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2020.02.26
時代に柔軟であること、良い意味で優柔不断に挑んでいきたい――「LIDNM」ディレクターげんじ氏インタビュー
※本記事はencoremode より転載しております。
ファッションユーチューバーとして約56万人のチャンネル登録者数を抱えるげんじさんがディレクションを手掛けるアパレルブランド「LIDNM(リドム)」。「YouTube(ユーチューブ)」を始めた背景からブランド立ち上げまでの経緯、50%を下回ることがない商品原価率のことやリドムが目指す未来について話しを聞いた。
ゲストスピーカー
げんじ(左)
株式会社LIDnM CEO・ファッションユーチューバー・「LIDNM」ディレクター。日本最大のファッションアプリウェアの公式ユーザーでファッションジャンルのユーチューバーの先駆者。現在SNSの総フォロワー数は約150万人を誇る。2017年に自身が手掛けるリドムをスタート。
モデレーター
encoremodeコントリビューティングエディター 久保雅裕(右)
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。
動画は嘘がつけない。でもわかりやすく紹介することができる
――ユーチューブを始めたきっかけを教えてください。
「今から5年ほど前にファッションコーディネートアプリ”WEAR(ウェア)”を始めました。日本中がおしゃれになって欲しいという気持ちから自分の好きなスタイルを発信していく中で、公式ユーザーとして日本一のウェアリスタに選んでいただきました。その最中、友達の誘いから2016年にユーチューブチャンネルを開設しました」
――当初からユーチューブでもファッションについて紹介をされていたのですか。
「僕がユーチューブを始めた頃、ファッションジャンルについて紹介をしている方が少なく、すべて手探り状態でした。メイクやコスメ、その日食べた物なんかを投稿されている動画から特徴や手法を徹底的に研究してファッションに置き換えていきました。そこから実際に買った服の紹介やコーディネートを自分なりに紹介し始めました」
――ウェアと同じようなコーディネート提案をされていたのですね。
「写真と動画はまったく違います。写真は正直いくらでも加工できますが、動画は嘘がつけない。だからこそわかりやすくモノを紹介することができるんですよね。例えば、地方に住んでいて通販でしか好きな洋服を買えない人にとって動画は親切なツールなんですよ。写真からでは分からない細かなディテールや素材の肌触り、さらにそのアイテムをどのようにコーディネートすると良いかを丁寧に伝えるようにしています。コーディネートまで提案ができる動画は、接客に近い感覚だと思っています」
――今のSNSのフォロワー数やユーチューブのチャンネル登録者数を教えてください。
「ユーチューブのチャンネル登録者数は56.2万人で、ウェアは67万人です。インスタグラムやツイッターなどすべて合わせると約150万人ほどフォローいただいています(2019年12月末時点)」
――圧倒的なフォロワー数を抱えるげんじさんには、アパレルブランドからのPR依頼も多いのでは?
「そうですね、始めて1~2年で増えていきました。でも依頼を受けるかどうかには、自分なりの判断基準を設けています。僕がそのブランドを好きであること、フォロワーやユーザーとテイストが合うかですね」
――SNSのビジネス投稿は、PRと記載しないとコンプライアンス上問題があるとされていますが、ユーチューブも同じですか。
「自分は100%、説明欄に”提供・ブランド名”を入れて投稿しています。決まりはあるようでなく、インスタグラマーの方はハッシュタグにPRを付けない方も多いですね。でもそれは情報に嘘が混じるといいますか、少し問題だと思っていて。どの発信がクリエイターにとって本当に良いと思っているものなのか見えにくいですよね。結局、”ネットの情報がすべて嘘みたいだね”と思われてしまいますし。遠く離れた場所にいる方でも通販で好きなものが購入できるこの環境は絶対に必要なはず。それなのにネット社会自体が疑い深い場所になると本質的に欲しいモノが購入できない。”提供”もしくは”PR”の表記はマストだと自分は考えています」
――現実的には、SNSだけで生計を立てる方も多くいますよね。
「ユーチューブは投稿に対して報酬が発生しますが、インスタグラムなどのSNSツールは、案件による報酬成果ですので、発信のパワーバランスは違います。今後求められるのは、PRに依存しないインフルエンス能力だと思います。まだまだ新しいビジネスの仕組みですので整備されていないことも多いですね」
――その中で、げんじさんは自分で服を作っていこうと思われた。
「ブランド自体は、PRを始める前にスタートしています。当初は実際に好きで買ったアイテムを紹介していましたが、フォロワーの皆さんからげんじのファッションブランドが見たいという声を多くいただいていたこともあって、2017年にリドムをスタートしました」
情報だけでなく、カタチにして社会に発信していく
――新しいチャレンジに突き進む原動力は何ですか。
「ありがたいことにユーチューブはどんどん視聴者も増え規模は大きくなっています。ただ、SNSだけだと発信には限界があります。僕が作る服を着たいというリクエストに応えたいだけでなく、動画を見ていないときも自分が作った服を着ていろいろな時間を過ごして欲しいですし、僕のブランドの服で皆さんに自信を与えたいと思うようになりました。今は、大手企業でアパレルデザインを手掛けてきたデザイナーさんとタッグを組んでリドムの物作りを進めています」
――売り方はDtoC、基本はECで売り上げを作っているわけですね。
「ユーチューブからの流入は大きく、ネットをビジネスのフィールドにしている自分にとってDtoCの売り方は自然な流れでした。いつかは実店舗を持つのかなとか、ZOZOTOWNに出店するかなと思っていましたが、想像以上に自社のオンラインストアで購入いただけている。ユーチューブを通して10分間の動画で何万人もの方へのアプローチが可能ですし、無限の可能性に未来を感じます」
――流入経由はやはりユーチューブからが多いですか。
「約65%がユーチューブからのお客様です。他は、自社SNSのLINEやインスタグラム、メルマガなど」
――リドムは原価率が高いとお伺いしました。
「そうですね、50%を切っているものはありません。無駄なコストは省き、かけるところはかけていきたい。実店舗を構えるとコストがかかりますし、予測できずに在庫を持つということは厳しいですよね」
――今はサンプルアップしてから、ユーチューブで告知しているのですか。
「リドムは、はっきりとチームの役割分担をしています。今の時代、良いものを作ったとしても伝える能力と広める力がないとだめだと思っていて、それを担うのが僕の役目だと思っています。例えばトップスのアーム部分を広くしたデザインについて説明するとなると、オンラインストアによくあるテキスト一文”アーム部分にゆとりを持たせました”だけだと伝わらない。僕はデザインの理由について細かく身振り手振りで説明をします。”1、トレンド・2、女子受けがいいから・3、動きやすい”など。誰でもできる発信じゃなく、常にどうやったら皆さんにわかりやすく伝えることができるのかを考えています」
――ユーザーの反応次第で生産数やデザイン変更もありえますか?
「商品について多少の調整はできますが、ほかのアパレルブランドと大きくは違いません。SNSのリアルな情報である程度の予測はできますので、リードタイムを調整できたりと効率アップは目指せます」
げんじに依存しないブランドとして、リドムを成立させていきたい
――リドムは大人っぽくてオーセンティックな印象ですが、そういうテイストがお好きですか。
「僕の理想は、かっこいい大人であること。ファッションでは、ロングコートや革靴だったり、ストリートよりモードで上品なスタイルが好きなので、そのテイストをリドムに落とし込んでいます。僕自身の購入体験からの気付きも商品構成に反映していたり。例えば、本格的な冬の始まりが11月だとしたら、1月後半とか2月になるとベーシックなアイテムに飽きてくる。なので、2月頃にはマンネリ化を防ぐためにアクセントがあるアイテムを作ります。そういったストーリーも過去にユーチューブで発信してきたことです」
――実店舗や海外出店など、今後について考えていることを教えてください。
「いずれは実店舗を持ちたいと思っていますし、日本だけでなくアジア圏の方にも知っていただきたい。今はインフルエンサーブランドと言われてもしょうがないのですが、いつかブランド本体にファンを増やしてげんじに依存しないブランドを目指したい。僕を超えるくらいの発信力でリドムを成立させていきたいと思っています。 僕がユーチューブを始めたときは、これでビジネスが成り立つとは思ってもみなかったこと。これからも予測できない販促ツールがどんどん増えてくると思います。今から未来に向けて準備しておくというよりも、いつでも新しいスタイルに取り組める準備と意識作りをしておくことが大切かなと感じています。一つに囚われずにさまざまな視点を持つこと。それがいつかひとつの理想を掲げるための糧になり、多くの方に届いていくと信じています。時代に柔軟に良い意味で優柔不断に挑んでいきたいですね」
サマリー
これからの時代、間違いなく社会に対して真摯である必要がある。リドムには、げんじさん自身が心からファッションを楽しみ、混沌とした情報社会の中で本当に良いと思うものだけを世に伝えていくという誠実な姿勢があった。それらは丁寧にわかりやすいよう工夫された情報発信の内容だけでなく、50%を下回ることがない商品原価率にも表れている。より価値のあるものを消費者に提供しようと努力を続けながら、インフルエンサーブランドを越えるべく前に進み続けるリドムに今後も注目していきたい。
(おわり)
取材/久保雅裕(encoremodeコントリビューティングエディター)
文・写真/成清麻衣子
成清麻衣子(なりきよ まいこ)
文化服装学院卒業後、PR会社を経て2016年に独立。企業のコンサルティング業務の他、ファッションやビューティーなど幅広い分野で、ライターとしての活動を開始。PR経験を活かした企業のプレスリリースやウェブサイトのライティング、カタログ制作も行う。