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2019.11.28

ゲストはbeautiful peopleデザイナー 熊切秀典さん 第28回SMART USENの「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」

 USEN(東京、田村公正社長)が運営する音楽情報アプリSMART USENで配信中の「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」。ウェブメディア「ジュルナルクボッチ」の編集長/杉野服飾大学特任教授の久保雅裕氏とフリーアナウンサーの石田紗英子氏が、ファッション業界で活躍するゲストを招き、普段はなかなか聞けない生の声をリスナーに届けるが、アパレルウェブでは、その模様をレポートとして一部紹介していく。第28回のゲストは「ビューティフルピープル(beautiful people)」のデザイナー、熊切秀典さん。

▼全編はこちらでお聞きいただけます▼

 

 

提供元:encoremode

石田:今日のゲストはパリコレクションにも参加しているブランド「ビューティフルピープル(beautiful people)」のデザイナー、熊切秀典さんです。

 

熊切:こんにちは。

 

久保:今年9月のパリコレで6回目です。今はほっとしている感じですか?

 

熊切:そうですね。何にもなくなっちゃって。デザイナー的には空っぽになる、だけど会社はぐるぐる回っている。変な時期ですね。その中で一人止まっている感じが……。

 

久保:緩急で言えば「緩」にある時に、何かやっていることはあるのですか?

 

熊切:こういう時期は何もインプットもしなくなる、ということですかね。アウトプットもしない。本当に腑抜けです。

 

石田:そんな熊切さんに(笑)、生い立ちからお伺いします。神奈川県厚木市のご出身なんですね。お子さんの頃はどういう感じでした? お洋服が好きでしたか?

 

熊切:洋服が好きというわけではなくて。ただ、母親がニットのデザイナーで、毛糸の小売会社から糸が送られてきて、それで編地を開発していました。その編み方を『毛糸だま』といった雑誌などに提供する仕事です。だから、洋服に囲まれた環境にはいました。ファッションが大好きだったわけでもないんですけど、幼稚園の頃からいつも一緒のお洋服を着ていて、気に入ったらそればっかり着るというタイプだったみたいです。

 

久保:バンドをやっているということはよく知られていますが、音楽は子供の頃からやっていたのですか?

 

熊切:幼稚園の頃からバイオリンをやっていました。10歳でやめちゃったんですけど。この前、弾いてみたんです。でも、10歳の時のバイオリンだったので、たぶん5/8とか3/4のサイズなんですね。大人が持つとすごく小さくて全然合っていかないんですよ。

 

石田:バンドのほうは?

 

熊切:会社のデザインチームというか、スタッフでやってはいます。

 

石田:楽器は何を担当されているのですか?

 

熊切:ギターです。高校の時にエクストリームという、ヘビーメタルというかファンクメタルのバンドがあって、すごくかっこいいギタリストがいたんですよ。はまってしまって。

 

久保:厚木あたりだと、高校生の頃はどこに洋服を買いに行っていたのでしょう?

 

熊切:町田に行っていましたね。

 

久保:じゃあ、ファッションが嫌いではなかったということ?

 

熊切:嫌いではなかったと思うんですよね。高校のそばに住んでいたので、よく友達が寄って、僕の洋服を借りて遊びに行っていました。

 

久保:結構、良いものを着ていたのですね?

 

熊切:僕の洋服を着て行くとモテるんだよねって。僕は似合ってなかったんですけどね(笑)。

 

久保:その頃はどんな服を着ていたのですか?

 

熊切:古着です。

 

久保:センスがあったんですね?

 

熊切:どうなんですかね(笑)。あったのかなあ……。

 

久保:裏原とかのブランドには?

 

熊切:全然通っていないですね。母親の影響もあって『装苑』とか『ハイファッション』は小さい頃から見てはいたんです。「流行通信」という昔の12チャンネル(テレビ東京)の番組も好きで観ていたから、今思えばファッションが好きだったのかな。大きく変わったのは、文化に入った頃。コムデギャルソンのショーに衝撃を受けたのです。何回もビデオを観ました。それでギャルソンの服を着始めて。それまではずっと古着だったので、文化の中では結構浮いていたと思います。ギャルソンにはまってからも、でしたけど。

 

石田:高校を卒業して文化服装学院に進んだのですか?

 

熊切:そうなんですけど、実は一浪しているんです。翌年、再度試験を受けて、ちょっとやばそうだなという顔をして家に帰ったら、母親が文化服装学院の願書を用意してくれていたんですね。3月2日までに出せば間に合うと。大学受験は2月28日に終わったんですけど、たぶん駄目だから願書を出すと言って、文化に進みました。

 

久保:文化ではアパレル技術科でした。ということは、デザインもパターンも勉強するわけですよね。

 

熊切:1年生の時に山本耀司さんの講習を受けたのですが、パタンナーの重要性をすごく言っていたんですね。それでパタンナーから始めるのがいいと思ったし、スケッチがそんなに得意ではなかったので技術で何とかしようと思ったのです。

 

石田:それで卒業するとコムデギャルソンに入られた?

 

熊切:実を言うと、ここでもちょっと浪人をしまして。他で仕事をしながら……。

 

石田:ギャルソンの募集の機会をずっと待っていたのですか?

 

熊切:そうですね。で、運良く入れた。それまで一緒に仕事をしていた先輩が先にギャルソンに入って、呼んでもらって、という形でした。

 

<中略・コムデギャルソン時代の話、独立時のエピソード>

石田:今回のパリコレでは24通りの着せ替えができるお洋服を発表しました。「実際、どうなってるの?」って思います。

 

久保:でも説明を受けると、「ああ、そういうことか」っていう。例えばTシャツの前身頃と後身頃の間にもう2枚、布が入っていると考えると分かりやすいと思います。そうすると、身体を入れるところが3箇所になりますよね。それを裏返すと……。

 

石田:3箇所×2になりますね。

 

久保:裏返しにする場所が3箇所あるから、全部で4回分できる。つまり、3×2×4で24通りになるのですよ。って、僕が解説してどうするの(笑)。

 

一同:(笑)

 

熊切:洋服は表と裏が一緒になっていても、身体を通す場所は1箇所しかありません。その表と裏が一緒になっているのを壊して、もう一回つなぎ直して3箇所から身体を通せるようにしました。これを「サイドC」と呼んでいます。レコードはA面とB面があって表裏一体ですけど、その間にサイドCがある。サイドCはあると信じて、洋服に対する考え方も構造も全部一回壊してみると、可能性がいっぱいあった。今回のコレクションは「その24通りという可能性が見つかりました」というコレクションだったんです。

 

石田:海外の方々の反応はいかがでした?

 

熊切:「24通りいけんのか?」っていう(笑)。

 

一同:(笑)

 

熊切:今回のアイデアが湧いた時点で「これいける」と思ったんですね。でも、それをみんなで追いかけてみたら、ものすごく難しい作業になって、なかなか形になりませんでした。知り合いのパリのスタジオを借りて、ずっとサンプルを作っていたのですが、直して、また直して、でしたね。できてみるとすごくシンプルなものなんですけど、すごく難しかった。

 

僕はシンプルなものだけを作っていてもしょうがないと思っているんです。自分たちなりに技術的な解決をしながら、新しい機能を加えるということが、僕らにとって大事なことなのかなと思っています。僕らが青春時代だった90年代は、「脱構築」で全部壊してモダンを新しくしていこうみたいな時代でした。でも、単に壊しただけのデザインが結構多かったんですね。その中で、僕らはそこにちゃんと機能を加えていこうと。1回壊さないと新しくならないので、壊すことは壊すんですけど、ちゃんと機能を加えて新しいものを提案していこうと思ったのです。それで男の子のシャツを女の子のパンツにすることから始めたんですね。どうなっていくか想像がつかない(笑)。そういう型紙の面白さというか、パターンの面白さが自分たちのテーマになっています。

 

久保:そもそも24通りというのは、どういう時に思いついたのですか?

 

熊切:次に向かって新しいものはないかと探していて、「ああ、これでいいや」と感じた時に見つかっただけなんです。表と裏のつなぎ方をいろいろ変えて試作していくんですけど、その中で見つけました。

 

久保:今回のコレクションに点数をつけるとすると、自分の中では何点?

 

熊切:今回は“きっかけのコレクション”なので、点数のつけようがないです。すごく着やすいものにはなっていますけど、まだまだ発展する可能性があるということですね。

 

久保:なるほど。何事もトライ・アンド・エラーですね。

 

熊切:トライ・アンド・エラーがすごく楽しいというか、失敗することが楽しいんです。

 

石田:失敗を楽しめるというのは大事ですね。「もういいや」とはならない?

 

熊切:なってますよ、僕。「もういいや」って、ずっとなってます(笑)。毎日「いいや」って思っているんです。次の日はまたやるしかないんですけどね。

 

<中略・東京コレクションでのライブ演奏の話、これからのbeautiful people、川久保玲さんとのエピソード>

 

石田:今、こういうことを目指しているとか、こういうものを作っているとか、お話しいただくことはできますか?

 

久保:でも、今はね……。呆けていますから(笑)。

 

熊切:3つ目の穴ができたので、次は4つ目の穴をあけるというくらいしかないですよ(笑)。どこに4つ目の穴があくかは分からないですけど。

 

石田:何通りになるんでしょうね、4つ穴があると。

 

熊切:そっちは分からないですけど(笑)。ちょっと今、それを考えています。

 

<後略・次世代へのメッセージ、クロージングトーク>

詳細は、SMART USENでお聴きください。

 

SMART USENの「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」、第28回のゲストは「beautiful people」のデザイナー、熊切秀典氏。

 

▼公開情報
USENの音楽情報サイト「encore(アンコール)」
http://e.usen.com/

 

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