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2019.11.20

「リンクスウメダ」でトータル提案化――ヨドバシホールディングスの挑戦

「リンクスウメダ」の外観。左手奥が既存の「ヨドバシカメラ梅田」

 ヨドバシホールディングスが開発した複合商業施設「リンクスウメダ」が11月16日、大阪・梅田にグランドオープンした。ターミナルのJR大阪駅に隣接する一等地に館を構える。既存の「ヨドバシカメラ マルチメディア梅田」と連絡通路でつながっており、売り場面積は約9万平方メートルに拡大した。ファッション、アパレルのほか、飲食や雑貨、スポーツなど、幅広い分野のテナントが集積する。

家電を軸に“百貨店化”した館

 大阪駅前の再開発事業の一環で開業した「ヨドバシカメラ マルチメディア梅田」。かねて、隣接する土地の再開発が計画されていた。インバウンド客の取り込みも意識して、上層階にホテルを導入し、下層階は商業棟というフロア構成にした。既存店舗の上層階にもファッションやスポーツ、飲食などの専門店スペースを設けていたが、「リンクスウメダ」ではその規模と幅をさらに拡大した形だ。

 

 新しい形態の商業施設を開発した目的について、五鬼上大介館長は「顧客ニーズを満たすために、様々な商材を導入した。一棟丸々、専門店の集積だ」と説明した。家電が本職の同社だが、幅広い客層のニーズを取り込むため、取り扱う商材の幅を広げた。「既存の売り場でも家電以外の様々な商材を扱っていた」ため、さらに守備範囲を拡大することは自然な流れだったようだ。

 

 梅田地区は大阪に限らず、関西圏では最大の商業集積地。百貨店だけでも4店(阪急、阪神、大丸、伊勢丹)が出店しており、ファッションビルや地下街を加えると、かなりの規模感になる。前から“供給過多”が指摘されている商圏だが、集積度はさらに高まっている。もちろん、「リンクスウメダ」に出店するテナントは、既存の施設やショップと競合しないよう、品揃えを考慮しているが、実際にはかなり重複している商材があるのは事実だ。

 

 既存の「ヨドバシカメラ マルチメディア梅田」に「リンクスウメダ」が加わり、売場面積は約9万平方メートル、地下1階・地上8階の9フロア構造、テナント数は約200店という大型の副業商業施設にバージョンアップした。年間の売上目標は1700億円、来館者数は7700万人を想定している。ヨドバシホールディングスが開発した百貨店といった様相だ。

 

ファミリー層を意識したフロア構成

「リンクスウメダ」。幅広い分野のテナントを誘致した

 商業施設の集積度が高い梅田地区で、どのように差別化、住み分けを図るのか。「『ルクア』は25~30代の若い人がコアで、『グランフロント大阪』は大人の層やセレクトショップが主体。当館は『ニトリ』やシューズ、スポーツ、アウトドアなど、今までなかった業態を充実させた。競合するのではなく、独自路線で行きたい」(五鬼上館長)と意気込みを見せた。

 

 幅広い客層が来館すると想定しているが、特に力を入れているのはファミリー層とインバウンド客だ。ファミリー層向けに、子供を対象とした物販やアミューズメントを導入し、利便性を考慮している。インバウンド向けは上層階のホテル「ホテル阪急レスパイア大阪」で対応する。「京阪神地域の観光のため、このホテルを拠点にしてもらいたい」と考えている。

 

 ファッション関連テナントでは、1階に「ユニクロ」が出店している。隣接する「ルクア」に「ジーユー」との複合店舗を構えるが、さらに梅田での店舗面積を拡大した。2階には、「アーバンリサーチ サニーレーベル」や「エドウイン」、キッズ関連では「ジャカディ」「BONbazaar」などが出店した。3階には、「フランフラン」の新業態「U.F.O. by Francfranc」が関西初出店。そのほか、「グローバルワーク」「ジーンズメイト」「アウトドアプロダクツ」などのアパレルショップも出店している。

新しい商業施設の“ひな形”になるか

ファミリー層を意識した売り場構成。写真はベビー、キッズを対象にした「アートスポーツ」の新業態

 地階には20店近い飲食店街を展開する。また、テイクアウトができる軽食のスタンドも2階フロアの一角に集積している。そのほか、今年4月にグループ化したアウトドア専門店「Mt.石井スポーツ」を3960平方メートルという広大な面積で展開するほか、ランニング専門店の「アートスポーツ」や「アシックス」の新業態も誘致した。

 

 従来のファッションを軸にした商業施設とはやや趣の異なる「リンクスウメダ」。家電量販店が開発した館で、主観を申し上げれば、「心地よい雑多感」といった印象である。マス市場へ向けた都市型の専門店街、とでも言おうか。

 

 同社は今後も、こうした複合型の商業施設の開発を進めるという。各施設の立地特性に応じて、テナントの構成は変えていく方針だ。今後は仙台、札幌の物件で同様の施設開発の計画がある。新しい商業施設の“ひな形”になり得るだろうか。今後の展開に注目したい。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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