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2017.02.09

単なるプリントは食傷気味、ひと手間加えたクリエーションと大人トレンドを即導入で成否分かれる パリ子供服合同展 2017年1月

トレンドスペースを飾ったオレリー・マティゴの作品「シャーマン(Sherman)」

 21回目を迎えた子供服・マタニティーの合同展「プレイタイム(playtime)」は、新たなブランド選考の取り組みや新進クリエーターコーナーの設置などで新味を出した。前回から「マン/ウーマン(MAN/WOMAN)」が開催されるエスパス・モンゴルフィエール(ESPACE MONTGOLFIERE)へと会場変更し5回目を迎えた「キッド(kid)」は規模感とイメージを維持したものの、ブランドの同質化感が気になる結果となった。2017~2018年秋冬物を見せる両展ともに1月28~30日に開かれ、日本からはプレイタイムに10ブランド、キッドに1ブランドが出展した。

海外バイヤーが多数派の流れ続く

パピエ・マルシェの編集長がセレクトしたブランドを集めたスペース「ニューナウ」

 パリ東部郊外、ヴァンセンヌの森にあるパルク・フローラル見本市会場で開かれたプレイタイムには、前回とほぼ同数の40ヶ国から520ブランドが出展した。来場者数は前年同期比3.1%増の7,689人で、内訳はフランス国内が44.7%、海外が前年同期の57%から55.3%へと減少したが、昨年1月展に初めて海外が国内を上回った流れが引き続いている。フランス以外の欧州からは43.2%で、アジアは6%。前年欧州域外ではトップだった韓国が3位に後退し、日本は順位を1つ上げて2位となった。代わってトップに躍り出たのは米国で前年は2位だった。

 

 主催者のセバスチャン・ド・ユッテン氏は、今季の施策として「イメージを変えるために選考担当者を新任にし、来場者からも良いセレクションになったとの声を聞いている」とし、「ウェイティングリストが100を超えているが、同じタイプのブランドは入れない。今のセレクションを補完するものを入れていく」と明確な基準のもとに行っていると強調した。また「ブース位置を変えたり、『トレンドスペース(ESPACE TANDANCE)』を一つにまとめ大きく打ち出したり、また今回からパピエ・マルシェの編集長デボラ・スフェッツ(Deborah Sfezt)がセレクトした12ブランドのクリエーターを集めたコーナー『ニューナウ(NEW NOW)』を新設。常に新しい発見をしてもらえるようにダイナミックな変化を付けている」そうだ。

 

 今回、過去最高の来場となった結果について「人々が違うものに興味を持ち始めているのではないか。物語のあるブランドを求めている。この状況を見る限り、バイヤーは買おうとしているし、ポジティブに見ている」とクリエーティブなマーケットに対する楽観論を唱えた。

日本からは過去最高の10ブランドが出展

(左から)アーチ&ライン(ARCH&LINE)、ヌヌフォルム(nunuforme)

 今回も日本ブランドで光を放っていたのが5回目の「アーチ&ライン(ARCH&LINE)」で、5ブランド共同のブースで出展した。コーディネートごとに写真も付けて披露したセットアップが着実に受注を伸ばした。特にジャケットや高額のコートに人気が集中したという。既存20件に加えて、新規がモナコ、イタリア、ドイツ、ロシア、ウクライナ、ポーランド、米国など8件程増えて、18ヶ国に拡大した。

 

 「ヌヌフォルム(nunuforme)」は2回目の出展。もともとパターンに定評があり、凝ったカットワークやアシンメトリーのフォルムが特徴のブランドだ。スエットのライダースやドロップショルダーの切り替えパフスリーブ・カットソートップスなどに引き合いが多かった。既存のクエートに加え、米国、チェコから引き合いがあり、オランダのエージェントとの契約の話が進んだ。

カンフル(Camphor)

 1年振り2回目の「カンフル(Camphor)」はシンプルな中に、どこかふんわりとした雰囲気を醸すニットブランドで、来秋冬は「家族」をテーマに、それぞれの家族の色や心地良さをホールガーメントで表現した。売りづらい白のカーディガンも、敢えてセレモニーの羽織りとして提案。下げ札はブランドネームと引っ掛けた虫除けともなる楠が使われている。6色(黄、緑、ネイビー、白、赤、ボ―ダー)のミトン型ポケットが付いたニットは1万3,000円。昨年はロシア、香港から受注したが、今回はウクライナからオーダーがあり、オランダのエージェントとコンタクトが取れたという。

ニヴァ(NIVA)

 この共同ブースで初出展したのは「ニヴァ(NIVA)」と「コキチカ(cokitica)」。ニヴァは洋服感覚のスタイのブランドで、壁一面に並べてカラフルなプレゼンテーションを行った。フランス、ベルギー、チュニジアなどから引き合いがあったが、特に中国などアジアバイヤーからの注目度が高かったという。

コキチカ(cokitica)

 「コキチカ(cokitica)」は11年目の中堅で、既に上海にはトライしたこともあるが、「やはりファッションと言えばパリ。ずっとチャレンジしたかった。ある程度、東京で基盤ができたら行きたいと思っていた」と満を持しての出展。コレクションは「冒険物語」がテーマで、2人の男の子が扉を開けて魔法の国に入っていく話。その中で繰り広げられる寓話を元に組み立てる。定番のフォレストコート(小売価格1万9,000円)は丸洗い可能でロングセラーだ。またモケニットキャップ(5,000円)は、インスタグラムでグランプリを実施すると1シーズンに3,000投稿もある人気商品だそうだ。メンズ生地のシャツ(1万4,000円予定)とコーデュロイのストレッチパンツ(1万1,000円)のコーディネートも提案。「当たりは良いが価格に抵抗感が強い」と感じている。イタリアからオーダーが入り、フランス、ベルギー、英国、ロシア、チェコ、上海、香港とコンタクトが取れたという。

 

 この共同ブースの取り組みでは5社の垣根が無かったことから、それぞれのブランドを見てもらえ、効果が大きかったようだ。

タゴ(tago)

 6回目の出展となった「タゴ(tago)」は、「ピッティ・イマジネ・ビンボ(PITTI IMMAGINE BIMBO)」に初出展し、その成果を引っ提げて参加した。手刷りシルクスクリーンのプリント・オン・プリントやプリントに部分的な彩色をするなど凝ったテクニックで突き抜けたデザインを提案。顔料プリントに鹿の刺繍や葉のアプリケを施したコート(6万円)や鹿の角を猫に付けたプリントのニット切り替えワンピース (3万1,000円)などが注目された。ウクライナ、スイスなどから受注を得たという。出展者について「レベルが上がっている」と感じているそうだ。

ランドセリエ(RANDSELLIER)

 帝人フロンティアと加藤忠による共同プロジェクトは、ランドセルの「ランドセリエ(RANDSELLIER)」を初出展した。「ランドセルは日本独自の文化だが、学校生活の中で使いやすいように常に改良されている。その特性を生かしてチャレンジしたい」とフランスの小学生をターゲットに、小学校の調査訪問も行い、仕様変更して臨んだ。またパリを選んだのは「ファッションで一番の場所と言えばパリ。ブランディングするならパリからと考え、下から上は難しいが、上から下へという方がやりやすい」と出展を決めたそうだ。エシカルと軽量化の視点から作られた人工皮革のランドセルは5色展開で620ユーロ(DDP)。フランス、スペイン、オーストリアとアジアから関心を持たれたという。

イクエ(IKUE)

 マルジューは、ガーゼのおくるみ「めんぷますだ」と、シンガポールデザイン・日本生産の「イクエ(IKUE)」の2ブランドを初出展した。ベルギー、スイス、ドイツ、スペインなどからコンタクトが取れ、カラフルなアニマルカモフラ柄やオーガニックコットンに引き合いがあったという。おくるみが15~20ユーロ(CIF)、バンダナ5~6ユーロなど。「プレイタイムはアパレルが強いので、そこに嵌るのか検討していきたい」と今後の展開を再構築していく考えだ。この他、日本ブランドでは、哺乳瓶の「ベッタ(Betta)」も継続出展していた。

 海外の新進クリエーターブランドもたくさん出展している。オーストリア・ウィーンの「ザ・スモール・ギャッツビー(THE SMALL GATSBY)」は、2013年スタートで、60年代の映画からインスパイアされたブランドだ。イタリアのシルクなど上質素材で大人服顔負けのアイテムを並べる。トレンドのコーデュロイでロングのトレンチコート(小売価格550ユーロ)を作り、ベロアのジャージーパンツ(320ユーロ)には手横のサイドブレードを付けるなどスポーティーさとクラシックを共存させ、大人でも着たくなるコレクション。既に日本のミニマルが代理店となっている。

出展規模を維持したキッド

 キッドは前回より4ブランド減って、17ヶ国から67ブランドが出展し、日本からは1ブランドのみ(前回4ブランド)となった。やや北欧寄りのクリーンなプリント物が多く感じられ、一定の雰囲気を保ってはいるが、逆にバラエティーさに欠ける嫌いがあり、同質化感は否めない。

 そんな中、男児服と大人トレンドという切り口から独壇場の感があったのが、4回目となるノーザンスカイの「イースト・アンド・ハイランダーズ(EAST AND HIGHLANDERS)」。今回から女児もスタートした。既存15件に加え、新規でフランス、米国、クエート、韓国、香港など倍増の勢いだ。引き続きメンズトレンドと同様にワイドパンツでストレッチのコーデュロイ (小売価格・105ユーロ)やドロップショルダーのウールコート(右・235ユーロ)、ダブルチェスターコート(左・175ユーロ)が人気だった。

 全体がヘルシーでクリーンな中、異彩を放っていたドイツ・ハノーバーの「インファンティウム・ビクトリア(INFANTIUM Victoria)」。2015年スタートで6回目のシーズンとなる。最初のコレクションは黒一色で、それ以降も黒が6割を占めるが、オーガニックコットンのみという意外性が面白い。今季はグリーンとフーシャを差し色にチェックやステッチに色付けしている。ロングトレーンの切り替えチェックスカートの裾に蟻の刺繍を施したドレスは、130ユーロ(FOB)、ドバイやパリ、マンハッタンの夜景シルエットをステッチで表現した半袖ブルゾンは45ユーロ。オーガニックなので、ボタンはココナッツだ。日本へは未上陸。

 

 プレイタイムは、次シーズンからベルリンでの開催をスタートさせる。欧州2大国際子供服展として隆盛を誇るピッティ・イマジネ・ビンボと同展だが、ニューヨーク、東京と世界展開を加速させている点では、ピッティとの戦略の違いを明確に打ち出している。課題は、各所の展示会で確実にバイヤーを呼び込み、良質な出展者のセレクションと相互の満足度が高まるプラットフォームとして機能できるかが鍵になる。またキッドは、来場者数の少なさが気になるところだ。これからどれだけ存在感を高め、集客を実現できるか、正念場の年となるかもしれない。次回のプレイタイム・パリは7月1~3日、キッドは未定。


 

 

久保 雅裕(くぼ・まさひろ)
アナログフィルター『ジュルナル・クボッチ』編集長

 

ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。『senken h』を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア『Journal Cubocci』を運営。複数のメディアに執筆・寄稿している。杉野服飾大学特任准教授の傍ら、コンサルティングや講演活動を行っている。また別会社で、パリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストア、国内合同展の企画なども行い、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。

 

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