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2019.10.11
【インタビュー】家族経営を守り抜く老舗ジュエリーブランド「ダミアーニ」 100周年に向ける意気込み
イタリア・ヴァレンツァに本社を置く、老舗ジュエラー「ダミアーニ(DAMIANI)」。1924年、エンリコ・グラッシ・ダミアーニによって創業された同社は、現在は3代目のグィド、シルヴィア、ジョルジョ3兄弟が経営を行っており、イタリアの大手ジュエラーのなかでは唯一家族経営を保ち続けている。現在は「サルヴィーニ(SALVINI)」や「ブリス(BLISS)」と言ったジュエリーブランドやヴェネチアングラスの名門「ヴェニーニ(VENINI)」、時計貴金属店「ロッカ(ROCCA)」を傘下に持つ一大グループに成長した。
今年95週年を迎えた同社は、アニバーサリースペシャルモデルを発表し、また特別イベントを開催して95年を祝った。その期に、5年後に来たる100周年に向けての意気込みや戦略、創業者一族による家族経営について、デザインやモノ作りへの思いなどを、バイスプレジデントであるジョルジョ・ダミアーニ(Giorgio Damiani)に聞いた。
―95周年を迎えた「ダミアーニ」。ここまでどんな経緯で成長してきたのでしょうか?
「ダミアーニ」が誕生したヴァレンツァは伝統的にジュエリーで知られた街なのですが、ジュエリー職人だった祖父のエンリコ・グラッシ・ダミアーニがそこで1924年に小さな工房からスタートしました。祖父の代では貴族などを中心に顧客を持ち、北イタリアで発展していき、その後2代目である父、ダミアーノがより広い顧客に向けてビジネス展開をしてイタリア全体に規模を拡大しました。そして我々3代目が国際的企業へと広げていきました。
―95年を機に今後のプロジェクト、特に100周年に向けての計画はありますか?
最も大きなプロジェクトはヴァレンツァに新本社を作るというものです。実はヴァレンツァの見本市会場だった12000平米もの広さの建物が、運営がうまくいかず放置されていたので、それを買い取って新本社にする予定です。ジュエリーの街、ヴァレンツァに人をお迎えする玄関口である街の入口に、その地をオリジンとするジュエリーブランドの本社を構えるというのはまさに象徴的なことだと思っています。そして見捨てられていた旧見本市会場の場所を活性化するのは、街のためにも貢献できるのではないかと考えました。今まで「ダミアーニ」は手作業の小さな工房をヴァレンツァの中にいくつも抱えてきましたが、これを機にこれらの工房を本社に集合させる予定です。そして新本社の中にはジュエリー職人を養成するための学校やミュージアムなどを作る計画もあります。すべての機能を一つにまとめた大本社を作るのは父の夢だったのですが、それを100年のアニバーサリーの前にはなんとか実現させたいと思っています。100周年などという機会はそうそう簡単にはありませんからね。また本社を拡大することによって社員も2倍にする予定です。というのも、現在もすでに、「メゾン マルジェラ」、「ジル・サンダー」、「ラフ シモンズ」を始めとしたいくつかのファッションブランドにプライベートレーベルを提供していますが、今後はこの路線を強化していこうと考えているからです。
―95周年で発表された特別コレクションについて聞かせてください。
スペシャルエディションとして、レインボーコレクションを発表しました。それは、これまで「ダミアーニ」があまり使わなかったような色を使った面白い試みで、ピンクゴールドと様々なカラーのサファイアが使われています。95周年の記念モデルとして「ダミアーニ」のアイコニックなモデル「ベル エポック」の、そして95周年のイベントのためだけに、「ミモザ」のレインボーコレクションを作りました。大切に保管してきた貴重な石を使った一点物のピースもあります。実はこれらの限定品の半分ほどはすでに予約済みとなっています。
―レインボーは、LGBTを始めとする最近のダイバーシティ運動にも関係があるのですか?
いえいえ、具体的にそういうものを意識したわけではありません。単純にたくさんのカラーで作り上げられたコレクションを虹色にたとえたものです。ただ、虹というのはどんな人にとっても幸せやエモーションを与えてくれるものですから、そういうポジティブな思いはコレクションに込められています。
―「ダミアーニ」がモノ作りにおいて最も大切にしていることは何ですか?
我々が一番大事にしてきたのは、デザインです。「ダミアーニ」がジュエリー界のアカデミー賞と呼ばれる「ダイヤモンド・インターナショナル・アワード」を何度も受賞してきたこともそれを物語っています。でもデザインのイノベーションと同意に大事にしてきたのはブランドとしての伝統です。コンテンポラリーなデザインながら長く使えるジュエリーというのが「ダミアーニ」の強みなのです。
―洋服と違い、ジュエリーの流行と言うのは少ないと思いますが、顧客に常に新しい提案をするためにはどうされていますか?
ジュエリーのコレクションはシーズンごとに変えるわけではないですし、ジュエリーは長く使ってこそのものでもあります。そんな中で新しいデザインを提案するのは我々にとって常に挑戦であり、最も難しい課題です。私たちは革命的で何か違った新しいものを提供したいと思っていますが、顧客にとっては一生使えるものでなければならないということも忘れてはいけません。ですので、小さなたくさんのディテールの違いを盛り込んでデザインを新しくしつつ、顧客のリクエストも満足させることが大事だと考えています。
―「ダミアーニ」を愛する顧客にはどういう方が多いですか? またどの点を評価されていると思いますか?
様々なタイプのお客様がいます。「ダミアーニ」の製品を愛用してくださるのは、コンテンポラリーなデザインながら、長く使えるモノを求める方々。もちろんある程度のレベル以上のお客様が多いですが、カジュアルなラインもありますので、顧客には若い方も多いです。特に日本のお客様は若年層の方も多く、「ベル エポック」などは特に人気のラインで、レインボーコレクションも完売状態です。日本では他には「ディーアイコン コレクション」も好評ですし、ブライダルジュエリーも好調ですね。
デザインもさることながら、実際に使っておられるお客様から高く評価されているのは、「ダミアーニ」の商品を肌につけた時の心地良さです。これはその長い歴史の中、代々大切に受け継がれてきたもので、製造の段階で肌に触れる部分を滑らかに仕上げることに細心の注意を払っているからです。それは「ディーアイコン コレクション」のジュエリーは、金庫にしまっておくのではなく、実際につけていただくものであってほしいと思うからです。
―ファミリービジネスだからこその良さ、または問題点はどんなところにありますか?
私は個人的には家族経営には多くのアドバンテージを感じていますが、その家族次第なので一般的にそうだとは言えないかもしれません。我々「ダミアーニ」ファミリーの家族経営がうまく行っている理由は、初期の頃から自分たちの方向性がはっきりしていたということ。「ダミアーニ」がどういう方向に進み、将来どうなるべきかに対して同じ考えを持っていたことです。私たち一家はとても団結しているので、日々の細かい問題も大きな苦労なく解決してきました。「ダミアーニ」はイタリアにおいても数少ない、そして多分ジュエラーとしては唯一、創業者ファミリーによる経営が続いている会社だと思います。これは顧客にとっても大事なことであり、ブランドの背景に「ダミアーニ」一族の顔が見えるというのは、より我々の責任が問われる部分であると思っています。
―世界的グループに買収されるブランドが多い中、自社経営でやっていくことにどんな苦労があり、それにはどう対応されていますか?
どんな会社にとっても経営には色々な苦労がつきものですから、会社の規模の分だけ大グループ企業には大きな問題があり、小規模自社経営の我々にも小さな苦労はあります。でも我々は他に左右されるのではなく、自分たちの考えで、自分たちなりに会社を少しずつ大きくしたいと考えています。いくつかの他ブランドを買収したのは、会社を大きくしていくためでもありました。もちろんビジネスのためだけではなく、ブランド自体に惹かれたところもありますが。例えば、「ヴェニーニ」などは素晴らしいデザインと伝統が共存した老舗ブランドとして「ダミアーニ」に通ずる魅力を感じ、このブランドを絶やしたくないという考えもあったからです。そして、先ほどもお話しましたが、特にジュエリー業界では、ブランドの裏に創業者一族が控えているということで、顧客への大きな安心になるのです。毎年ころころと社長が変わってしまうようなグループ企業とは違い、「ダミアーニ」の商品とは常に創業者ファミリーが一緒にいるのです。そのためにも創業者一家がブランドをキープしてコントロールしていくのは大事なことだと思っています。
取材・文:田中美貴