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2019.10.30

【連載―ファッション×○○業界に学ぶ】クラファンを通じて“隠れた逸品”を届ける オンワード樫山とマクアケの実験的プロジェクト

アパレルウェブ「AIR VOL. 27」(2019年9月発刊)より

 

編集:福塚真一郎(アパレルウェブ)
編集協力 編集:株式会社ロースター/文:角田貴広/撮影:栗原大輔(ロースター)

 アパレル大手のオンワード樫山が展開するグルメ通販サイト「オンワード・マルシェ」が、株式会社マクアケのクラウドファンディングプラットフォーム「Makuake」とコラボし、食の新しいアイデアを製品化する「オンワード・マルシェMakuakeプロジェクト」を開始しました。第1弾は千葉県にある老舗蔵元「岩瀬酒造」と平成元年に仕込んだ“30年熟成酒平成VINTAGE”の商品化を掲げ、予定金額の7倍の資金を集めて成功しました。その後も熟成肉ブームの立役者であり、六本木を中心に都内10ヶ所以上にレストランを構える『格之進』と組んだほか、2019年9月には第3弾となる麻原酒造とのコラボ企画がスタートしたばかり。アパレルで大手企業のひとつである同社が、なぜグルメ分野で新しい形の新商品開発に挑むのか。オンワード樫山の白井秀樹・オムニチャネル推進室マーチャントビジネス部部長に話を聞きました。また、ページ後半ではマクアケサイドから成功の要因を伺っています。

ポイント: 時代感・ストーリー性を生かしたマーケティング手法で、逸品の素晴らしさを引き出す
狙い: 自社顧客とは層の異なるクラファン会員に向けて、発掘されていない逸品の魅力を伝える
効果: 目標金額以上の支援や異なる層の顧客獲得に加えて、新しい商品開発の知見を得ることができた

株式会社オンワード樫山 オムニチャネル推進室 マーチャントビジネス部部長 白井秀樹氏

―まず、ファッションのイメージが強いオンワード樫山ですが、御社において「オンワード・マルシェ」にはどのような役割があるのでしょうか。

 

白井:日本ではあまり知られていませんが、実はオンワードグループとしては、20年前からフランスで蕎麦懐石レストラン「円」を展開するなど、以前から「日本の食文化を世界に発信したい」という想いを持っていました。その想いの延長線でスタートした食の通販サイトが「オンワード・マルシェ」です。現在は「全国の隠れた逸品」をキーワードに、約450の生産者の商品を取り扱っています。オンワードメンバーズの会員に向けて、ファッションだけでなく食という付加価値を提供したいと思い、「オンワード・マルシェ」がローンチして3年目となるこの秋には、いよいよ海外展開も始まります。

 

―マクアケとコラボすることになったきっかけは?

 

白井:「隠れた逸品」を探していくと、どうしても小さな食品メーカーが中心となります。彼らは良質な商品やいいアイデアを持っているにも関わらず、マーケティングの力が無い場合やプロモーションのリソースがないことが多いんです。我々には「オンワード・マルシェ」はもちろん、アパレル産業で培った商品提案力があります。そのノウハウを生かして何かお手伝いができないかと模索していました。そんな時にオンワードホールディングスの保元(道宣社長)がマクアケの中山(亮太郎)社長と知り合ったことがきっかけで、今回の企画につながったんです。

 

―コラボ企画の目的は何でしたか?

 

白井:出店者の支援が一番の目的です。ですので、長い時間をかけて、何度もブラッシュアップをして、世の中にない新しい商品を作ることを目指しました。

 

―プロジェクトの数や継続の仕方からも、ひとつひとつへのこだわりが感じられます。これまでの2つのプロジェクトはどのようにして実現したのでしょうか。

 

白井:最初は千葉県にある、1723年創業の老舗蔵元「岩瀬酒造」とともに“平成VINTAGE”という30年ものの熟成酒をプロデュースしました。酒蔵を訪れた時に熟成酒が2万リットルも眠っているという事実を知り、この資産をどうにか生かせないかと考えました。ちょうど平成から令和へと変わるというタイミングでもあり、平成元年に仕込まれた熟成酒を“平成VINTAGE”と名付けて平成最後の年に発売するというストーリーが浮かび、プロデュースをご提案させていただきました。第2弾では千葉(祐士)社長が考案した特殊な技術を使った試作品があるという提案をいただき、“薫り肉”という商品が生まれました。

 

―コラボ商品のターゲットは?

 

白井:「オンワード・マルシェ」はスタートしてまだ3年目で、多くの人に知られていません。会員属性が全く異なる「Makuake」で商品提案をすることで新たな顧客を獲得していきたいと考えています。

 

―アパレルの一般的な“製造小売ビジネス”とは異なるスキームでしたが、どのような部分で違いを感じましたか。

 

白井:当たり前ですが、クラウドファンディングに適したものでないと支援が集まらないと感じました。単なる良質なものではなく、時代性に合致していて、ストーリーがあるものという、通常のモノづくりとは少し異なる視点が必要でした。

  • 第1弾「30年熟成酒 平成VINTAGE」

  • 第2弾「薫格・金格ハンバーグ」

  • 第3弾「REIWA NOUVEAU」

コンセプトメイキングに時間をかけ、いかに支援者を集めるか

―予定金額の7倍の資金が集まった第1弾を通じて、クラウドファンディングというサービスにどのような印象を抱きましたか?

 

白井:はじめてのクラウドファンディングということで支援が集まらなかったらどうしようかという不安はありました。ただ、最初の2日間で目標金額を達成したので、すごく嬉しかったですね。結果として約1カ月半で700万円以上の支援をいただきましたが、これは普通にECサイトで販売していても1アイテムとしては、なかなか得られる金額ではありません。クラウドファンディングに参加する支援者の温度感にはあらためて驚きました。

 

―消費者からの支援を集めるために、集客にも力を入れたのでしょうか。

 

白井:プレスリリースを出しましたが、なにか大きな施策を打ったということではないんです。やはり「Makuake」が非常に熱量の高いユーザーを抱えていることが大きいと思います。それ自体が大きな財産なんですね。オンワードの会員も265万人おりますが、クラウドファンディングの支援者は、そことはまた異なるモチベーションなのだろうなと感じました。

 

―ファッションとは違い、食品はECサイトで味が分かりづらいという難点があります。何か解決方法はあるのでしょうか。

 

白井:ユーザーに対して、商品の説明をし尽くすことが必要だと思います。「オンワード・マルシェ」でも編集チームを構成して取材に行き、きちんとした文章と写真素材、デザインで商品の紹介をします。これは、ファッションECで培ってきたノウハウでもあります。出店者に向けるプレゼンテーションと同じように、きちんとストーリーを綺麗な写真と丁寧な文章、そして適切なデザインでユーザーにも伝えることではないでしょうか。

 

―プロジェクト全体を通して、苦労したことは何ですか。

 

白井:質のいい商品を、どう見せて、支援者を集めるか。コンセプトメイキングに一番時間と労力をかけました。また、細かい話ですが、第1弾の時には支援者に商品を送るための発送の手伝いをしたんです。もともと少ない人数で酒造を営んでいることもあり、一度に数百個の発送作業はとても大変だったんです。その苦労は実際に手伝ってみて感じたので、我々としてもきちんと支援をしていかなければいけないと、感じました。

 

―では、このMakuakeプロジェクトから学んだことは?

 

白井:「オンワード・マルシェ」として、オリジナル商品の開発をこれからもっとしていきたいと思っています。今回クラウドファンディングという形で実験的なモノづくりができたことは非常にいい学びとなりました。

 

―最後に、開催中のプロジェクト第3弾について、ポイントを教えてください。

 

白井:今回は麻原酒造という埼玉県のブリュワリーと“REIWA NOUVEAU(レイワ ヌーボー)”という日本酒を作っています。実は、平成から新しい年号「令和」を迎えた5月1日以降、これを祝おうと「令和」という文字が使われたさまざまな日本酒が発売されています。しかし、それらは何をもって“令和”をうたっているのでしょうか。真の“令和の日本酒”とはどんなお酒なのかを本気で考えた結果、生まれたのがこの“REIWANOUVEAU”でした。具体的には、令和に栽培されたお米で仕込み、令和に絞られた日本酒であること。日本酒の酒造年度が切り替わる令和元年BY(ブリュワリーイヤー)の日本酒であることを実現することにしたんです。そして、9月5日にプロジェクトがスタートし、公開からおよそ3時間で目標金額を達成しました。発送は11月中旬以降になりますので、令和元年の忘年会や令和最初のお正月にこの“REIWA NOUVEAU”を楽しんでいただけたら幸いです。

 

■株式会社マクアケにも要因をお伺いしました。

 

―マクアケから見て、予定金額の7倍の資金を集めた第1弾“ 3 0 年熟成酒 平成VINTAGE”プロジェクトの成功要因はなんだと思いますか。

 

マケアケ:375mlで1万3000円超という「Makuake」の酒ジャンルでは高価格帯の商品でしたが、それに見合った高級感のあるサイト設計ができたこと。元号が変わる前というタイミングが非常によかったこと。そして、ストーリーに共感して購入する「Makuake」のユーザーとも相性がよかったことが理由だと考えます。

まとめ: クラウドファンディングを活用して、誰もが商品を作って販売できる時代。プロジェクトを企画して支援を集める多くは個人のクリエイターや生産者で、オンワード樫山のような大手企業が事業の一環でクラウドファンディングを使うというのは非常に珍しいパターンと言えるでしょう。同社がコラボを通じて実現したかったのは、生産者たちの素晴らしい商品を世に広めたいということでしたが、自社のノウハウを生かしたマーケティングによって、実験的なモノづくりに挑戦できたという実績やそこで得られた知見こそが、企業全体にとって大きな財産となったのではないでしょうか。

アパレルウェブ「AIR VOL. 27」(2019年9月発刊)より

 

 


■AIR(APPARELWEB INNOVATION REPORT)とは…

 

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