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2019.11.06
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.60】コンフォート志向、「縦落ち、きれいめ」が加速 2020年春夏東京コレクション<1/2>
宮田理江のランウェイ解読 Vol.60
宮田理江
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冠スポンサーが変わった「楽天 ファッション ウィーク東京」が2019年10月14~19日、開催された。2020年春夏シーズンを占う東京コレクションは、飾り気を抑えつつ、ディテールや素材に凝る「ミニマル+α(プラスアルファ)」のアプローチが目立った。デイリーに着やすい「出番の多い服」を軸に据えながらも、ディテールや素材で「オンリーワン」の価値を加える取り組みだ。細身で縦落ちのきれいめシルエットが増え、着心地重視、ユニセックス化の傾向が加速。和風テイストの打ち出しも目立った。
◆ハイク(HYKE)
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ミリタリーやユニフォームのムードを下地にしたクリエーションは一貫しているが、今回はフェミニンで柔和な雰囲気が強まった「ハイク(HYKE)」。チュールやオーガンジー系のソフト素材が加わっている。ロング丈スカートを軸に、細長いシルエットを打ち出した。裾のロングフリンジが縦落ちイメージと躍動感を印象づける。トートバッグの2個持ちは量感とユーモアを添えた。
解体と再構成の持ち味は、ロング丈の変形トレンチや、特大のデニムジャケット、ロング丈のチルデンベストなどに発揮。ポンチョ風のケープジャケットは朗らかな着映え。胸元にあしらった、靴紐風のコード使いがアイキャッチー。色はお得意のカーキやベージュ、ネイビー、アーミーグリーンが多い。新たなコラボレーションライン「adidas by HYKE」はしなやかでクール。コレクション全体を通して、2020年春夏のトレンドに浮上している、ミニマルなフォルムに、ゴージャスなディテールを組み込む「ミニマル+α」のテイストを示していた。
◆チノ(CINOH)
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飾り立てないフレンチシックを、軽やかな雰囲気で表現した「チノ(CINOH)」。ボーダー、セーラーなどのマリンテイストを迎えて、涼やかな気分を漂わせている。ビッグスカーフを装いのムードメーカーに据えて、スカーフ仕立てのウエアも用意した。フランス国旗に由来するトリコロールでカラーパレットを統一。にじみ染めが味わい深い。首にスカーフをノンシャランと巻いた、気負わない着姿がコレクションのテイストを象徴するかのよう。パンツのセットアップも伸びやかでリラクシング。
全体にミニマルでありながら、きれいめで粋。こなれ感とグッドセンスが両立している。ロング丈のシャツやジャケットで、シルエットを細長レイヤードにまとめた。オーバーサイズを多用しているのに、縦落ち感が強い。袖を二重にするような、細部への工夫がプレイフルな表情を生んだ。装飾的なパールボタン使いには、ココ・シャネルへのオマージュがうかがえた。
◆ステア(STAIR)
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透けるフィルムを取り入れて、複雑なニュアンスを帯びた異素材ミックスに導いたのは、「ステア(STAIR)」。異なる風合いのファブリックを組み合わせて、ムードに奥行きを加えた。ブラトップのような軽快トップスに、テーラードジャケットを重ね、マニッシュ感を増している。ロングフリンジが揺らめきを添えた。ねじった布でひだをこしらえたり、帯を垂らしたりして、起伏や陰影をもたらしている。
ジャケット、スカート、ワンピースを融け合わせたかのような変形ウエアが着姿をざわめかせた。涼やかなメッシュ、クリアなケミカル素材などを響き合わせて、重たさをオフ。グラデーションを生かして、ぼんやりしたニュアンスを醸し出している。つやめきと軽さを兼ね備えたトランスペアレント素材は、はかなさとスポーティー感をまとわせた。デイリーに着やすいリアルさを備えていながら、素材やディテールに適度な遊び心を宿している。
◆ティート トウキョウ(tiit tokyo)
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メンズとウィメンズの合同ショーとなった「ティート トウキョウ(tiit tokyo)」は、全体にやさしげなムードのコレクションを組み立てた。軽やかな風合いのファブリックを多用して、エフォートレスな着映えに導いている。ウィメンズは縦に長い細身シルエットのレイヤードが主体。透けるシャツ・セットアップやミニマルなトレンチコートなど、ノンシャランとした見え具合の装いを重ねた。
てろんとしたパジャマライクな生地が落ち感を際立たせている。ロング丈のシャツも抜け感を漂わせた。足元はベルトで留めるスポーツサンダルで、軽快さとアクティブ感を呼び込んだ。市松模様(チェッカー柄)を繰り返し登場させ、オフホワイトやベージュといった淡い色味のウエアにシャープなイメージを忍び込ませている。ビスチェをシャツの上から重ねたり、背中で広めに肌を見せたりして、程よい意外感も差し込んでいた。
◆タエ アシダ(TAE ASHIDA)
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アートをまとったコレクションを披露した「タエ アシダ(TAE ASHIDA)」。ファーストルックは、半袖トップスの身頃いっぱいに、ピカソを思わせる顔のモチーフが描かれ、ロングスカートはサム・フランシス風の多色柄で彩られた。コンパクトな白地Tシャツと、つやめき生地をたっぷり使ったスカートの量感コントラストがくっきり。グラフィカルなフェイスモチーフはその後も繰り返し登場した。
マルチカラー柄も装いのキートーンとなった。ジグザグ柄やパイソン柄などが着姿を弾ませている。ミニジャケットは軽快な着映え。サファリジャケット風のワンピースは張り出しポケットが目を惹く。随所にウィットが仕込まれ、ストライプ柄のパンツ・セットアップは背中側が総レースという、前後で真逆の印象。先シーズンにデビューしたメンズラインが交じり、カップルでリンクさせるスタイリングも披露。終盤のドレスは極上のファブリックが深いつやめきを帯びた。ドレスに添えられたリボンベルトは、このブランドらしいエレガンスを薫らせていた。
◆ヒロコ コシノ(HIROKO KOSHINO)
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舞台に選んだ東京都現代美術館にふさわしく、「ヒロコ コシノ(HIROKO KOSHINO)」はアート感覚を帯びたコレクションを用意した。キーモチーフに選んだのは、楽器や音譜。有名ピアニストの横山幸雄氏が奏でる生演奏をバックに、ピアノの鍵盤や、変形の音符柄などのモチーフを写し込んだドレスが姿を現した。プリーツスカートにも鍵盤柄をあしらった。黒と白でまとめたルックはピアノをまとったかのよう。
クチュール的な造形が施されているドレスを披露。過剰な量感や張り出しを持たせて、まるでオブジェのような立体感をもたらした。ラッフルが流れ落ちるようなシルエットや、意外なアシンメトリーがハーモニーをあえて乱すディテールを提案。ミニマルとウィットをねじり合わせた。穏やかなパステルカラーと、キャッチーなネオンカラーを投入して、ドレッシーな装いをチアフルに彩っている。グリーンやイエローのジューシー色が着姿にエナジーを注ぎ込んでいた。
◆ヨシキモノ(YOSHIKIMONO)
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リスタートを切った東コレの幕開けを飾ったのは、3年ぶり3度目のランウェイショーを開いた、ロックバンド「X JAPAN」のYOSHIKIがプロデュースする着物ブランド「ヨシキモノ(YOSHIKIMONO)」。ショーの序盤はベアトップのミニ丈ワンピースを披露。和装には見えにくい、ロックガール風のキュートな着映えに仕上げた。ボディに反物を巻き付けたような、ドラマティックな着姿も斬新だ。
中盤は着丈をロングに伸ばして、エレガンス度を上げた。終盤は本格的な着物ルックが主役に。しかし、アニメ『進撃の巨人』のモチーフをダイナミックにプリントした着物は、ミックスカルチャーのたたずまい。メタリック演出もふんだんに取り入れて、和装にグリッターを投入。様々な人種のモデルを起用して、さらにムードを多様化させている。単なる和洋折衷ではない、着物文化への深いリスペクトを抱きつつ、挑発的なクロスオーバーを試みて、唯一無二のランウェイをグラマラスに盛り上げてみせた。
◆トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)
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2019-20年秋冬シーズンにニューヨーク・ファッションウィークでシンデレラ的デビューを飾った「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」。2度目のコレクションを、初参加の東コレでもお披露目。圧倒的なボリュームとクチュール感で、来場者を驚かせた。平安の十二単(じゅうにひとえ)を思わせるエクストリーム量感のドレスを、無数のフリルとラッフルで埋め尽くすクリエーションはデビューコレクションをしのぐ。チュールやオーガンジー、リボン、ラッフル使いといった世界トレンドにもなじむ。
コスチュームデザインの経験が豊かなだけあって、作風はゴージャスの極み。ふわふわした花びらの雲に埋もれるかのよう。ピンクやイエロー、オレンジ、パープルなどのポップな色を、濃淡のうつろうグラデーションで、一段とあでやかにまとった。たくさん配したリボンは、日本が世界に誇るトップメーカー「SHINDO」の品。創り手が作品に込めた「贈り物(ギフト)」の気持ちをリボンで示した。フィナーレを飾った冨永愛をはじめ、Kōki,や福士リナといった人気モデルが相次いで登場し、盛り上がりに華を添えていた。