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2019.11.03

【マカオレポート2019】インタビュー マカオファッションフェスティバル2019に参加した6組のデザイナー

 「マカオファッションフェスティバル2019」(以下:MFF2019)が10月17~19日、世界最大級のカジノ・リゾート「ザ ベネチアン マカオ リゾート ホテル」で開かれ、約50ブランド(うちマカオ発デザイナーは学生含め約40組)がランウェイ形式でコレクションを発表した。クリエイティブ産業の振興に力を入れる政府の後押しもあり、10年目を迎えた今回は、若手をはじめマカオ出身デザイナーたちの層の広がりを感じさせるイベントとなった。加えて、一帯一路構想やグレーターベイエリア構想など近隣地域との経済的連携を強める施策はファッション産業にも取り入れられており、MFFでは中国本土や香港、台湾などのファッションデザイナーも参加。今後は、各エリアでポップアップストアを共同で開くといった試みも計画中だという。ショーを終えた6組のデザイナーたちにクリエーションやビジョンについて話を聞いた。

■アロ・ロー&レイニー・チョイ「AURO ARTE」(マカオ)

マカオを代表する実力派ブランドに

 

 マカオを代表する実力派ブランドとして活躍が目立ったのは、「オーロラ アルテ(AURALO ARTE)」のアロ・ローとレイニー・チョイ。2人はともにHATとMaconsef(※)でファッションデザインを学び、卒業後の2013年に同ブランドを立ち上げた。

 

 サンプル製作作品コンテスト「2018 Subsidy Prgramme for Fashion Design on Sample Making」では4年連続の受賞。MFF最終日に行われた受賞8ブランドによるショー「スタイル・エンカウンター・モーメント」でコレクションを披露した。また、米大手サンズが主催する「マカオファッションウィーク」(サンズが運営するカジノホテル内数拠点でほぼ同時期に開かれる)にも参加。伊ヴェネチアの街並みを再現したヴェネチアン・マカオの館内でのランウェイショーは、各国から訪れた業界関係者やセレブリティー、インフルエンサーをはじめ、ショッピングを楽しむ多くの観光客にも強くアピールした。

 

 「ブランド立ち上げから6年が経過し、ブランドの認知度が高まってきたことを実感でしている。コレクション製作においても、2人の感覚が噛み合ってきたことで、コンセプトの企画から、マカオではなかなか難しい素材調達までスムーズに行えるようになってきた」(ロー&チョイ)。

 

 今後は中国本土を中心に、さまざまな国・地域に販路を広げていきたい。「マカオは市場が小さいが、多くの観光客が訪れる国際的な観光都市でもある。マカオだけで活動するのは難しいが、今回ヴェネチアン・マカオで行ったショーのように、さまざまな国や地域の方にコレクションを見てもらえるのは、とても意義があると感じている」(同)

 

※HATでの18カ月間のディプロマプログラムを修了し、さらに実践的なプログラムを学ぶ機関

■ジェーン・チャン「Macon」(マカオ)

ママになるデザイナーの新しい挑戦

 

 カジノのきらびやかなムードとは対照的に、ポルトガル領時代の伝統的な建築や漁村が残るマカオのイージーでハッピーなムードを表現しているのがウィメンズカジュアルの「マコン」。独自のスタイルで人気を獲得している同ブランドが今回のMFFで新たに披露したのがパジャマなどのホームウエアコレクション。ウィメンズに加えて、メンズとキッズもラインナップしたのは、デザイナーのジェーン・チャン自身を取り巻く環境の変化が大きいようだ。

 

 「実は12月に初めての出産を控えていて、それが服作りにも影響を与えている。ポップなカラーやデザインを取り入れたブランドだから、以前から子ども服を作ってほしいというニーズもあった。そして、私自身のライフステージが変化するなかで、ファミリーで楽しめるものがあったらいいなと考えるようになったことが大きい」と説明する。ピーチやタピオカミルクティー、ミルクなどのイラストが描かれた生地は、実際にその香りがするよう特殊なプリント技術を採用した。「香りにはリラックス効果も期待できるし、五感で楽しんでほしい」(チャン)

 

 マカオブランドとして初めて出店したショッピングモール「天猫」での売り上げが順調に伸びているほか、現在はマカオと中山(中国広東省)に実店舗を出すなどビジネス面でも順調だ。出産後も変わらずデザイナー活動を続ける。「マカオのほか、香港や台湾でも好評いただいているので中華圏を中心に販路を広げたい。キッズラインを取り入れたのは、実は中国の一人っ子対策が緩和されたことも大きい」と意欲を語った。

■コルドヴァ・セレスティノ・マリア「Cordova」(マカオ)

ターゲットは日本市場 和着物に魅了されたマカオの新星

 

 今回サンプル製作作品コンテストで初受賞した「コルドヴァ(Cordova)」のコルドヴァ・セレスティノ・マリア(Cordova Celestino Maria)も今後の活躍が期待されるデザイナーの1人。前述のロー&チョイと同じくMaconsef出身のコルドヴァだが、2017年のMFFでMaconsefの学生としてコレクションを発表し、わずか2年での受賞となった。

 

 中国市場をターゲットにするデザイナーが多いなか、コルドヴァが目指す市場は日本。日本のファッションに大きな影響を受けてきたといい、受賞作品も「KIMONO NOW」をテーマに、和着物に着想を得たメンズ服。「伝統的な着物に新しい要素を加えることで、着物の魅力を伝えたい。着物の基本である平面裁断に立体的なパターンを加えていくのが私のコレクション」だといい、3Dスキャナーを使ったサイズ計測で、受注生産を行っていくという。

 

 自身の名前を冠したブランドはまだ立ち上げたばかり。現在はマーケティングや生産体制を整えるためのパートナー探しを行っている途中。日本での留学経験もあるコルドヴァは、「いつか日本でも活動してみたい」と意欲を見せる。

■「FAVE by Kenny Li」(香港)

目指すのは人と自然の共存 サステナブルな視点がクリエーションの軸に

 

 ケニー・リー(Kenny Li)が2012年に自身のブランド「fave by KENNY LI」を立ち上げて以来掲げているコンセプトは、人と自然の共存。最新コレクションは、自身が訪ねたアイスランドがインスピレーション源に。火山地帯に位置するブルーラグーン(スパ)で見た空の色や立ち込める湯けむり、火山灰の広がりなど、現地で目にした原風景をデジタルプリントで表現し、美しい花の色を挿し込んだ。ファッションデザイナーだけではなく、グラフィックデザイナーやビジュアルアーティストとしても活動するリーの作品は、女性らしいシルエットにジオメトリック柄などを用いるなどグラフィカルな要素も多く見られ、幅広い層に支持されている。

 

 ブランドのコンセプトはデザイン面だけではなく、素材選びにも反映されている。折り紙を使ったような立体的なパーツや、レースでデコラティブに仕上げたものなど、同ブランドを代表する“カラー(襟)コレクション”はすべてリサイクル素材を選択している。ファッション業界においてもサステナビリティーへの意識がここ数シーズン急激に高まってきたことについて、リーは、「とても嬉しい現象だと思う。ファッションデザイナーはファッションデザイナーはクリエーションにおいて常に先を行く存在であり続けるべきだと思っている」と話す。

 

 作品が香港文化博物館や中国シルク博物館に永久保存され、近年では香港国際空港のユニフォームをデザインするなど香港ではすでにベテランとして活躍する。香港のファッションデザイナーについて、「若手デザイナーたちにはとても期待している。香港もマカオ同様市場が小さいため、もっと海外に目を向けてほしいと思う」という。リー自身も、エコロジカルな視点を持つクリエイターとのコラボレーションをさらに積極的に進めるとともに、中国本土をはじめとする海外にもっと市場を広げていきたいと話す。

■ソフィア ウー(台湾)

グローバルな感覚が支えるクリエーション&ビジネス

 

 台湾から参加したのは、ウィメンズブランド「SOPHIAWU」のソフィア・ウー(Sophia Wu)。MFFで披露したブランドのアーカイブコレクションは、主力アイテムでもあるシャツを中心に、ラッフルを用いたフェミニンなものからメンズライクなシャープなデザインまで幅広い。「ブランドが描く女性像として頭に浮かぶのは私の母。女性の中には、エレガント面や力強さが共存しているもの。そんな多面的な要素が表れているのかも」と話す。

 オーストラリアで育ち、欧州でキャリアを積んだというグローバルなバックグラウンドを持つウーは、さまざまなカルチャーにも影響を受けた。「幼少期を過ごしたオーストラリアは1番リラックスでき重要な場所。だけど、仕事をしていたイタリアでは女性のパワフルな面を感じたし、英国を訪ねたときは、ファッションデザインにおける細部にいつも驚きがあった。いずれも大きなインスピレーションとなっている」。

 

 ブランド設立から4年が経過し、ビジネス面での体制も整ってきた。「台湾でブランドを設立した当初は、かなり苦労した。言葉もあまり話せず、人脈もなかった上、とにかく自分が作りたいものばかり考えていたので。今はお客様からリアクションやフィードバックをいただくなかで、ブランドに何かが必要なのかを考える力が身についてきたと思う」と話すウー。コレクションラインである同ブランドとは別に、若者層をターゲットにしたカジュアルブランド「Ms.SW」を立ち上げ、オンラインストアも運営している。「コレクションラインは生地やディテールに徹底的にこだわっているが、新ブランドはより実用的。白や黒、ネイビーなどのベーシックなカラーを使い、1枚でサマになるようなデザインに仕上げている」という。

 

 台湾の市場規模が小さいこともあり、今後はまず東南アジアを中心に海外でのビジネスに力を入れたいという。中国や香港、シンガポールなどでもトレードショーに参加した経験があり、日本では、「PR01.TRADE SHOW」への出展経験もある。

■レジータ・オクトラ「RAEGITAZORO」(インドネシア)

価値や個性の多様性をファッションで表現する

 

 「RAEGITAZORO」デザイナーのレジータ・オクトラ(Raegita Oktora)は、インドネシアの伝統的衣装のシルエットやディテールを取り入れたデザインをネオンカラーでエネルギッシュかつシャープにに見せた。「私が表現したいのは、価値や個性の多様性を認めること。だからこそヨウジヤマモトのような常識を覆すようなシルエットや黒の使い方、マニッシュ アローラのような大胆さを尊敬している」

 

 もともとはインドネシアのバンドンでバッグや靴のデザイナーをしていたが、服飾デザイナーへの夢が捨てきれずジャカルタに移住。イタリア発のファッションスクール「インスティテュート ディ モーダ ブルゴ」のインドネシア校でファッションデザインを学んだ。2016年に自身のブランド「RAEGITAZORO」を立ち上げてからは、ジャカルタや香港、台湾などコレクション発表の場を精力的に広げている。

 

 今後はビジネス面においても力を入れる。現在インドネシアのほかには、シンガポールでインドネシアのデザイナーブランドを集めたセレクトショップで取り扱いがあるのみ。オンラインストアもインドネシア限定での展開だ。「課題は海外進出に向けたネットワークづくり。多くのインスピ―レーションを受けてきた日本をはじめ、さまざまな地域に市場を広げていきたい」と話す。

マカオ生産力及び科技轉移中心(CPTTM)

 

(取材・撮影・文:戸田美子)

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