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2019.12.04
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.61】サステナビリティーと「ミニマル+α」に勢い 2020年春夏パリ&ミラノコレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.61
宮田理江
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トレンド傾向に多少のばらつきが出るのは当たり前のモード界にあって、2020年春夏シーズンは異例の「横並び」状態が起きた。サステナビリティーがまるで共通テーマのように打ち出されたのだ。この取り組みがそれだけ重要なことの証明でもある。同時に、ミニマル色が濃くなり、素材やディテールで表現を試す「ミニマル+α」が台頭。パリとミラノの両ファッションウィークでも、両方の新潮流が勢いづく中、職人技や素材使いで持ち味を示す提案が相次いだ。
パリコレクション
◆ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)
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「世界で最もサステナブルなブランド」と呼ばれる「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」は、さらに歩みを前に進めた。装いにもナチュラルな雰囲気を濃くした。両袖に沿って、花びら風のスカラップレースを連ねて、やわらかいシルエットを描き出した。グリーンのキュロットは涼やかでエコフレンドリー。リゾートドレスのようなサマーワンピースは、地球温暖化を背景に、厳しさが年々増す暑さをしのぎやすそう。見るからにクールなウォーターカラーも涼感を添えた。
黒と白のストライプが縦や斜めに走り、芯の強さを示す。紳士服街のサヴィル・ロウで培ったテーラリングの技はパンツスーツを凜々しく仕上げている。ふんわりブラウスにきれいめスカートといった、すっきりとした着姿にまとめながらも、細部や素材に変化を加えた。ボリューム袖をはじめ、プレイフルな演出が装いの表情を深くしていた。
◆セリーヌ(CELINE)
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「セリーヌ(CELINE)」は1970年代ムードとロックテイスト、フレンチシックなどをクロスオーバーさせた。ジーンズを軸に据えて、グラマラスでカジュアルな「グラジュアル」の新トレンドをリードした。ヒッピー気分やボヘミアンテイストも交わらせている。でも、全体の見え具合はきれいめにまとめて、リュクスな着映えに整えた。
花柄ワンピースやギャザードレス、ボウタイ・ブラウスなど、ロマンティックでブルジョワ風の装いを提案。キュロットパンツには刺繍でクチュール感を添えた。アビエイター形のビッグサングラスが凜々しくタフな表情。ファーのベスト、レザーのジャケットもブーツカットのジーンズにマッチ。こびない女性像を打ち出した、リアルに着たいと思える服・スタイリングがランウェイを圧倒した。
◆ディオール(DIOR)
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サステナビリティーへの思いでショー全体を染め上げたのは、マリア・グラツィア・キウリ氏が手がけた「ディオール(DIOR)」。有名なロンシャン競馬場内に森を再現し、庭園を愛したムッシュ・ディオールと妹・カトリーヌにオマージュを捧げた。ナチュラル気分のベージュやカーキをベーストーンに、ボタニカル柄や草花染めを大胆にあしらった。植物標本風の花柄はオーガニックな色味で、着姿に自然体ムードを忍び込ませている。
ラフィアや麻といった天然素材も、気負わない雰囲気をまとわせた。透ける生地はやさしげでスラウチな気分を添えた。ショートパンツのセットアップは品格テーラードとピクニック感覚が同居。ストライプ柄、タイダイが動きを加えている。足元はエスパドリーユやフラットサンダルで伸びやかに整えた。強烈なサステナブル宣言を通して、タイムレスな装いに誘い、主張を一貫。ファッションショーをメディア化する試みでも成功していた。
◆ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)
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全体にミニマル色が濃くなったパリにあって、「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」はレトロとサイケデリックが入り交じった、アートフルなコレクションを用意した。19世紀末から20世紀初めにかけて、パリで文化が花開いた「ベル・エポック(=よき時代)」をイメージソースに、楽観的なムードをまとわせている。ロマンティックとダンディズムをクロスオーバー。ウエストシェイプを利かせたジャケットやピンストライプ柄のワイドパンツに、パフィな袖のシャツ、裾が曲線を描くミニ丈の巻きスカートを織り交ぜている。
ボタニカルモチーフやジグザグ柄、縦縞などを投入し、複数の柄を組み合わせる「クレイジーパターン」も披露。キーピースのミニ丈ワンピースを彩った。アールヌーボー調のモチーフやヴィンテージライクな色調はボヘミアンや70年代の気分も忍び込ませている。モノグラム柄が登場し、世界的な知名度を高めていった時期と重なるベル・エポックへのオマージュは、ブランドヒストリーやパリらしさへのリスペクトも感じさせた。
ミラノコレクション
◆プラダ(PRADA)
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これまでもモードを変革してきたミウッチャ・プラダ氏は、テーラードジャケットや膝丈ワンピース、ポロシャツなどを軸に、飾り立てないシンプルなルックをそろえた。ファッション消費のあり方を考え抜いた末の提案だ。アイテムの型数そのものを抑え、色や素材、小物使いでバリエーションを広げている。
コットンガーゼのドレスをはじめ、カシミヤやシルクなどのサステナブルな素材選びにナチュラルなムードが漂う。ラフィア系の植物素材や、葉っぱ柄のボタニカルモチーフもあしらって、自然との共生イメージを醸し出している。ダブルブレストのジャケットやスーツはきちんと感を帯びて、レトロシックなたたずまい。目を惹いたのは、異形のハット。オレンジの色使いも冴えた。潔くシルエットを削り込むアプローチは、かえって着る人の意思やキャラクターを引き出し、女性の尊厳を示すかのようだった。
◆グッチ(GUCCI)
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大胆な方向転換を試みたのは、「グッチ(GUCCI)」。体の線を拾わない拘束衣風のオールホワイトルックでサプライズを演出。ぐっとミニマル寄りの装いを打ち出した。メンズライクなスーツは70年代気分を薫らせた。ところどころにネオンカラーの差し色を利かせている。目立ったのは肌見せ。花モチーフでカットアウトしたワンピースや、素肌が透けるシースルードレス、深いスリットを切れ込ませたスカートなど、センシュアル(官能的)なデザインを盛り込んだのは、従来路線からの変化を感じさせる。
一方、アクセサリーは主張が強まった。極太のチョーカーネックレスや特大グラスチェーンが顔周りを弾ませている。就任以来、過剰なまでの装飾主義で新時代を開いたアレッサンドロ・ミケーレ氏は軽やかに手つきを変えた。職人仕事や格上素材を生かした「グッチらしさ」への回帰は、新たなモードの風向きを示すかのようだ。
◆フェンディ(FENDI)
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巨匠・故カール・ラガーフェルドの後を受けて、創業家ファミリーのシルヴィア・ヴェントゥリーニ・フェンディ氏が初めて単独で提案するプレタポルテ・コレクションとなった。披露された「デビュー作」はナチュラルでポジティブ。ミニ丈ボトムスや透ける素材がフレッシュなムードを醸し出した。ぷくぷくのキルティングを施したパデッドアウターにも、そろいのミニスカートを組み込んで、新顔のセットアップに仕上げた。
グリーン、イエロー、ブラウンをキーカラーに、天然ムードのカラーパレットを構成。素材面でもラフィアを取り入れて、オーガニック感を強めている。ゆったりしたジャケットにはサファリ風の外張りポケットを配して、アウトドア気分をまとわせた。編み目のゆるいニットトップスや、オーガンジー系のシースルー生地を重ねて、涼しげなレイヤードを組み立て、「暑すぎる夏」に目配りしている。繰り返し登場したフローラルモチーフがイタリアらしい楽観をショー全体に写し込んでいた。
◆ジル サンダー(JIL SANDER)
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ミニマル傾向の復活は、「本家」とも呼べそうな「ジル サンダー(JIL SANDER)」にもうかがえる。ルーク&ルーシー・メイヤー夫妻はシルエットに抑制を利かせながらも、細部にクラフトマンシップを忍び込ませている。ドレープが流麗なロングドレスに、ボクシーな紳士風ジャケットを重ね、ジェンダーとシーンの境界線を溶かした。
お得意のミックスカルチャーは質感の面でも発揮され、マット素材とつやめき生地を交差。ラフィア素材はフリンジライクにあしらわれ、服にナチュラル感を添えている。スレンダーでありつつ、ゆとりを保ったドレスは液体のようにボディを包み、夏も過ごしやすそう。鯉(コイ)や植物を水墨画風に描いた、東洋的なプリント柄は自然への郷愁を寄り添わせる。異なる要素のクロスオーバーと職人技の工芸美は、熟成されたミニマルに特別な洗練をもたらしている。
環境意識に大きく舵を切ったパリとミラノだが、裏テーマは「気候」ではないだろうか。猛烈な熱波に見舞われ続けているヨーロッパでは、地球温暖化はリアルに切実だ。夏仕様の装いがオールシーズン化する状況にあって、春夏コレクションは重みを増しつつある。着心地志向や「持たない」主義も手伝って、買う側の選別眼が一段と厳しくなる中、「本当に価値のある服」を創り手側が真剣に問い直した結果がミニマル回帰だったのだろう。つまり、この流れは一過性の「トレンド」ではない。オリジナリティーを発揮できる「+α」の部分が来シーズン以降、どのように掘り下げられていくのか、目が離せなくなってきた。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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