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2019.11.06

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.60】コンフォート志向、「縦落ち、きれいめ」が加速 2020年春夏東京コレクション<2/2>

◆レインメーカー(RAINMAKER)

 京都に拠点を構える「レインメーカー(RAINMAKER)」は東コレで2度目のランウェイショーで、和のテイストを濃くした。ルック数はメンズ主体だが、ウィメンズでもカシュクールやウエストマークなどを取り入れて、しなやかな着姿に整えている。穏やかなシルエットの「和風テーラリング」を試した。和装を思わせる羽織風アウターは、ゆったりした着映えに導く。つやめきを帯びた生地で仕立てられたトレンチコートはきれいなドレープを生んだ。黒革のライダースジャケットは武骨さを遠ざけた。スーツもパンツがリラクシングなこしらえで、着心地がよさげ。スカジャン風シャツはジェンダーレスな風情だ。

 

 色味は全体に渋めだが、随所に和柄を差し込んで、色気を添えた。小物やアクセサリーで伝統工芸の作り手とコラボレーションを広げている。ネックレス風のミニポシェットは、勢いが続くミニバッグの新提案。墨流し風の染めはほのかな濃淡が品格を寄り添わせていた。テーマレスを貫くクリエーションには独創への自負がうかがえた。

◆ディーベック(D-VEC)

 釣り具ブランドの「ダイワ(DAIWA)」が提案している「ディーベック(D-VEC)」は、以前から野外音楽フェスティバル向きだったが、今回はきれいめカジュアル寄りの立ち位置を得た。パーカやスウェットパンツのセットアップはくつろいだ着映え。ハンカチーフヘムのスカートは裾が優美に躍る。フィッシングベスト風のビスチェは太いベルトで吊った。シャツジャケットはウエストをドローコードで絞れる仕掛け。コルセットライクな絞りも加えている。

 

 張り出しポケットをいくつも付けた服はハンズフリー、バッグレスの快適さをもたらす。ネックレス式のウォレットも重宝なアイテム。薄手アウターやロングベストで縦落ち感を引き出した。パンツスーツはクロップドパンツで軽やかな着映えに。ネオンイエローに加え、オレンジやウォーターカラーでポップに彩っている。特大のゴーグルや、クーラーボックス風の角形バッグも釣りテイストを宿していた。

◆スリュー(SREU)

 レース生地を使った、古着のリメイクを得意としてきたブランド「フルギニレース(FURUGI-NI-LACE)」が「スリュー(SREU)」としてリスタートし、初のランウェイショーを開いた。新品ピースも使って、リメイクの幅を広げている。デニムのセットアップにも、ウエディングドレスのトレーン風薄手レースを添えて、フェミニンを薫らせた。Tシャツやスウエットとも、チュール系素材とマリアージュ。透けるふんわり袖を、カジュアルトップスにドッキングしてみせた。

 

 ジーンズの正面をくり抜くような解体・再生も試みている。良質な古着パーツを生かしたパッチワークを駆使。手仕事のアップサイクルを形にした。ビッグロゴやアメリカンモチーフ、背中プリントなどがコラージュ風に着姿を弾ませている。キャミソールトップスに、チュール系素材を重ねるレイヤードがはかなげで軽やか。背中側の着丈が極端に長い丈違いレイヤードも組み立てた。足元には「LE TORINA(レトリーナ)」のエシカルレザー製スニーカーを迎えている。

ハレ(HARE)

 ブランド名と同じ「ハレ」をテーマに選んで、日本の伝統的な「ハレ」の気分を前面に押し出した「ハレ(HARE)」。着物をモダナイズしたような、オーバーサイズ気味のゆる落ちシルエットを提案。随所に江戸時代風の着物ディテールを盛り込んだ。歌舞伎の役者絵ライクな和柄をはじめ、鼻緒付きの下駄サンダル、数珠状の大玉ネックレスなどが登場。袈裟のように身頃を斜めに横切るカッティング、着物風のアシンメトリー打ち合わせも動きを添えた。

 

 赤襦袢(じゅばん)を思わせる、真っ赤なウエアは視線を引き込む。貴人の色とされる濃い紫も差し色に投入。角張ったシルエットや広めの袖にも和服っぽさがうかがえる。レイヤードに組み込まれた透けるメッシュ生地は、夏の和服素材「絽(ろ)」を連想させる。長短ミックスや前後丈違いなどの工夫がレイヤードに変化を与えている。アダストリアのスローガン「Play fashion!」に通じる遊び心を感じさせた。

◆ウィシャラウィッシュ(WISHARAWISH)

 タイのデザイナー、ウィシャラウィッシュ・アカラサンテスック氏は母国の伝統工芸や服飾文化を作品に注ぎ込んでいる。東コレに2019-20年秋冬シーズンから本格参加。今回もタイ各地の職人とコラボレートして、タイ・エスニックをモダナイズしたコレクションを発表した。チェック柄風のオーバーサイズ・ジャケットでスタート。指先が隠れるほどのロング袖で、着丈も長い。ロングジャケットとショートパンツの組み合わせでは長短のアンバランスで遊んだ。ビッグボウはファニーな量感。耳覆いの長い、ボンネット風の帽子もほほえましい。

 

 タイ各地の職人12人とコラボレートして、オリジナルのテキスタイルを用意した。バティック染めやイカット織りが手仕事感を宿す。しかし、伝統工芸に寄りかかるのではなく、現代の装いにしっかりなじませている。ボディに張り付かないエアリー服はさわやかで涼しげ。暑さ対策が年々、深刻になる日本の夏向けに、タイ伝統の知恵が頼もしく映った。

◆タチアナ・パルフェノワ(TATYANA PARFIONOVA)

 アートとモードの親密度は年々、深まるばかりだ。東コレに初参加したロシアブランド「タチアナ・パルフェノワ(TATYANA PARFIONOVA)」はアート感の高いコレクションを組み立てた。動物愛護と環境保護を重んじるクリエイターらしく、「黒トンボ」をテーマに選んで、ナチュラルテイストを押し出している。色もグリーンを基調に据えている。37着すべてがワンピースという、徹底したドレスコレクション。ミニ丈ワンピースにチュールや刺繍、リボン、フリルなど、ロマンティックなディテールをふんだんにあしらった。

 

 モネの名画『睡蓮』を思わせる色使いを見せた。植物の葉や茎の質感まで伝える、絵画的な刺繍がクチュール感を漂わせる。水玉やストライプ柄などを、植物モチーフとミックス。ウエストの上下でモチーフが別々の柄ミックスも披露。シースルーを多用して、昆虫の薄羽イメージを引き出している。メタリックやスパンコールを配して、きらめきを宿すことも忘れていない。デコラティブでありつつ、涼しげなたたずまいは今のトレンドの本流と映った。

◆ボディソング(BODYSONG)

 きれいめミニマルに寄せるクリエーションが目立った今回の東コレで、ワークウエアやストリートのテイストを押し出したのは、2度目の東コレ参加となった「ボディソング(BODYSONG.)」だ。象徴的なアイテムは、オーバーサイズのベスト。工事用の作業服とも、侍の裃(かみしも)とも見える、立体的なアウター。つややかなケミカル質感や、ロープ状のトグルボタンが目を惹いた。フィッシングベスト風のアウターは、両袖をファスナーで着脱できる仕掛けだ。

 

 反射材やPVCの多用も工業イメージや工事現場感を醸し出している。オーバーサイズが生きて、全体にジェンダーレスなたたずまい。バケツハットやマルチポケット、バギーパンツ、ベルト付きスニーカーにもユニセックス感が漂う。ロゴや英語メッセージをちりばめ、着姿にアクションをプラス。反骨やウイットを感じさせる、意欲的なコレクションだった。

◆ガッツ ダイナマイト キャバレーズ(GUT’S DYNAMITE CABARETS)

 東コレの最後を飾ったのは、約7年ぶりのカムバックとなった「ガッツ ダイナマイト キャバレーズ(GUT’S DYNAMITE CABARETS)」。相変わらず熱量の高いショーで、フィナーレを盛り上げた。持ち味のロック感は健在。花柄ワンピースや太パンツ、ロングフリンジ、つば広帽子などで、ヒッピー気分を漂わせた。グラフィティやマルチカラーで色めかせたワンピースはほのかにレトロ。「LOVE」の文字で埋め尽くしたガウン風の羽織り物は70年代気分を帯びた。左右で全く裾丈の異なるジーンズはロックな顔つきを見せる。

 

 新しいユニセックスのスポーツライン「GCGX」がショーの柱を担った。野球帽風のキャップ、サッカー選手が履くようなニーハイ・ソックスなどに、白と黒のシャープな配色で、4文字のロゴを強調。プロレスラーの武藤敬司や神取忍がモデルとして登場。SM女王風のウエアは女優・美保純がまとった。70歳のモデル、秀香も見事なダンシングウォークを披露。東コレ全体の締めにふさわしい、ゴージャスな華やぎは「ファッションショーらしさ」「ファッションは楽しい」を印象づけた。

 

 

 「ヨシキモノ」で幕を開け、「ガッツ ダイナマイト キャバレーズ」でクロージングを迎えるという展開は華やかさや話題性があった。実際、テレビをはじめ、多くのメディアでも取り上げられ、「新生・東コレ」の変化を物語る。国内外からの参加ブランドも多様性を強めた。アイテム面で増えたのは、コンフォート志向を強める消費者マインドになじむウエア。素材や工程のサステナビリティは世界的なテーマだが、創り手の意欲とビジネスの現実を両立させようと試みる「表現のサステナビリティ」も感じた。全体にリアル感を強めたクリエーションは、「見せるだけ」の服に終わらせないという、新たな東コレの方向感を映していた。

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宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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