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2020.01.27

【パリメンズ 2020秋冬 ハイライト2】ジェンダーレス、冬のマリン、サマーカラー、自然テーマ、ジャポネスク・・・詩情豊かに男性像を描くデザイナーたち

(写真左から)ドリス ヴァン ノッテン、エルメス、ランバン 

 エレガンスが本格復権した2020秋冬メンズコレクションシーンであるが、トレンドに追随することなく独自性を訴求するデザイナーたちが多いのもパリの特徴だ。その中でも、かすかに浮き上がる共通テーマがある。ジェンダーレス、冬のマリンやサーマカラー、ジャポネスクなどだ。いずれもパリらしく詩情豊かに男性像を描いた。

エルメス(HERMÈS)

 ヴェロニク・ニシャニアンによる「エルメス」は、エリゼ宮の家具を管理するモビリエ・ナショナルでショーを開催。今季はレザーアイテムが充実しており、プリントや刺繍のアイテムを合わせたレイヤードのスタイルでまとめている。

 

 特に目を引いたのが、デジタルアーティスト、ミゲル・シュヴァリエによる地層を彷彿させるモチーフ。スタンドカラーのシャツやブルゾンなどにあしらわれ、グラフィカルな効果を生み出していた。得意とするレザーアイテムは、軽やかなカーフレザーのコートやディアスキンのブルゾンが目を引き、コートはフードが脱着可能で機能性の高さを見せた。ルックによってはウールカシミアのヘリンボーン織のシャツが合わせられ、さりげないラグジュアリー感を漂わせる。

 

今季の特徴的アイテムであるスカーフの付いたシャツは、ルック全体をソフトな印象にみせていた。一見オーソドックスなジャケットも、左身頃を二重にしてひねりを加え、よりモダンに仕上げている。テクニカル素材である、独特の光沢を放つ「トワル・アイス」を用いたスポーティなブルゾンもコレクションにアクセントを与え、全体をフレッシュにイメージ付けていた

 

Text by Tomoaki Shimizu

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

 昨年9月のレディースコレクションに続き、バスティーユのオペラ座でショーを開催した「ドリス ヴァン ノッテン」。今季は1970~80年代のニューヨークのパンクロックバンド、ニューヨーク・ドールズやストゥージズ、ラモーンズなどが主要なインスピレーション源となり、粗野な側面とグリッターでグラマラスな側面を抽出。更に、スイスのアーティストであるウルス・リュティの写真作品や、スイスの写真家、カールハインツ・ワインバーガーの男性を被写体にした写真作品からも影響を受け、各ルックに反映させている。

 

 エコファーのショールやパンサーモチーフのデボレ素材のシャツ、東洋風の虎プリントなどワイルドなアイテムと、トーンを落としたハワイアンモチーフのジャケットやアロハシャツは、対極的な雰囲気を見せるも、そのコントラストが心地良い。フォーマルなジャケットからワークブルゾンまで、多様なスタイルを創出しつつも、全体としてはフェミニンとマスキュリンが入り混じったロックテイストで統一し、されているのが印象的だった。

 

Text by Tomoaki Shimizu

ランバン(LANVIN)

 「ランバン」は”ビーチバード”をテーマに、秋冬ながらも爽やかなカラーに彩られたリゾートを感じさせるコレクションを見せた。深い海の藍色や空のウォーターブルー、真っ白なドレスやセットアップなど、秋冬の重さを全く感じさせないカラーパレットでテーマを体現。海の景色を直接ペイントしたかのようなトレンチコートや、海の情景をイメージしたニットなど、直接的なビーチ表現も多く見られた。

 

 このコレクションの大きなインスピレーションとなったのは、イタリアの漫画家ユーゴ・プラットによる海洋冒険漫画「コルト・マルテーゼ」で、その主人公である水兵をイメージしたコミックやイラストも様々なアイテムを彩った。また、マリンルックをイメージしたようなボーダーのニットとカーディガンはスパンコールの煌めきでエレガントに。シルエットはリラックスだが、肩周りはジャストサイズで袖に向かって広がりを持たせたり、太めのパンツで裾は引きずるほどの長さを持たせたりと、メゾンらしい美しいシルエットで、詩情豊かな若々しい男性像を描いていた。

ロエベ(LOEWE)

 ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」は、ユネスコを会場にショーを発表した。時代に即して、男性のアウトフィットのシルエットに変化を加えること目指したコレクション。60年代のアンディ・ウォーホール、あるいはルー・リードといった既成概念や境界線を越えたアーティストたちからもインスパイアされている。

 

 スーツにドレスのフォルムのメタリック素材のエプロンをコーディネートしたルックでスタート。奇妙な印象を与えるも、男性らしさにこだわらない、多様性を表現しようとするジョナサン・アンダーソンの強いメッセージが感じられた。コート類はウィメンズのシルエットをメンズに応用し、バルーンのフォルムに仕立てたり、Aラインにしたり、ケープのようにしたり。ラインストーンを縫い付けたビジューニットや、オーガンザのパーツを縫い付けたシャツ、あるいはチェーンをあしらったコートなど、「ロエベ」らしいクラフト感溢れるアイテムも健在だ。

 

Text by Tomoaki Shimizu

アン ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)

 セバスチャン・ムニエによる「アン ドゥムルメステール」は、建築家オスカー・ニーマイヤーによるエスパス・ニーマイヤーを会場に最新コレクションを発表した。

 

 コレクションタイトルは “Le Faune(牧神)”。クロード・ドビュッシー作曲による「牧神の午後への前奏曲」が流れる中、モデルたちはツタの葉を象ったアクセサリーを身に付け、バレエ「牧神の午後」の舞台に登場するダンサーのコスチュームを思わせる、身体にフィットしたニットのインナーが目を引く。レースのコートやタンクトップ、ジャカード素材のジャケットなど、そのどれもが繊細で優美。ムートンのブルゾンやアストラカンのコートなどは素材感が直接的に牧神を想起させ、大きなアクセントとなっている。

 

 同時に発表されたレディースのドレス群も、エレガントで女神的な美しさ。クラシカルだが「アン ドゥムルメステール」らしさを前面に出し、コレクション全体をロマンティックにまとめていた。

 

Text by Tomoaki Shimizu

フィップス(PHIPPS)

 スペンサー・フィップスによる「フィップス」は、パリ9区の高校の講堂でショーを発表。「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」や「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」でキャリアを積み、2017年に独立し、パリコレクションに参加して4シーズン目となる。昨年はLVMHプライズのファイナリストにも選ばれた。

 

 コレクションタイトルは“Treehugger(木を抱く人)”。時流に寄ってサステナビリティを訴えるのではなく、森や木をモチーフに、自然の美しさを礼賛する姿勢を見せた。ボーイスカウトや森の仙人を思わせる老人、登山者、木こり、ヒッピー。山を巡る人々を様々なルックで表現。山火事を啓発するために生まれたキャラクター、スモーキーベアとのコラボレーションによるニットやスウェットなども登場し、バリエーション豊かなアイテムを揃えている。

 

 また今季は特に、過剰生産を抑える努力として、ヴィンテージやデッドストック素材を使用した「フィップス・ゴールド・ラベル」のアイテムもミックス。カジュアルでスポーティな作風だが、チェックモチーフのシルクシャツやフラネルのスーツなど、素材の美しさをさりげなくまとわせ、モダンなモードに仕上げていた。

 

Text by Tomoaki Shimizu

ラフシモンズ(RAF SIMONS)

 「ラフシモンズ」は、パリ郊外のヴィトリー・シュール・セーヌ市のスタジオでショーを開催した。ランウェイにはイエローの紙を敷き詰め、トンネルのような穴からモデルたちが登場。

 

 リーンなシルエットのコートも見られたが、今季はオーバーサイズのジャケットが主流で、タートルネック、手の防寒具であるマフ、肩をくるむケープなど、身体を包み込むアイテム・アクセサリーがアクセントになっている。ジップを開けることで腕が出るノースリーブのアイテムは、ニットとコートで登場し、今季の象徴的なアイテムとなっていた。

 

 PVCは「ラフシモンズ」が好む素材だが、今季はコートの上からPVC製の小さ目のベストを重ねて、シルエットを絞るスタイリングを見せている。身体を包み込む、あるいはシルエットを絞る、つまりは身体を束縛することであり、チェーン使いやレザーのロンググローヴなどの小物遣いにより、ボンデージ的なフェティシズムも感じさせた。若々しいルックにダークな要素をさりげなく散りばめるクリエーションは、「ラフシモンズ」ならではである。

 

Text by Tomoaki Shimizu

ヴェトモン(VETEMENTS)

 「バレンシアガ(BALENCIAGA)」に専念するためにデムナ・ヴァザリアが離れた「ヴェトモン」は、サンピエール・アムロ通りのガレージスペースでショーを開催した。ストリートウェアとオーバーサイズで崩したフォーマルウェアの組み合わせに変化は無かったが、大きくフィーチャーされてきたロゴが目立たなく、今後新しいアイデアが飛び出してくるのではないかと期待させた。

 

 また今季は特に、大きな肩パッドを合わせたテーラードの完成度の高さに目を奪われ、これまでの方向性とは違う、微妙な変化を感じさせる。「ヴァザリアを大統領に!」と刺繍されたキャップがコーディネートされた「ソーシャルメディアはいらない」の文字がプリントされたTシャツを合わせたルックが登場し、皮肉たっぷりのメッセージに思わずドキリとさせられた。

 

 マイク・タイソン、ナオミ・キャンベル、スヌープ・ドッギー・ドッグ、ケイト・モス、アンジェリーナ・ジョリーのソックリさんがモデルで登場したことも話題となった。

 

Text by Tomoaki Shimizu

クレイグ・グリーン(Craig Green)

 「クレイグ・グリーン」は、ファッションと工芸品の概念を融合させた。ダウンやパデットでボリュームを出したレイヤードシルエットは、どこか日本の武士が身に着ける鎧をイメージさせる。また、対照的にメッシュやナイロンなど、軽い素材でも兜や鎧をモチーフにしたようなアイテムが登場。印象的なプリントは、着物の柄を思い起こさせるような和テイストで統一されていた。ショー後半には宇宙飛行士のような未来的なスタイリングや、虚無僧にも見えるシルエットが飛び出し、クレイグ・グリーンのもつ独自のアーティスティックな世界観が、和の雰囲気をまとい表現されたコレクションとなった。

バルマン(BALMAIN )

 オリヴィエ・ルスタンによる「バルマン」は、ヴィレットにある音楽学園都市内のホールでショーを開催した。

 

 ランウェイ正面には砂漠を描いた大きなペインティング。今季は、オリヴィエ・ルスタンのルーツであるアフリカ大陸のイメージを重ねながら、遊牧民を思わせるクリエーションと、これまでの「バルマン」らしいアイテムを織り交ぜながら披露している。サルエルパンツとドレーピングジャケットは砂漠の民を思わせ、徐々にアヴィエイタージャケットやブルゾンが組み合わされ、バゲットビーズを刺繍したアーガイルチェックのニットや地図をプリントしたドレーピングトップス、星座モチーフのスカーフプリントのブルゾンなど、華やかに変化していく。

 

 金ボタンのブレザーやミリタリーコートを経ると、ライオンを刺繍したフーディや太陽を刺繍したブルゾンなど、バルマンらしさが強調され、赤黄青などの原色のドレーピングジャケットを挟みながら、一気にドレッシーなルックへ。フィナーレではダンサーたちが力強いパフォーマンスを見せ、会場からは盛大な拍手が起きた。

 

Text by Tomoaki Shimizu

取材・文:清水友顕、アパレルウェブ編集部

 

「パリメンズコレクション」

 

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