PICK UP
2020.01.20
クラッシックトレンンドやテーラードを進化と変化で料理するミラノのトレンドセッターたち <3/5>
プラダ(PRADA)
前シーズン、上海でランウェイショーを行った「プラダ」だが、今シーズンは通常ペースでミラノに帰還。コンテンポラリーアートの複合ギャラリーであるプラダ財団のタワーの中に、まるでジョルジョ・デ・キリコの作品「イタリア広場」のようなセットが組まれている。ランウェイとなる「広場」から観客席は10mほど上にあり、斜め俯瞰から広場を見下ろす仕組みだ。「広場」の真ん中には紙で作られた馬に乗った英雄像が建っている。ミウッチャ・プラダが掲げたコレクションのテーマは”SURREAL CLASSIC”・・・それは古典主義とテクノロジー、歴史と未来などの相反するものが共存するコントラストのある世界観だ。紙で出来たちょっとバランスの悪い騎士の像は、「反英雄的男らしさ」(プレスリリース曰く)の象徴なのだろう。このコンセプトはスタイルにおいても素材においてもシルエットにおいても展開されている
ノースリーブのスリムなニットに始まり、タイドアップにニットジレのジャケパンやスーツスタイルやオーセンティックなコートに、カラフルな差し色やオプティカル柄を差し込んだり、パンツをインしたブーツやテクノ系スニーカーとコーディネート。ウールやカシミア、コーデュロイなどのトラディショナルな素材と再生ナイロンによるアイテムが混在し、ドローショルダーの流線的なシルエットに対するボリューミーな足元が相反するバランスを作る。
「クラシック回帰とモダンのミックス」という今シーズンのミラノメンズのトレンドと方向性としては同じなのだろうが、そうとは単純に言い切れない形而上的なものが潜んだコレクション。登場するアイテム自体はクラシックかつマスキュリンなのだが、単純にそこで終わらないのが不思議でもあり、それこそがミウッチャのセンスと才能のなせる業だ。英雄ではないけれど真面目に働いて正しく生きている普通の市民を応援する服・・・「反英雄的男らしさ」をそんな風に理解するのはちょっと深読みが過ぎるだろうか。
フェンディ(FENDI)
今シーズンの「フェンディ」のテーマは”FENDI-fied classicism(フェンディ流古典主義)”。メルトンウール、フランネル、デニムやコーデュロイスウェード、そしてレザーやファーを交えたリッチな素材が、テーラードジャケットやスーツなどクラシックなアイテムに異素材ミックスや切り返しでパーツを縫い合わせたようなカッティング、バイヤステープで無意味にマークされたラインなど、不規則なディテールを入れてレトロフューチャーテイストで再現される。
またクロップトパンツや、一見ロングスカートのように見えるパンツや、バッグの多くは巾着型、クラッチ、ビューティーケースを始めとした女性用のハンドバッグっぽいものが多く、ジェンダーレスのテイストも感じさせる。ちなみにバッグ類は他にもショッパーバッグのような大きなバッグや1800年代のトランクにインスパイアされた「トラベル ピーカブー」なども登場し、注目アイテム満載だ。
そして、黒のモノトーンが多い中で強調される「フェンディ」イエローも特筆したい。バッグ類、マフラーやパターンの一部など部分的に使われたり、全身イエローのスーツがあったりと様々。
さらにショーの終盤4ルックでは、「アンリアレイジ(ANREALAGE)」とのコラボレーションを発表。これらは「アンリアレイジ」のクリエイティブ・ディレクター、森永邦彦が2013年に発表した太陽光(UV)で色が変わるフォトクロミック技術を応用したアイテム。太陽光(UV)にさらされるとホワイトタイガーのキルティングが「フェンディ」イエローに輝き、ホワイトダイヤモンドのキルティングからは「フェンディ」の新コードがブラックに浮き出る仕組み。クラシック回帰イメージのコレクションを、フューチャリティックなアイテムで締めくくった。
時代をとらえることが抜群にうまく、常にアップデートされているシルヴィア・フェンディの「古典主義」のなかには、実は未来的な要素が溢れている。
マルニ(MARNI)
今回の「マルニ」のショーは、パフォーマンスやダンスから彫刻、建築など幅広い分野で活躍するアーティスト、ミケーレ・リッツォによる前衛的なダンスパフォーマンス。63人のダンサーたちによるゆっくりした動きのトランス系のパフォーマンスから、一転して映像の早回しを見ているかのようなハイスピードキャットウォーク・・・という不思議な見せ方だ。洋服たちはまるでダンサーたちが本当に着古したかのような感じに汚れたり、コーティングによって皺が作られていたり、裾がほつれたり、部分的に擦り切れたりしている。靴も汚れていたり、金具が取れていたり、履きつぶして形が変形しているような感じで作られていて、ユーズド感やレトロテイストを醸し出す。
アイテム自体はオーセンティックな品ばかりなのだが、シャツやモヘアニットは膝上まで届くほどのマキシロングあり、または胸の下までしかないクロップトあり。パンツもボリューミーなものからスリムなものまで。ジャケットやコート、ニットの中には2つの別のアイテムが繋ぎ合わされたような作りになっているものもある。スマイルやハートのプリントも満ち欠けしていて柄は均等になっていない。このような感じで、普通の洋服を極端にデフォルメ、または一見普通なのによく見るとちょっとおかしい、と言った不完全さが全体的に流れている。
クラシック回帰ムードが流れる今シーズン、全体的におとなしめな中で、独自の路線でパンチを効かせた「マルニ」のショーはかなりのインパクトを放った。シーズンを重ねるごとに面白くなっていく「マルニ」からはますます目が離せない。
エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)
今回の「エンポリオ アルマーニ」のコレクションテーマは”拡大鏡をかけた男”。デザインの出発点をトラディショナルにおいているので、ベースにはグレンチェック、ウィンドペーン、シェブロン、ヘリンボーンなどのクラシックな素材を使い、またトレンチコート、テーラードジャケットやトラウザーなどの紳士服の王道をいくアイテムでコレクションを構成する。が、そんなクラシックを”拡大鏡のレンズ”があえて拡大、強調することでそこにモダンなテイストが加わる。形はクラシックながらオーバーサイズのトレンチコート、i-padサイズのポケットが付いたシャツ、不規則なプリントが乗せられたグレンチェック、異素材ミックスなどのひねりが各所に見られる。またキルティングジレやフ―ディをテーラードジャケットに合わせたり、クラシックな素材で作ったアノラックやブルゾンなどのスポーティなアイテムもたくさん登場した。
最後にはリサイクル素材をつかった新ライン「R-EA」が登場。ミラノファッションの王が本格的にサステナビリティに乗り出すことで、ミラノモーダのエコムーブメントにますます拍車がかかりそうだ。
ニール バレット(NEIL BARRETT)
今シーズンのコレクションでは”UNTITLED”というテーマを掲げた「ニール バレット」。ミニマルとカジュアル、モノトーンとカラー、クラシックとストリートなど反対の要素が完全にハイブリッドされたルックたちは、まさにタイトルを付けて型にはめることができないものばかり。
それを象徴するのが異素材ミックスおよびカラーミックスで、デニムやテーラードコートの袖やポケットなどの部分的にレザーやニットが使われていたり、レザージャケットとトレンチコートが切り替えで繋がっていたり。ニットやダウンに至っては、それにプラスしてカラーもパーツごとに変わったりする。そんな手の込んだディテールにはハンドメイドによる職人技も垣間見られる。
さらに2003年秋冬コレクションのバイカーコートや、2000年秋冬のダウンジャケットなど、自身のアーカイブコレクションを再解釈したピースも。
また「真珠の耳飾りの少女」やミロのヴィーナスなどのパロディ画や、テーラードジャケットやスーツに描かれた落書き風のモチーフたちも、古典と現代アートのハイブリッドを象徴する。
ミニマルでモノトーンを多用したモードテイストのイメージが強かった「ニール バレット」だが、ここ数年ではカラーやストリート的な要素をかなり入れ込んでいるように思う。そして今回はそれがさらにアップデートされた形だが、それは“伝統&原点回帰とモダン&ストリートの要素の融合”という今回のミラノメンズのキーワードにマッチする。
マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン(MARCELO BURLON COUNTY OF MILAN)
今回の「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン」のキーワードは「Distortion」。舞台セットとして、歪んで不均衡に描かれた同ブランドのロゴマークの柄のカーペットが敷き詰められている。とはいえ、歪んでいるのはプリントやディテールだけで、アイテム自体はテーラードスーツやジャケットから、ブルゾンやMA-1、ダウンなどメンズの定番アイテムがきちんと揃えられている。
「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン」がスーツを発表するとはちょっと意外な感じがしたが、そのプリントは千鳥格子風の同ブランドのロゴ、モアレ、または「COUNTY」の小さな文字が柄になるなど、やはり普通のテーラードスーツというわけにはいかないようだ。
またローマ数字で番号が付けられた小さなポケットたちが一つになったようなバッグ、円形の透明バッグ、両耳からアンテナが出ているようなイヤリングなどかなり個性的なアクセサリーがさりげなくコーディネートされているのも、テーマである”歪み”に通ずるのだろうか。とにかく、「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン」がつくるオーセンティックな服、というのが逆に新鮮で印象的。このコレクションをきっかけに新しいタイプのファンが増えそうだ。
エムエスジーエム(MSGM)
前回は10周年アニバーサリーのため、ピッティウオモ期間中にフィレンツェでショーを行った「エムエスジーエム」だが、今回はこれまで通りミラノに復帰。”HAUNTED”というおどろおどろしいテーマを掲げたコレクションは、クリエイティブ・ディレクターのマッシモ・ジョルジェッティが昔からファンだったイタリアのホラー映画の巨匠、ダリオ・アルジェントとのコラボによるもの。
今シーズンのトレンドを着実に反映し、ヘリンボーンのクラシックなコートやブラックスーツやストライプスーツ、コーデュロイのセットアップやダウンやブルゾンなどオーセンティックなアイテムが登場するが、それに合わせるシャツやニット、ネクタイには、アルジェント監督の名作、「サスペリア」、「私は目撃者」、「フェノミナ」などの映画のパンフレットに使われていた画像がプリントで使われたり、一見フラワーモチーフに見えるのが実は肉食植物やキノコだったり。またはこれらのオーセンティックなアイテムをネオンカラーのピンク、グリーン、イエローなどパンチの強い色でクラシックアイテムを再現しているので、全く違う印象を与えている。
今回もマッシモ・ジョルジェッティの個人的こだわり(ある意味オタク)とトレンドがうまくブレンドした、興味深いコレクションに仕上がっていた。