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2020.02.26

【連載―ファッション×○○業界に学ぶ】真のオタクの“熱量”に向けたバロックジャパンリミテッド本気の共同企画

アパレルウェブ「AIR VOL. 28」(2019年10月発刊)より

 

編集:福塚真一郎(アパレルウェブ)
編集協力 編集:株式会社ロースター/文:角田貴広/撮影:栗原大輔(ロースター)

 「MOUSSY(マウジー)」や「SLY(スライ)」など、幅広い女性顧客に人気のバロックジャパンリミテッドが2018年、ファッションとアニメの融合ブランド「R4G(アールフォージー)」をローンチしました。アニメキャラクターのイラストを用いたシンプルなコラボアイテムにとどまらず、アニメの世界観からインスピレーションを得たアパレルらしいアイテムが並びます。

 

 実はこれ、同社が開催した次世代コンテンツ開発プロジェクト「NEXT IS YOU」のビシネスプラン部門で優勝した企画を事業化したもの。これまで「コードギアス 反逆のルルーシュ」を皮切りに「BE@RBRICK」といったキャラクター、バーチャル・シンガー「初音ミク」、「ラブライブ!サンシャイン!!」、最近ではTVアニメ「進撃の巨人」などコラボ先は多岐にわたります。異業種コラボを前提とした一風変わったブランドとも思える「R4G」はどのような流れで生まれたのでしょうか。「R4G」生みの親・丸谷広幸ブランドプロデューサーにお話を伺いました。

ポイント:アパレルの知見を生かしながら、真のアニメファンをターゲットにした本気のモノづくりに挑戦
狙い:既存の物販アイテムとは異なる、アパレル視点でのコラボアイテムという市場を開拓した
効果:コラボするアニメごとに異なる、新しい顧客の“熱量”に響く商品が生まれた

株式会社バロックジャパンリミテッド
R4Gブランドプロデューサー
丸谷広幸氏

「R4G」はどのようなきっかけで生まれたのですか?

 

丸谷氏:会社では最初隠していたのですが、実は自分自身がアイドルオタクだったんです(笑)。ずっと何か新しいことをやりたいと思っている中で、オタクの熱量をひしひしと感じていたので、その熱量に対してアパレルを通じて何かできないかと漠然と考えていました。そんな中で、アイドルイベントなどの物販アイテムを見ていると、生地感やボディ、デザインなどにこだわることで、もっといいものが作れるんじゃないかと感じました。「R4G」がローンチする4年ほど前から構想をはじめ、2年ほどリサーチをしたタイミングで弊社の会社で「NEXT IS YOU」という新規事業を立ち上げる大会がありました。そこに、応募をしてグランプリを受賞しました。そこからブランドがスタートしました。

 

オタクの熱量に響くような、もっといいものを作りたいと。

 

丸谷氏:そうです。オタクブランドを確立していきたいという気持ちがありましたし、時代的にもちょうどアニメという文化が大きくなってきた時期だったので、まずはアニメに絞って企画を練りました。そもそも、オタクの人たちって、好きなキャラクターの洋服を着たいのに、まわりの目を気にして、外では物販アイテムをなかなか身につけないんです。外に着ていけない洋服に違和感を感じていたという背景もあります。

 

アイテムは具体的にどのような工程で作られるのでしょうか。

 

丸谷氏:どんなアイテムを作るのかが想像しやすいように、ある程度のラフ画や企画書をこちらで作ってコラボ先に提案をします。そこで承諾をしていただけたら、このアニメの、どのイラストや場面を使って商品に落とし込むのかを具体的に話し合う流れです。ある程度の型数など、MDを私が決めて、その先のデザインやクリエイティブな所は、現在NYでマルチクリエイターとして活躍されているファンタジスタ歌磨呂さんに依頼をしています。そしてコラボ先の監修のもと、チェックを繰り返しながら、生産に移ってゆきます。

 

通常のアパレルの生産と異なる点はありますか。

 

丸谷氏:コラボ先のチェックを何度も経て生産に入るので、少し時間がかかるというところでしょうか。シーズンアイテムは少なく、通年着用しやすいTシャツやパーカーなどがメインです。アニメの契約自体が通常1年なので、春夏・秋冬物という概念がなく、シーズンに縛られない商品提案ができるのは魅力のひとつです。

 

コラボ先はどのようにして選定するのですか。

 

丸谷氏:「コードギアス 反逆のルルーシュ」とのコラボが一番最初だったのですが、偶然社内にバンダイさんとつながりのある社員がいて、話をしてくれたんです。そうしたら非常に興味を持っていただき、コラボが実現しました。その次の「シュタインズ・ゲート ゼロ」では、初回コラボのイベントを「東京ガールズコレクション」でおこなった際に見ていただいた版元の方から連絡があったんです。その後も、新しいコラボ先を紹介していただいたり、ゲーム業界からも打診をいただいたりと、逆オファーがほとんどです。ほんとうにご縁でしかありません。基本的にぼくは断らないタイプで、頂いたお話は全力で形にします、というスタンスでいます(笑)。

 

コラボ先の企業からはどんな要望があるのでしょうか?

 

丸谷氏:アニメ業界でも、物販のアイテムが代わり映えをしないという課題を感じているようです。また、弊社が抱える顧客層との接点が生まれるというのも魅力に感じていただけるようです。アパレルとアニメのコラボはたまに目にしますが、どうしても両者のイメージがあるのでぶつかる事も多いと聞きます。R4Gは誰に商品提供するか明確なので50:50の立場で進めています。コラボ先からの要望は基本聞いて、どうにか形にしていくという姿勢ですね。

想定と異なる顧客層から、ブランドの可能性を見出した

「ラブライブ!サンシャイン!!」とコラボレーション
©︎2017 プロジェクト ラブライブ!サンシャイン!!

販売開始から1年が経って、売れ行きや反響はいかがですか。

 

丸谷氏:悪くないと思います。最初はECメインで販売をしようと考えていたのですが、1年ブランドを運営してみて、オンラインの限界をすごく感じています。というのも、バロックジャパンリミテッドの既存顧客とはターゲットが異なるだけに、集客における頼みの綱はアニメの公式SNSアカウントからの流入なんです。オフラインでの接点が増えれば、もっと熱量を届けられるんじゃないかと思っています。

 

確かに、これまでのバロックジャパンリミテッドのブランドとは毛色が異なるブランドですよね。社内の他ブランドとの相互作用などはありましたか?

 

丸谷氏:社内で完全に孤立しているブランドなので、非常に自由にやらせてもらっています。ただ、他のブランドからファッショントレンドなどは学ぶようにしています。アニメばかり見ていると、ファッションのことがわからなくなるので(笑)。

 

当初想定したターゲットには届いていますか?

 

丸谷氏:当初想定したターゲットとは相当ターゲットは変わっています。最初はアパレル企業らしく、20代~30代という漠然としたターゲットを想定していたのですが、全然違ったんです。

 

なぜ、顧客層が想定と異なったのでしょう?

 

丸谷氏:最初はアニメが好きな人であれば買ってくれるだろうと思っていたんです。まずは渋谷にいるトレンドに敏感でアニメにも興味がある子たちをターゲットにしたのですが、これが全然刺さらなくて。こうした人たちはアニメ自体が好きというよりも、デザインから入ってアニメとのコラボをファッションとして取り入れたり、誰かが着ていたという理由で購入したりするんです。

 

「R4G」が狙うのは、そこではなかったと。

 

丸谷氏:はい。結果として購入いただくのは、真のアニメファンでした。そこで、ファンに向けて本気で響くものを作らなければいけないと確信したんです。おしゃれという基準で洋服を作るのではなく、どんなシーンのどんなカットをアイテムに取り入れるのかなどファンの方々に「作り手はアニメのことをわかっているな」と思われなければ、絶対に買ってくれません。ある種ファンの方々との真剣勝負の場でもあると感じています。だから、本気で考えぬいたアイテムに、アパレル企業としてのサイズ感や素材、デザインなどの知見をプラスして、他には真似できないクオリティの商品を作ることを心がけています。そこまですることで、好きなキャラクターと堂々と外で歩ける洋服を目指しています。

「初音ミク」とのコラボレーション
©CFM/©Fantasista Utamaro

ちなみに、これまでで一番反響があったコラボを教えていただけますか?

 

丸谷氏:「ラブライブ!サンシャイン!!」と「ヒプノシスマイク」ですね。アニメのファンがそのままアイテムのファンとなります。だから、「R4G」としてのブランドのファンはいなくて、コラボごとに顧客層が違うんです。基本的にはユニセックスを意識したアイテムを用意しますが、「ラブライブ!サンシャイン!!」の顧客は85%男性、「ヒプノシスマイク」では90%以上が女性です。

 

来年には東京オリンピック・パラリンピックを控えてますが、日本のアニメが海外から高く評価されている現状を考えると旅行客にも響きそうですね。

 

丸谷氏:日本のアニメ文化は世界から認められているので、インバウンド訴求は積極的にやっていきたいと考えています。インバウンドの効果は買ってもらうだけではなく、買ったお客さんが海外で広めてくれるところも期待しています。実は、すでに海外にも進出しています。海外で開催された(初音ミクのイベント)「MIKU EXPO」のテーマソングをファンタジスタ歌麻呂さんがディレクションしたんです。それに合わせて、ミュージックビデオに登場した洋服を実際に作って販売したところ、好調な売れ行きでした。

 

では、最後に今後の展望について教えてください。

 

丸谷氏:こちらの熱量を伝えるのはオンラインだけでは限界があります。オフラインの中で、共通の趣味、嗜好をもつショップスタッフが、こちらの熱量を伝えることで、ファンの方々もさらに満足して、商品を買ってくれるのではないかと思ったからです。そのためにアンテナショップのような形で実店舗を構えたいと思っています。また、ブランドとしての色がない分、なんでもできるブランドだと自負しています。だから、極端に言えばスーツみたいに、それは作らないだろうと思われているアイテムも作りたいですし、アパレル業界における異端児でいたいなと。「R4G」自体が「RESPECT FOR GEEKS」の略語で、そもそも“オタク”に向けたブランドですので、コラボ先もアニメやゲームに限らず、いろんな業界へ飛び込んでいきたいと思います。

まとめ

 

 単発でアニメとコラボしたアイテムを販売するブランドは多いですが、さまざまなアニメとのコラボを前提とした“プラットフォーム”のようなブランドは非常に珍しいケース。しかも、これまでトレンド性の高いガールズアパレルを扱ってきたバロックジャパンリミテッドがやるというから驚きです。既存顧客ではない真のオタクの“熱量”に響くアイテムを作ることは簡単ではありませんが、バロックジャパンリミテッドの知見を生かしながら、アニメに限らずにあらゆる分野に存在するオタクの“熱量”に答えていく。そんな色のないブランドの存在から、アパレル業界として学ぶことは多いのではないでしょうか。

アパレルウェブ「AIR VOL. 28」(2019年10月発刊)より

 

 


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