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2020.03.03

関西の商業施設で取り組む“非物販”への試み

天王寺ミオのハロウインイベントの様子

 特定の商業施設にスポットを当て、物販を主体にご紹介することが多いが、今回は“非物販”を取り上げる。服が売れなくなっていると言われて久しいアパレル業界。商業施設でも、希少性の高い商材を導入する、あるいは品揃えの幅を広げるなど様々な強化策が試みられている。その中の典型例が、販促――ワークショップやイベントなどだろう。顧客参加型の“催し”で、館のファンになってもらおうという試みだ。

目的は来館頻度を高めること

 過去、実際に取材した商業施設に限られるが、思いつく限りの事例を取り上げたいと思う。“非物販”への取り組みは、なかなか売り上げに直結することがないため、消極的な施設が大勢をしめているのも事実。しかし、モノが売れにくくなっている昨今――デフレ傾向も続いている中で、背に腹は替えられない面があるのも事実だろう。

 

 非物販(販促)の目的は、来館頻度を高めることに尽きると思う。取材した商業施設の方々が異口同音に話されていたことである。館のファンを増やす、顧客を増やすという面もあるだろう。出店するテナント絡み、イベントで集客を促す企画、ポイント付与の増加など、その切り口は多様である。

 

 大阪・梅田のグランフロント大阪では、ワークショップを開催している。北館など常設のイベントスペースがある点も強みで、「催事で来館を促進させる」ことが館のコンセプトの1つにもなっている。「1つの街をつくる」という大きな施設コンセプトがあるグランフロント大阪。北館上層階のナレッジキャピタルにはイベントスペースや貸事務所があり、一般ユーザーだけでなく、BtoB的なビジネスパーソンのニーズも取り込んでいる。こうした利用者が仕事の合間や行き帰りに、飲食や買い物をするという流れだ。

 

 JR大阪駅に隣接する「ルクア イーレ」では、出店するテナントを絡めたワークショップを定期的に開催している。メイク教室、小物制作など、リピーターの関心を誘う内容だ。JR天王寺駅に直結する「天王寺ミオ」では、常時ワークショップを開催している。その内容はフラワー系アレンジ、リラクゼーション&ビューティー、クラフト系、カルチャー、グルメなど、豊富だ。10年以上、継続している定番イベントである。

地元の特色を活かした取り組み

エキスポシティ。施設中央のイベントスペース

 大阪万博の開催地、エキスポランドの跡地に三井不動産が開発した「エキスポシティ」では、毎週火曜日にワークショップを開催している。フラワーアレンジメント、靴磨き教室など、出店するテナントと協業した内容が多い。また同施設の近くには、サッカーのJリーグのクラブチーム「ガンバ大阪」のホームスタジアムがある。施設外中央のスペースを活用し、週末を中心に、チームに所属する選手を招いてサッカー教室も開催したこともある。青空の下で実施する「青空ヨガ」も開催した。そのほか、同地域にある「国立民族学博物館」の研究員を招き、民族学の講座を開くなど、イベント内容にも独自性を採り入れている。

 

 神戸・三ノ宮のファッションビル「ミント神戸」では、月に2回程度、コンサートやストリートライブを開催している。文化の発信基地として位置付ける施設のコンセプト、価値観を知ってもらおうという試みだ。

“体験”を売るケースも

阪急うめだ本店1階の「バッグ アトリエ」

 少し販促という捉え方とは異なるだろうが、効果が表われているのでご紹介する。京都・三条の老舗ファッションビル「京都BAL」だ。1970年の創業で、2015年に建て替えリニューアルオープンした施設で、上質なショッピング体験の提供、に軸足を置く。若手アーティストの作品を店内に展示した「スターバックス」は典型事例で、ここだけにしなかい価値観を提供することを重視する。最も優先していることは、「いかに来館してもらうか」。個性的なテナントがソフトの一面=販促の要素を持つことがある事例である。

 

 体験型で来館頻度を高める、売り上げにつなげる取り組みもある。阪急うめだ本店のバッグ売場では、自分だけのカスタムしたバッグを作ることができる。協力しているのが、1-2階に店舗を構えるラグジュアリーブランドである点が強みだ。1階フロアには「バッグ アトリエ」を設け、そこでカスタムバッグを職人が仕上げる。モノ・コト・場が融合した成功事例だろう。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

 

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