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2020.01.29

【パリメンズ 2020秋冬 ハイライト4】気鋭が集うパリメンズ 存在感増す日本人デザイナー

(写真左から)ホワイトマウンテニアリング、サカイ、キディル

 華やかなビッグメゾンのショーがパリの醍醐味だとすると、新進や気鋭が集うのもパリメンズの魅力。世界各国の才能が、さらなる飛躍を求めてコレクションを発表している。特に今シーズンは、「クレイグ・グリーン(Craig Green)」や「キコ・コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」など、ロンドンからの移動組も目立った。そして、最も参加デザイナーが多いとされる日本。これまでの殻を破りグローバル水準のクリーエションを超えたコレクションを発表するデザイナーが多く見られた。

ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)

 「ホワイトマウンテニアリング」の2020秋冬コレクション、テーマは”GONE “。自分自身を成長させるために街から自然へ、遠くに旅に出る男性をファッションを通して表現。「はかないムードで秋から冬への季節の移り変わりを表現したかった」とデザイナーの相澤氏。落ち葉や秋冬の移ろいやすい雲など、自然のモチーフプリントやアウトドアアイテムを使いながらも洗練度を増したコレクションを見せた。

 

 自然に溶け込むようなルックでも洗練されて見えるのは、光沢のある素材を用いたことや、シックな色調やカラートーンを統一したからであろう。また、全体的にボリューム感のあるスタイリングながら野暮ったさを感じさせないのは、それが幾重ものレイヤードでつくられているからで、シャツ、ブルゾン、ダウンなど、色調を揃えたまったく違うアイテムを組み合わせることによって新鮮なルックに仕上げていた。またショーのラストにはイタリアの「コルマー(COLMAR)」とのカプセルコレクションも発表。

サカイ(sacai)

 「サカイ」は2020秋冬メンズコレクションとウィメンズプレフォールコレクションを同時に発表した。ブランドらしいハイブリッドに、今季はパンクやワーク、そしてそれらとは一見対照的な、エレガントな要素を取り入れた。メンズでは、ダウンやボアなどボリュームのあるアウターの下には端正なセットアップを忍ばせた。ジレと細身のパンツが基本の端正なスタイルだが、唐突に太いワークパンツやショートパンツとロングパンツのレイヤードが登場したり、足元はゴツいマウンテンブーツだったりと、ワーク要素が随所に盛り込まれている。そして、真っ赤なタータンチェックやアニマルパターンを取り入れたパンク表現で新しい「サカイ」を見せた。

 

 ウィメンズは、エレガントなパンツスーツにミリタリーのアウターウェア、キャップでマスキュリンに仕立てられた。厚底のブーツやボックス型のバッグ、シルバー×ゴールドの大振りアクセサリーなども、意志の強さを感じさせる。ブリティッシュモッズスタイルを再構築するウールのトップコートにMA-1ジャケットをレイヤードしたアウターや、ダウンジャケットとウールのブレザー、ダブルブレストジャケットとプリーツスカートが融合したアイテムなど、「サカイ」のハイブリッドは進化を続けている。

 

 メンズ・ウィメンズ共に「ナイキ(NIKE)」とのコラボレーションスニーカーを発表。また、タトゥーアーティストのドクター・ウーとのコラボレーションでバンダナ柄のアイテムをメンズ・ウィメンズ共に披露した。

キディル(KIDILL)

 末安弘明による「キディル」のパリコレクション参加3シーズン目のショーは、数々のパンクバンドによるコンサートが行われてきた、パリの下町、レピュブリックのクラブ「ジビュウス」で開催された。

 

 コレクションタイトルは”Fuck Forever”。セックス・ピストルズのジャケットのアートワークで知られるグラフィック・アーティスト、ジェイミー・リードが手掛けた1968年から2018年までの作品よりヴィジュアルをセレクトし、様々なアイテムのモチーフに使用。手の込んだアーガイルチェックのニットやジップをグラフィカルに配したブルゾンなど、多様なアイテムを組み合わせて、コントラスト豊かに構成。ポップな側面も擁したモダンなパンク像を描いている。先シーズンはゴシックパンクバンド「バウハウス」のヴォーカリスト、ピーター・マーフィーとのコラボレーションで、音楽を背景にしたクリエーションは今後も続きそうだ。

 

Text by Tomoaki Shimizu

ターク(TAAKK)

 森川拓野による「ターク」は、ノルマンディホテルの廊下スペースでミニショーを開催。「Fashion Prize of Tokyo 2020」を受賞し、パリで初めてのコレクション発表となる。

 

 今季はフォーマルなルックにひねりを加えて新しい側面を引き出し、現実と虚像の境界線を曖昧にする独自の世界観を見せた。ラペルやポケットの陰影をつけたジャケットや、ドレープの影を描いたシャツなどは、全てジャカード地で表現され、現代ならではのテクノロジーとクラフトの融合を感じさせる。ネクタイが同化したボタンの無いレザーシャツもシュールリアルな仕上がり。バックサイドにあしらわれているチェーンや、各ルックにコーディネートされたネックレスなど、シルバーのアクセサリーがアクセントとなり、レザーのグローブがエレガンスを増幅。フォーマルスタイルの新解釈を見せた。

 

Text by Tomoaki Shimizu

 

タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)

 頭にはティアラが載せられ、多くのルックにショーツが合わせられ、少年のようなイメージでまとめられていた宮下貴裕による「タカヒロミヤシタザソロイスト.」の最新コレクション。

 

 チャーリー・チャップリンの言葉がプリントされたTシャツには、ムートンの襟が合わせられ、フラネルのコートにはアストラカンの襟が載せられる。襟のようでいて、ストールのようでもあり、歩く度に風に翻る。モデルたちは手の防寒具であるマフを手にしていたり、オーブン手袋のようなグローブをしていたり、ポケットに手を突っ込んでいたりで、不可解にも手を見せないで歩く。あえて男性らしさを薄めたコレクション、チャップリンの言葉、そして見えない手。そこには関連性のある明確なメッセージは無いのかもしれないが、それらは互いに絡み合って不思議な魅力となっていた。

メゾン ミハラ ヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)

 「メゾン ミハラ ヤスヒロ」の2020秋冬コレクションは、秀逸なアイテムのドッキングやアタッチメントで驚きを与えた。前後や左右で素材が違ったり、袖や裾の途中からアイテムが切り替わっていたりと、360度、見る角度で表情が違うプレイフルなコレクション。

 

 ブランドらしいレイヤードやヴィテージのテイストはそのままに、どこまでが一つのアイテムかわからないほどに、様々な要素が重なり合ってひとつひとつの個性的なアイテムを生み出している。レザーのライダースは、同じレザーを掛け合わせているが、全く違うカラーや風合いのものを用いたり、デニムやトラックパンツも左右で色を変えたり、片脚だけレイヤードしているように立体感を出したりと、自由な融合が次々に登場。

 

 また、パーカーのドローストリングがメジャーになっていたり、極太のジッパー、ハットとキャップの融合、コンセント型のベルトなど、ミハラらしい遊び心をディテールや小物でも盛り込んだ。

ヨシオ クボ(yoshiokubo)

 「ヨシオ クボ」が2020秋冬コレクションで見せたのは、現代を生き抜く戦闘服。中でも目を引くのは、日本の武士をイメージさせる甲冑だ。キルティングを用いて胴回りを守る短甲、腰回りの防御である草摺(くさずり)、肩から袖にかかる肩鎧、腕を守る籠手(こて)、そして兜まで忠実に表現している。

 

 コレクションのベースとなるのはグレーやブラック、ブラウン、ホワイト、などのワントーンテーラリングだが、肩から二の腕周りまでにボリュームをもたせた甲冑での武装を思わせるジャケットや、草摺のようなレイヤード、また、忍び装束を思い起こさせる手甲や脚絆など、日本ならではの伝統的な戦闘服の要素をモダンなアイテムに取り入れた。ストリートからエレガントへ流行の流れが変化していく中で、「ヨシオ クボ」は独自の手法で今の時代を表現していた。

ファセッタズム(FACETASM)

 「ファセッタズム」の2020秋冬コレクションはデザイナーの落合宏理が「多様性、多面性とはなんだろう」と自問自答することから始まった。日々変わっていく感情にも、角度を変えれば数えきれないほどの面がある。それは当たり前のことで、全ての人に当てはまる。そんな多様性・多面性をファッションで表現した。シルエットやパターンが左右・前後で切り替わる。見る角度によっては全く違うアイテムのようにも見える。片側にしかラペルがないジャケット、ニットとファーの融合など、1点1点が主張の強いアイテムだ。また、今シーズン特徴的なのはネイティブパターン。パッチワークのように、ジャケットやパンツ、シャツにアクセントとして取り入れられた。

オーラリー(AURALEE)

 パリでの発表3シーズン目となる「オーラリー」の2020秋冬コレクション。“モダンで、本物であること”を意識したという今シーズンは、ブランドらしい軽やかな上質素材でエフォートレスなエレガンスを紡ぎ上げた。

 

 ホワイト、ベージュ、ヘザーグレー、淡いブルー、ピンクなど、ナチュラルなトーンのカラーパレットと、ゆったりと体に沿うシルエットがコンフォートな印象を与える。ニットやウールなどの秋冬素材も、オーラリーがこだわり抜いているメイド・イン・ジャパンの柔らかい素材感で重たさをまったく感じさせない。アイテムは、フーディーやアノラック、ニット、セットアップ、チェスターコートなどベーシックなアイテムだが、際立つ素材感でブランドらしさを演出している。また、オーガニックのカシミアやウールなどサステイナブルな素材を多く取り入れたという。

ゲーエムベーハー(GMBH)

 「YLEM(アレイム:全元素の起源とされる物質)」をテーマに、ブランドの原点に立ち返った。スポーツやワークアイテムをモードに昇華してきた同ブランド。ドレッシーなテーラリングを、今季はさらにエレガントに表現した。タイトドレスのような体に沿うシルエットであったり、柔らかく揺れるシフォン、ピンクやオレンジ、レッドのポイントカラーなど、ジェネラルトレンドであるタイトシルエットやジェンダーレスな表現も多く見られた

エチュード (Études)

 2020秋冬コレクションは、1973年制作のアニメ映画「ファンタスティック・プラネット」にインスピレーションを得た。未来的なデジタルプリンティングとアナログなグラフィックで時代を超えたファンタジーを表現。スタイリングやアイテムは一見カジュアルやワークテイストだが、シルクなどの素材や光沢のある加工で上品に仕上げられている。パフジャケットやフーディーなどのボリューム感をいかしたスーパレイヤードが目立った。

 

取材・文:清水友顕、アパレルウェブ編集部

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