきを添えた。エドワーディアン調を思わせるパフィな肩周りも古風なテイストを帯びている。クラシックな雰囲気と実験的クリエーションが入り交じり、100年をまたいだ英国らしい装いに、程よい楽観をまとわせていた。

◆アーデム(ERDEM)

 シャイニーなつやめきを押し出したのは、歴史的な服飾コードをモダンに読み換えるのが得意な「アーデム」。アールデコ調の装飾を100年隔ててよみがえらせた。淡い緑味を帯びたシルバーをキーカラーに据えて、まばゆいドレスを送り出した。サテン系のグラマラスなドレスはミニマル志向にあらがうかのようだ。

 

 モチーフの主役は花柄とチェス盤模様。メタリックな生地を多用して、ノスタルジックな雰囲気のドレスを仕立てた。ディテールにも凝って、輪っか状のネックウエアやボリューミーなロンググローブで、古風な貴婦人ルックに整えている。花柄は刺繍で仕上げ、グロッシーな布地と響き合わせた。ドレスの上からカマーバンドを巻く演出はジェンダーミックスを印象づけていた。

◆エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela)

 サステナビリティーがモードの合い言葉になる中、「エムエム6 メゾン マルジェラ」は循環システムの象徴とも言える「サークル(円形)」にフォーカスを合わせた。サーキュラースカートをはじめ、ジャケットやワンピース、バッグなど、大半のアイテムに丸形モチーフを採用した。曲線を描く裾形がユーモラスなムードを呼び込んだ。

 

 シルエットはオーバーサイズを押し出した。着余った見え具合のおかげで、自然な細感が生まれている。モチーフではゼブラプリントで動きを強調している。アウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」とのコラボレーションラインはパフィなパッデッドジャケットが主役。ビッグシルエットと相まってファニーで楽観的な着映えに仕上がっていた。

 

 

 ニューヨークとロンドンに共通しているのは、ミニマル志向の強まりを受けて、装飾を控えながらも、ブランドやクリエイターの「軸」を再確認する取り組みだ。目先の流行を追わない、丁寧な服作りはサステナビリティーの潮流ともマッチする。コンフォートやユーティリティーといった、ここ数シーズンの「裏トレンド」も織り交ぜる形で全体にアバンギャルド感は薄まったが、ディテールや素材面でのオリジナリティーを丁寧に盛り込むクリエーションが目立った。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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