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2017.06.07

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.42】深まるフェミニン 盛り上がる多様性~2017-18年秋冬ファッションの6大トレンド~

 強さとフェミニニティーを併せ持つ女性像が新たなおしゃれのロールモデルに浮上した。2017-18年秋冬ファッションのトレンドは英国紳士ライクな正統派ムードが深まる半面、情熱的なレッド、たおやかなディテールが打ち出され、女性の多面性を印象づけるような装いが盛り上がりそうだ。ダイバーシティー(多様性)の重視やミレニアルズ世代への目配りも働いて、全体にカルチャーミックス色が濃くなっている。

◆ネオフェミニスト

 女性であることへのプライドやよろこびを表現する装いが勢いづいた。赤のワントーンで染め上げたレッドルックはその象徴。セミフレアのロングドレスや、オフショルダー、パフスリーブなどが優美な着姿に誘う。ウエストシェイプやビスチェ、コルセットでボディーラインの起伏を強調。ランジェリーをレイヤードに組み込むスタイリングもセンシュアル(官能的)を薫らせる。

 

 これまでのフェミニズム的装いと異なるのは、ダイバーシティー性が加わっているところ。ミレニアル世代を意識したガーリー感や、ジェンダーレス、ミリタリーなどのテイストを加味。国境や民族、時代性を軽やかに飛び越えるカルチャーミックスが加速。ムスリム女性がかぶるヒジャブ、プラスサイズ、70年代などの要素も盛り込まれ、フェミニンの幅が広がった。ランウェイモデルにもプロではないリアルウーマンが登場した。

◆ブリットブリッド

 英国趣味が装いに品格をもたらす。ヘリンボーンやガンクラブチェック、ハウンドトゥース(千鳥格子)、グレンチェック、タッターソール、フェアアイルなどのトラッド柄がブリティッシュ気分を印象づける。ツイードやウールで仕立てた、正統派テーラーリングのスーツ、セットアップがマスキュリンをまとわせる。ただ、英国一辺倒でまとめてしまうのではなく、フェミニンな風情を重ねるハイブリッドが新スタイリングのエッセンスだ。

 

 トレンチ、チェスターなどのコートが縦長フォルムを引き立てる。ジェントルマン顔のスリーピースもウィメンズ向けに登場。小ぶりのケープレットが肩に淑女ムードをまとわせる。キャスケットは若々しいブリットガールに見せてくれる。色はグレー、ブラウン、ブリックなどの渋め色が格子柄を引き立てる。気品を帯びたサックスブルーはノーブルな着姿に導く。透ける生地を差し込んで、やさしげ感を補うのが上手なアレンジ。ギャザーやプリーツ、フリル、ラッフルも女っぽさを添える。

◆ハンドクラフトレトロ

 手仕事感と郷愁が同居するような素材使いが大人っぽさとヴィンテージ風味を醸し出す。ジャカードやキルティング、コーデュロイのアナログ風味が心地よい。古風なハットやスカーフ、ティペット、ファーコート、カラーニットもハンドクラフト感を宿す。モヘア、アーカイブ生地の素材感も落ち着きをもたらす。ディテール面では大襟、裏ボア、フリンジ、フラワー柄、幾何学模様、サイケデリックカラーが復活。厚底プラットフォームシューズやスクエアトゥも懐かしい。

 

 刺繍、ビーズ、パッチワーク、アップリケ、刺し子、ステッチなどの手仕事装飾が着姿にぬくもりと歴史性を忍び込ませる。おばあちゃんのワードローブから譲り受けたようなほっこりムードが流行に踊らされないスタンスを感じさせる。起毛素材や膝丈レングスもオールディーズの風情。色はブラウンやキャメル、ワインカラーなどにグリーンやピンクを差し込むミックストーンがレトロっぽさを立ちのぼらせる。ネルシャツやハイネックも適度な昔感が出せる。

◆ノスタルジックグラム

 まばゆい輝きを帯びた生地やパーツが華やぎを呼び込む。主役はベルベット。コーデュロイやベロアが続く。光を受けて、きらめきをうつろわせる生地はグラマラスでありながらも、どこか懐かしげな雰囲気を備える。サテンとタフタはリュクスなたたずまい。一方、光沢を宿したパテントレザー(エナメル)やビニールはケミカル素材ならではのクールな質感を漂わせる。自然界には見当たらない色に染めたエコファーは程よいキッチュ感を引き寄せる。

 

 もう片方の主役がメタリック。ラメやスパンコール、箔、ルレックス、シャンブレー生地などがグリッターな着姿に仕上げる。ホログラムやリフレクター(反射材)は宇宙やサイバーの気分。フューチャリスティック(未来感覚)の装いになじむ。ファスナーは工業イメージを連れてくる。ただし、過剰にギラつかせるのではなく、ノスタルジーや人なつこさを伴わせた。ゴールドやシルバー、コパーなどのシャイニーカラーを大胆に迎え入れるのも新しい見せ方だ。

◆トランスフォームドラマ

 服の「形」が揺さぶられる。「強い女」を象徴するパワーショルダーがリバイバル。腰から下を絞って、逆三角形に見せる劇的なフォルムが台頭する。オーバーサイズとドロップショルダーも勢いが続く。袖に過剰な量感を与えたり、反対に細身ドレスでスレンダーに見せたりと、ボリュームを操る演出が目立つ。ドラマティックに形を変化させながらも、基本のマナーは大人シックを保つ。フィット&フレアの古典的シルエットにコルセットやビスチェを組み込むアイデアも提案されている。

 

 アシンメトリーが着姿に躍動美をまとわせる。レイヤードはこれまでのルールを逆手に取るような冒険が相次ぎ、シナリオが書き換えられる。スカートに深くセンタースリットを切れ込ませ、堂々としたセクシーを主張。サイハイブーツもセンシュアルに誘う。ウィメンズ用に仕立て直されたタキシードは凜とした着映え。ダウンジャケットもドレッシーに姿を変えた。胴を拘束するハーネス、ベルトで宣言するウエストマークがフォルムにアクセントをつける。ひじまで覆うロンググローブは格上感を印象づける。

◆ファニートラップ

 SNS映えを織り込んだ、サプライズでウィットフルな工夫がおしゃれを弾ませる。過剰さが売り物だった「エクストリーム」の流れを受けて、ミレニアル世代をターゲットにファニーでいたずらっぽい遊びを仕掛ける。レイヤードの一番外側にブラトップを重ねたり、ヘッドバンドにビッグロゴを織り込んだりと、アイキャッチーな策略が繰り出された。メッセージを託した「ステートメント」の流れを引き継いで、文字とモチーフにポリシーやユーモアが写し込まれている。

 

 服そのもの以上に、小物やアクセサリーでの新アイデアが目につく。たとえばバッグは2個持ちや大小3個連結が出現。物を運ぶ役目より、着こなしの彩り的意味が強そうなミニバッグも相次いで提案されている。逆に特大のビッグトートも見参。ベルトポーチはカムバックした。ヘッドピースやアイウェアも茶目っ気いっぱい。イヤリングは長く垂れる。サッシュベルトは主張とエレガンスを両立。カラータイツはレッグラインを色めかせる。マフラーを片側だけ長く遊ばせる小技も人気を博しそうだ。

 

 以前のトレンドを継承しつつ、別のテーマを乗せて加速させたりねじったりするドライブがかかる傾向が強まっている。これまでのスポンテニアス(自発的な)やエクストリーム、ジェンダーレスなどを下味にしながら、新たに「女性らしさ」を押し出してきたのが17-18年秋冬の特徴と言える。性別やカルチャー、時代などのダイバーシティーを強く肯定する態度もモードの選択肢を広げた。全体にポジティブさや装飾性、上質感を示すデザインが増えて、来秋冬のおしゃれは、芯が強く、グラマラスにおじけない女性像を際立たせそうだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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