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2017.10.04
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.43】2018年春夏ロンドンコレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.43
ブレグジットの動揺が続く英国にあって、2018年春夏ロンドン・ファッションウィークはボーダーレスやカルチャーミックスといった、国際都市・ロンドンらしい持ち味を示した。開幕のタイミングで地下鉄テロに襲われるという不安をはらみながらも、創り手は国境や民族、文化などを乗り越えるたくましさを歌い上げた。
「ユニクロ(UNIQLO)」とのコラボレーションアイテムがロンドン・ファッションウィークの最中にお披露目された「J.W.アンダーソン(J.W.ANDERSON)」は過剰に飾り立てない「静かなモード」に心を砕いた。コルセットやビスチェに似た、ペザントブラウス風のショート丈トップスを軸に、穏やかでナチュラルな装いを組み上げた。裾が不揃いにとがったハンカチーフヘムのスカートは伸びやかなたたずまい。デコルテやウエストで程よく肌をのぞかせ、くつろいだムードを呼び込んでいる。無駄をそぎ落としたシルエットでありながら、レトロ感や健やかさを帯びさせて、ヒューマンで懐かしげな雰囲気に整えている。
ミラノからの引っ越し開催となった「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」はガーリーなミニドレスで若返りを印象づけた。飾り付きのベレー帽はマニッシュでクール。ビッグロゴをプリントしたTシャツは90年代風の演出。ランウェイを華やがせたのは、ポップな色使い。カニや魚など、海にちなんだファニーモチーフでセットアップを埋め尽くし、チアフルに彩った。シャーベットトーンのパンツ・セットアップを繰り返し登場させ、ランウェイにリズムをもたらしている。マドラスチェック風のマルチカラー柄もポジティブ感が高い。蛍光イエローやシルバーメタリックといった、押し出しの強い色も組み込んで、着姿にエナジーをまとわせていた。
英国の伝統的な服飾文化へのリスペクトを示したのは、ファッション校「セントラル・セント・マーティンズ」でランウェイショーを開いた「ヴェルサス ヴェルサーチ(VERSUS VERSACE)」。ファーストルックではチェック柄で統一したパンツルックを披露した。英国トラッドにオマージュを捧げながらも、ロングコートの両袖を裁ち落としたかのようなジレ(ベスト)にリモデル。縦落ち感を引き出した。赤×黒やまばゆいメタリック系の色使いはナイトクラビング気分を漂わせる。ミニ丈ドレスを多用して、挑発的なムードを醸し出した。ブランドロゴのプッシュも90年代のムード。カウボーイジャケットやデニム・セットアップでウエスタンテイストも添え、カルチャーミックスを推し進めていた。
昔を懐かしむ気持ちが「アニヤ ハインドマーチ(ANYA HINDMARCH)」のコレクションにはあふれた。1970年代の英国郊外に暮らす主婦をイメージしたという装いは古風でノスタルジック。当時の主婦が好んで自宅で着たという、襟が大きくフォルムのゆったりした「ハウスコート」は象徴的なキーアイテム。レトロな眼鏡やスリッパ風シューズにも平穏でのどかな家庭生活が写し込まれている。キルトやアップリケなどの手仕事ディテールはハートウォーミングな表情。猫を描いたバッグは気持ちをほっこりさせる。壁紙から着想を得たという花柄からも、ファッションを通してピースフルな空気を招き入れたいと願うデザイナーの意識を映していた。
今回のロンドンで目立ったのは、目先のトレンドづくりにあくせくしない「トレンドアウト」の姿勢だ。もともとベーシック志向のある「マーガレット ハウエル(MARGARET HOWELL)」はシャツやスカート、パンツといった当たり前のアイテムを磨き上げ、シンプルビューティーを引き出した。カラーパレットに抑制を利かせ、白と黒のツートーンを軸に、ネイビーやグレー、カーキぐらいにとどめている。ブラックのシャツやパンツですっきりまとめ、洗練されたバランス感を印象づけた。一方、たおやかなエレガンスも忘れていない。ボウタイブラウスやプリーツスカート、シャツドレスなど、品格レディーのシンボリックなアイテムでクラシックな装いにまとめ上げている。
http://apparelweb-collection.tumblr.com/post/165527283409/ジョゼフ-joseph-アナザーカット-lfw-2018ss-クリエティブディレクター 世界のカルチャーを大胆にクロスオーバーさせる一方で、英国的な服飾文化の掘り起こしも進んだ。「ジョゼフ(JOSEPH)」がイメージソースに選んだのは、英国発祥のボーイスカウトの少女版に当たる「ガールスカウト」の制服だ。ミリタリーやアウトドアの雰囲気を宿した装いを、両胸の張り出しポケットが象徴。ミニ丈で仕立てたスカウトドレスがコケットなムード。しかし、単なるユニフォームの焼き直しに終わらせず、随所にいたずらっぽいトランスフォームを仕掛けた。正面と背中側で見栄えが全く異なるカーディガン風のニットウエアも投入。英国ならではのテーラーリング技術を逆手に取るエスプリを忍び込ませていた。
ブリティッシュダンディーのアイコンであるスーツの文化に切り込んだのは、古田泰子デザイナーの「トーガ(TOGA)」。ファーストルックのピンストライプ柄パンツスーツはジャケットが極端なショート丈で、シャツがウエストからあふれている。背中側が大きく開いたジャケットはトリッキーな前後アシンメトリーの仕立て。両袖を切りっぱなしにしたジャケットもランウェイに送り出し、紳士服テーラーリングの系譜に敬意を払いつつ、思い切った解体と再構築を試みた。踏み込んだアレンジはシルエットにとどまらない。スーツ文化と本来は相容れないビニール系のつややか素材を持ち込んで、服地の上質さとケミカル材質の工業イメージを強引にねじり合わせていた。
世界モードのビッグテーマニなってきたダイバーシティー(多様性)を、「マルケス アルメイダ(MARQUES’ ALMEIDA)」は正面から取り込んだ。何度も登場したモチーフは、アメリカの象徴とされる星条旗のストライプと、オリエンタルムードの濃いドラゴンモチーフ。洋の東西を代表するかのような柄を引き合わせ、ヴィンテージ古着街に異世界感を立ちのぼらせた。ランウェイモデルも非プロを起用し、多様性を掘り下げた。米国文化を感じさせるバイカージャケットやカウボーイブーツを打ち出しつつ、チャイナ服のようなつやめき生地やエキゾチック柄を交わらせ、文化のクロスオーバーを試した。
「古き良き英国」への郷愁、ミニ丈の復活、ロンドン流の「アスレジャー」などがグローバルミックスと重なり合う格好で、ダイナミックなトランスフォームやアレンジを実現していた今回のロンドン。目で見て分かりやすい「トレンド」が薄まる中、創り手はかえって知的な冒険をたくらむ方向に動いたようだ。それぞれの思考プロセスを写し込んだような提案は、着る側が自分好みのスタイリングに落とし込みやすい、「静かな主張」を秘めたデザインにつながっているように見えた。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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