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2017.06.20
【インタビュー】なぜジョン ローレンス サリバンはロンドンを選んだのか?
ロンドンコレクション レポート
高嶋一行(写真・文)
日本を代表するブランドであり、テーラリングを追求したデザインが魅力のブランド「ジョン ローレンス サリバン(JOHN LAWRENCE SULLIVAN)」。2017年6月にロンドンファッションウィークメンズにて、ランウェイショー形式による2018SS新作コレクションを発表しました。前回に引き続き、今回で2回目となるロンドンでの発表。今まで東京やパリでもランウェイショーを行ってきたブランドが、なぜロンドンを選んだのか?そして、発表の場を移したことによる手応えはあったのか?ショー直後、デザイナーである柳川荒士氏にインタビューを行いました。
「ジョン ローレンス サリバン」(JOHN LAWRENCE SULLIVAN):
デザイナー柳川荒士氏による日本のブランド。元プロボクサーという異色の経歴を持つことでも注目を集める。
テーラードスタイルを基本に、素材とパターンを美しくマッチさせたクリエイションが特徴的。2007年の春夏シーズンに東京コレクション、2011年にパリメンズコレクションにデビュー。2017年よりコレクション発表の場をロンドンファッションウィークメンズに移した。今回が2回目の参加。
東京、パリ、そしてロンドンへ
今回のコレクションスタイルのひとつ。チェック柄のジャケットが特徴的。
「KO勝ちだった」――半年前の2017年1月、「ジョン ローレンス サリバン」の17~18秋冬シーズンのショーがロンドンファッションウィークメンズで行われました。ブランドにとって初めてロンドンでの発表となった前シーズン。独学で英国テーラードを学び、テーラリングをベースとしたデザインを手がける日本ブランドが、テーラードスタイルの本場でコレクションを発表。デザイナーが元プロボクサーであることから、多くのメディアはこの挑戦をボクシングに例えながら高く評価しました。
ブランドにとって初挑戦のロンドンファッションウィークメンズは、大規模な地下鉄のストライキと重なる不運に見舞われながら行われました。事実上ロンドン中の交通が麻痺したことで、朝に行われた他のショーは空席が目立つ客入りとなりましたが、「ジョン ローレンス サリバン」のショーは、お昼に行われたため、幸いその影響は少なく済んだのです。
そして今回が2回目となるロンドンファッションウィークメンズでのショー。前回のようなストライキは起こらなかったものの、相次ぐイギリスでのテロの影響や自転車レースイベントと重なりショー会場付近の道路が封鎖。今回もロンドンは不利な状況をブランドに与える形になりました。
それでもショー会場には世界中のファッション関係者がこぞって駆けつけ、開始直前のエントラスはたくさんの人だかり。日本からも同ブランドに注目するバイヤー、プレス関係者が集まりました。
70年代後半の音楽「コールドウェイブ」
レザーアイテムはビンテージっぽいダメージテクスチャーが特徴的。
最新コレクションである2018SSシーズンのデザインテーマは、「コールドウェイブ」という70年代を代表する音楽のムーブメント。パンクミュージックの勢いがあった70年代のイギリス。70年代後半となると、そこから徐々にポストパンクと呼ばれる時代に入ります。簡単に説明すると、パンクのブームが去った後、パンクのベースを保ちつつも他のジャンルの音楽を広く取り入れた音楽、それがポストパンクです。その中でも暗闇感や閉塞感を音楽で表現したものが「コールドウェイブ」というジャンル。代表的なバンドとして、ジョイ・ディヴィジョンやザ・スミスなどが挙げられます。
デザイナーの柳川荒士氏は、そんな70年代後半の音楽シーンをデザインに落とし込み、最新コレクションとして仕上げました。
印象的だったカラーはレッドとダークパープル。
タイトとワイドの振り幅がサリバン風
最新コレクションより。並べて比べると、パンツのシルエットの違いは明らか。
「ジョン ローレンス サリバンはタイトなスタイル」いうイメージを持っている方も多いと思いますが、実際はタイトなシルエットだけでなく、ワイドなスタイルも数多く提案しています。柳川氏も、タイトだけにこだわらない、ゆったりとしたシルエットやタックが入ったパンツなどを一貫してデザインし続けていることを様々なメディアで語っています。
今回のコレクションでも、パンツはタイトなシルエットから裾までストンと落ちたワイドなスタイルまで幅広くラインナップしています。 ウエストで縛るようにベルトを締めるのが「ジョン ローレンス サリバン」らしい着こなし。 そこに合わせるジャケットやロングコートなどは、70年代後半を連想させるような、程よく肩の張ったシルエット。ノースリーブのデザインも印象的です。
対照的なパンツスタイル。
タイトなデザインとワイドなシルエットが素材の特徴を活かしてデザインされています。
パンツはウエストで縛って履く着こなしが「ジョン ローレンス サリバン」らしいスタリング。
ノースリーブデザインは切りっぱなしでワイルドな印象を加えているアイテムも。
キャッチーなデザインとして“カフカエスク(Kafkaesk)”のロゴが入ったトップスも注目アイテム。
テーマであるコールドウェイブの閉塞感を表現したものを指すように使われる「カフカのような作品」という意味が込められています。
デヴィッド・ボウイ風メイク
ヘアメイクもテーマに合わせた70年代ポストパンクなスタイルに。デヴィッド・ボウイを連想させる仕上がりとなっています。
デザインテーマを引き立てるように創られたヘアメイク。中でも視線を集めた演出が、頬に赤や黄色で入ったシャープなシャドーです。 女性モデルを中心に取り入れられたこのメイクは、ショーにメリハリを与えています。
鮮やかでありながらトーンを落とした色合いは、レトロな雰囲気。頬にラインを描くようにシャープに乗せたシャドーは、デヴィッド・ボウイを連想させるスタイルです。ポストパンクなファッションを意識したメイクアップが、コレクションにマッチしています。
視線を集めたメイクが頬に入ったシャドー。イエローやレッドのカラーでアレンジされています。
【ショー直前】終始リラックスの柳川氏
リハーサルで最終確認を行う柳川氏
ショーが始まる1時間前、バッグステージではリハーサルが行われているところでした。ここでは、最終的なモデルの演出や、実際にウォーキングをした際の服の見え方をチェックする作業などが行われていました。柳川氏もスタイリングをまとめたシートを手に、最終チェックに余念がありません。実際にリハーサルを見て、歩き方などをモデルに直接レクチャーします。
細かく修正したり、気にかけていたところは、やはりシルエット。実際にモデルが着用した際の見え方をショー直前まで調整。ベストな状態で見せるため、気になる点は細やかにスタッフに伝えていきます。
ただ、リハーサルが終われば後はリラックスしたムードに。バックステージの全体を見渡せる場所に陣取り、モデルとの雑談を楽しむ余裕も見られました。的確な指示をスタッフに出し、チームを信頼しながら行う。柳川氏のデザイナーとしてのスタイルが垣間見える瞬間でもありました。
リハーサル後はショー開始までリラックスムード。
ヘアメイクが終わったモデルとの会話を楽しむなど、これから始まるショーに対する緊張の様子はありません。
全体を確認するためのスタイリングボード。
男性モデルの間を挟むように女性モデルが組み込まれています。
なぜロンドンを選んだのか?柳川氏の答え
ショーを終えた柳川氏のフィナーレは、両手を挙げての挨拶が印象的でした。なぜ柳川氏はロンドンを選んだのか。コレクション発表直後の率直な気持ちや、周りの反応も踏まえながら、デザイナーとして新しい挑戦を行った経緯を伺っています。
―今回は、ロンドンファッションウィークメンズへの2回目の参加となりましたが、前回初めてロンドンでランウェイショーを行ってからの手応えはありましたか?
柳川荒士氏(以下Y):その後の海外でのPRというかプレス的なこととセールスを含め、少し上り調子になってきたという感覚はあります。プレスだけで言うなら2倍以上になったんじゃないかというくらい雑誌掲載などが多くなってきているので、ロンドンでショーをやったことの影響はあるんじゃないかなぁと思っています。
―2倍というのはヨーロッパ全体のプレスに対してですか?
Y:そうですね。ヨーロッパの海外雑誌です。自分たちが本当に好きな雑誌に自分たちの服が使われるようになったので、それはやっぱりこういったランウェイショーの形で発表したことが大きな要因かなと思っています。
―以前はパリで発表もプレスも行われていましたね。
Y:はい、パリをベースにプレスを含めやっていました。
―ブランドとしてはパリよりもロンドンの方が合っていたという感覚はありますか?
Y:うーん、パリで7回ほど発表して、その後2年半~3年ほどショーとしての発表から時間を置いていたんです。 自分自身、ランウェイ形式でやることについて(の是非を)考えた時期があり、その過程の後にロンドンでやることになりました。
そういう部分の自分の考え方などが、以前よりも少し効果的にランウェイショーとして反映されたのかなと思います。
―パリからロンドンに移るキッカケを教えてください。
Y:もともとはロンドンのショールームとパリで展示会をやることがきっかけでした。「コンクリートスタジオ」というマルチブランドショールームです。ここがパリにショールームを持っているので一緒に行うことになりました。もともとロンドンをベースにしたショールームで、PR業務も行っていたので、「それじゃあ、一緒にロンドンでやってしまおう」ということになりました。個人的にも彼らのパーソナリティーが自分に合っていたので、任せてみようと思いました。
※コンクリートスタジオ:ロンドンを拠点にセールスやプレスを行うマルチブランドショールーム。「ジョン ローレンス サリバン」のほかに、マシューミラーなどのブランドも抱える。
―東京とパリ、そしてロンドンと3つの都市でコレクション発表の経験がありますが、それぞれの場所で違いなどは感じますか?
Y:まあ、やる側としてはそんなに違いはないです。ただ、できるだけ広い視野で様々な意見をもらいたいです。そういった部分で海外での発表というのは、より刺激があるかなと自分は思います。
特にロンドンは若いブランドなどもたくさん参加しているので、そういった刺激の多い環境の方が僕自身も盛り上がれますし。いい発表の場所だと思っています。
―ブランドをスタートする前にもよくロンドンに来られていたそうですね。今と昔とロンドンの見え方は違いますか?
Y:ロンドンに来ていたといっても“遊びで”ですけどね。それに、そんなに気負ってランウェイショーをやっている訳でもないですし。バッグステージの僕を見てもらうと感じると思いますが、すごくリラックスしてできているので、やはりこのぐらいの感じで続けていきたいなと思っています。
―では今後もロンドンでの発表を続けていく予定ですか?
Y:まだ決めてはないですけど。でも今日のランウェイショーを行った感じだと、もう少しロンドンでやりたりなぁという気持ちはあります。
3シーズン目、4シーズン目とロンドンでの活躍が見たいブランド
テーラードをベースにしたデザインはロンドンとも相性が良く、ファッション関係者からの反応も上々。そしてプレスを中心にヨーロッパでの結果を出している「ジョン ローレンス サリバン」。日本はもちろん、ロンドンを中心としたヨーロッパでの広がりに注目。ロンドンファッションウィークメンズの常連ブランドとなることも十分期待できそうです。
高嶋 一行(たかしま・かずゆき)
ロンドンのELEY KISHIMOTOにてデザインアシスタントを経験後、日本では海外ブランドのセールス・PRエージェント会社に勤務。 現在はイギリスに戻り、英国を中心としたファッション記事を執筆中。 現在、ファミリーセールやサンプルセールの情報サイト「tokyosamplesale.com」(毎日更新)も運営している。
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