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2017.02.15

3世代が通う老舗地下街「阪急三番街」 25年ぶりの大改装は働く女性たちがターゲット

 関西最大の商圏・梅田地区は、百貨店やファッションビル、地下街など様々な商業施設が集積する街である。その中でもファッションビルの性格を持った地下街として50年近くの歴史を持つ「阪急三番街」は、梅田の老舗施設の1つに数えられる。1969年11月に開業した同施設は、日本で2番目に古い施設と言われているそうだ。今春、25年ぶりに大掛かりな改装を実施する老舗を取材した。

北館をてこ入れ グランフロント大阪好調の余波受け

 阪急三番街は地階を中心に255のテナントを擁する商業施設。一部、地上にも店舗を展開するため、ショッピング街と言った方が実態に近いだろう。延べ床面積はおよそ10万1700平方メートルで、店舗面積がおよそ3万4000平方メートル。大阪市営地下鉄・梅田駅や阪急電鉄・梅田駅、JR大阪駅とつながっていて、ターミナル立地の恩恵を被っている。ピーク時には700億円の売上規模まで拡大したが、現在は300億円規模に落ち着いている(2015年度の実績は335億円)。

 

 顧客層は実に幅広く、10代から年配層まで3世代のファミリーがベースになっている。昔から、梅田を訪れる者にとっては、「阪急百貨店(阪急うめだ本店)の帰りに阪急三番街でご飯を食べて帰る」という行動パターンが定番だったようで、今もその伝統は続いているようだ。出店するテナントの業種は多種多様。アパレル系ショップをはじめ、雑貨、化粧品、飲食店、サービスなど、幅広い客層に対応した構成だ。

 

 今春、大掛かりな改装を実施するのは北館の大部分と南館の一部。北館は雑貨主体の売り場に様変わりするほか、南館は東側の一角に「阪急古書のまち」を移設して、新規の物販テナントも加え「うめ茶小路」として生まれ変わる。20周年を迎えた1990年に全館リニューアルを実施したが、北館はそれ以来の改装である。改装を決めた理由は、実勢に即した商材の構成内容に改めるためで、施設が一部老朽化していること、アパレルが苦戦していることなども考慮した。梅田地区の商環境の大きな変化に対応する目的がある。既知の事実だが数年来、JR大阪駅を起点に北側を中心に大がかりな商業施設開発が続いてきた。グランフロント大阪ルクアの開業が大きな刺激になっている。

 

 北館改装の背景には、グランフロント大阪の開業の影響もある。同施設の開業後、北館の客数が伸びたという。グランフロント大阪は大阪駅の北側に位置しており、阪急三番街の北館とは1本通りを隔てて隣接している。「梅田(商圏)の核が北側にずれている」(阪急阪神ビルマネジメントSC第一梅田営業部営業・リーシング担当、仲原由高氏)という傾向が色濃い。

 

 今回の改装により、顧客の利便性を高めることを狙っている。コアターゲットは「働く女性、働くお母さん」で、財布のひもを握っている女性の目線で商材構成を考えたという。北館を中心にスキンケア、雑貨、食品、生活雑貨関連のテナントを集積。買い回りのしやすさを考えて、雑貨主体の構成にした。比較的、認知度の低い北館の存在感を高め、アピールする狙いもある。概して、南館はアパレル主体の“オンスタイル”で、北館は“オフ”シーン向けの商材を扱うという役割分担だ。

“ターゲットを絞り込めない”地下街ならではの悩みも

 来館する顧客層は実に80%が女性だという。最も多いのが40代女性で、以下30代女性、50代女性と続く。今回の改装のコアターゲットに、「働く女性、働くお母さん」を据えたのも、こうした構成比率が背景にある。周辺にはオフィスビルも多く存在しているため、また施設が電車の乗り換え――通勤、通学の通り道にもなっているため、ビジネスパーソンや学生層の流入も多い。

 

 通常は昼食時からにぎわい始め、平日は夕方以降にピークを迎える。週末は買い物客がメーンだ。唯一、集客の弱い時間帯は平日の午前中。前述の通り、通勤、通学の通り道になるため、“素通り”する人がほとんどのためだ。郊外型のショッピングモールとはやや趣が異なっている。

 

 今回、北館および南館の一部を改装するに至ったが、実は商品構成を考えるという行為はかなり難しいことだという。ピュアヤング向けのファッションビルやメンズ館など、ターゲット層が明確な商業施設とは異なり、前述の通り幅広い客層に対応する必要があるからだ。「歴史ある施設で昔からの顧客が多数いるため、単純に新しいものをとり入れるわけにはいかない」(仲原氏)面がある。

 

 商材の核はアパレル、飲食、雑貨、趣味関連だが、リーシングでは「顧客目線を忘れないこと」に留意する。安心できるデイリーユースという基準を重視して、テナントを構成している。そのため、新業態など目新しいテナントが多くなるわけではない。

 

 しかし、これが課題でもあるようだ。良くも悪くも“日常化”してしまっている同施設。それが利点でもあり、デメリットでもある。利便性、デイリーユース性を維持しつつ、新しい側面を提案していけるか、二律背反のテーマを追い求める日々が続く。

■阪急三番街 http://www.h-sanbangai.com/
■阪急うめだ本店 http://www.hankyu-dept.co.jp/
■阪急古書のまち http://www.hankyu-kosho.com
■グランフロント大阪 https://www.grandfront-osaka.jp/
■ルクア http://www.lucua.jp/


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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