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2019.10.16

富裕層・インバウンド客への対応強める 大丸心斎橋店・本館が 建替えオープン

大丸心斎橋店本館外観

 去る9月20日、建て替え工事を終えた「大丸心斎橋店」の「本館」がオープンした。開店後は大変な混雑ぶりで、店舗の広報担当者も目の回るような忙しさだったようだ。1カ月近くが経過し、ようやく落ち着きを見せている。従来型の百貨店とは異なり、定期借地契約(定借)を採用したテナント、フロア面積が約65%を占めている本館。新しい百貨店のあり方を模索する同店を取り上げる。

3館体制の本丸に当たる「本館」

大丸心斎橋店本館1階

 大丸心斎橋店は、J.フロントリテイリングのグループ企業、大丸松坂屋百貨店が運営する。大丸は1717年、京都・伏見の地で創業。その後1726年に心斎橋へ呉服店を構えた。現在の店舗の形になったのが1933年。今回の本館の建て替えオープンは、実に86年ぶりのリニューアルとなる。

 

 新生「本館」の延べ床面積が約6万6000平方メートル(旧本館が4万9000平方メートル)、売場面積が約4万平方メートル(同3万1000平方メートル)で、旧本館よりも拡大している。地上11階、地下3階の構造で、高さは約60メートル。売場は地上10階、地下2階の12層で展開する。既存の「南館」、2021年に改装オープン予定の「北館」と併せて、3館体制の複合開発プロジェクトの柱になるのが「本館」だ。ちなみに2021年にオープン予定の北館には、ファッションビル業態の「パルコ」が核テナントとして出店する計画だ。

 

 地下の2層は食品関連がメーンで、地下2階には昨今の商業施設でトレンドになっているフードコート(本館では、「心斎橋フードホール」の呼称)が新たに設置された。1階がコスメやアクセサリー、2階がラグジュアリーファッション・ジュエリー、3階がラグジュアリーとシューズで、下層階は百貨店らしい構成だ。

 

 国内ブランドを主体にしたファッションフロアは、4階から6階に集中している。7階は“癒し”をテーマにしたテナント群を集積。8階は日本の伝統を意識した雑貨や飲食店が出店する。9階はインバウンド客を意識したフロアで、「ポケモン」ショップや免税カウンターなどで構成する。

定借で追求するのはテナントの個性発揮

本館3階。大丸の自主編集売場「シジェームギンザ」

 本館のフロア構成で取り上げるべき点は、定借がメーンになっている事。主に4階以上――全体の約65%のテナントで契約した定借で追求するのは、「テナントの個性発揮だ」と西阪義晴店長は説明する。比較的余裕のある売場面積で、ブランドの世界観をしっかり表現、発信することを重視する。この点は、実際に売場を歩いてみれば感じられることだが、共有部分の通路や壁面、天井の照明を含め、上質感や高級感を演出する工夫が凝らされていることがよく分かる。

 

 重視する顧客層は、富裕層などの既存客やインバウンド客。周辺のビジネスパーソンも対象にする。富裕層向けには、2-3階のラグジュアリーブランドや時計を強化した。インバウンド向けでは、前述した9階フロアが受け皿になる。地階の「心斎橋フードホール」に出店する飲食店のメニューも結構、高価だ。1皿7000円台のフカヒレランチも販売されている。

「GINZA SIX」の知見も活用

大丸心斎橋店本館4階

 ファッション系テナントでは、新業態を展開するブランドも少なくない。例を挙げると「23区」「ワコール」「m-i-d」「ブランピーマスターピース」など、計10店舗が出店している。また、3階フロアの“島”部分には、自主編集売場「SIXIEME GINZA」(シジェーム ギンザ)を展開する。17年4月オープンの「GINZA SIX」(ギンザシックス)に出店している業態だ。

 

 本館のオープン取材でお会いしたテナントのご担当者の感想で、最も多かったのは「『ギンザシックス』のような雰囲気」という意見だ。メディア向けの資料にも、地域を重視した商業施設つくりの“くだり”で、「GINZA SIX」が取り上げられている。直接の言及はないが、銀座で得られた知見を今回の「本館」に活かしている面はあるようだ。

 

 本館オープン後の売上推移を、旧知の広報担当者に聞いてみたが、定借を増やしたこともあり純然たる前年比が出せないこと、一部テナントで免税システムの変更があったことなどから、「具体的な数値を公表するのは難しい」とのことだった。店頭がにぎわっていることは確かだが、実態が見えてくるのは少し先になりそうである。かねて申し上げていることだが、個人的にはオープン景気の反動が落ち着く3年目から、実勢が見えてくるのではと考えている。これからも定点観測を続けるとしよう。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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