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2019.10.02
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.59】盛り上がるヴィクトリアン 英国流「ツイスト」相次ぐ 2020年春夏ロンドンコレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.59
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2020年春夏シーズンのロンドン・ファッションウィークはヴィクトリアンテイストが大きなうねりとなった。テーラードが世界トレンドとして広がる中、「本家」にあたる英国では、早くも次を打ち出す動きが相次いだ。色やディテールで「ツイスト(ひねり)」を利かせる装飾マキシマリズムを試すコレクションが目立つ。「グラマラス×カジュアル」を融け合わせた「グラジュアル」の新トレンドも予感させるロンドンらしい、アグレッシブな息吹を印象づけていた。
◆ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)
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クラシックとテーラードがモードの大きなうねりとなる中、「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW Anderson)」は別の可能性に光を当てた。ロンドンで最も重要なクリエイターの1人となったJ・W・アンダーソン氏は服とアクセサリーのマリアージュを打ち出した。アクセサリーをスタイリングのキーピースに生かす試みだ。
ドレスの胸を飾ったのは、ブラトップ風のワイヤーリング。クリスタルでまばゆく華やがせた、バストを囲むように身頃正面で主張している。ゴールドやシルバーのメタリックラメも随所にあしらった。斜めがけのボディバッグは大小3個を連ねた。片方だけのイヤーアクセサリーがアシンメトリーの美を引き出す。エスパドリーユが抜け感を添える。
服ではラッフルやフリンジ、ドレープが表情を深くした。片方だけのバルーンスリーブもウィットフルなディテール。タキシードラペル(襟)のジャケットとワイドパンツのスーチングが程よいずれ感を生んだ。ケープやパニエ使いは古風でレディーなたたずまい。ブレグジットを控えて、伝統の英国調を受け継ぎながらも、「その先」を見据えた、挑戦的なコレクションだった。
◆バーバリー(BURBERRY)
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就任から3シーズン目を迎えたリカルド・ティッシ氏は「バーバリー(BURBERRY)」を新たなステージに引き上げた。「evolution(発展、進化)」をテーマに据えて、ヘリテージに磨きを掛けた。創業期にあたる英国ヴィクトリアン朝時代に着想を得て、クラシカルな風情とストリートの気分を交わらせている。
ファーストルックはスリーピース(三つぞろい)のパンツスーツ。あちこちにトリミングを施し、型にはまらない、モダンなスーチングを披露した。たっぷり膨らませた袖や、コルセット風に絞ったウエストはゴシック調のたたずまい。タッセルフリンジの多用も古風なムードを添えた。特大スカーフをドッキングした服は、風をはらんで優美に揺らめく。
伝統のトレンチコートはドレスライクな軽やかさをまとった。布をくり抜くカットアウトも重たさをそいだ。グレー、ブラック、ベージュをキーカラーに選んで、落ち着き感を醸し出した。多彩な動物モチーフが動きを加えている。ウィメンズとメンズの合同ショーで、似通ったシルエットを打ち出し、自在の着こなしに誘った。ヴィクトリアンとモダンのハイブリッドは、163年を経たブランドの進化を印象づけていた。
◆アーデム(ERDEM)
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今回のロンドンで最もカラーリッチと見えたのは、「アーデム(ERDEM)」のコレクションだ。メキシコのムードを漂わせた、マルチカラーのドレスルックを打ち出した。過剰なまでの量感で着姿を華やがせた。着丈はマキシ。ムードはロマンティック。ラッフルやティアードを配して、ボリュームもグラマラスに。袖もパフィに膨らませた。
ゆったりしたシルエットとたっぷりしたドレープがボディラインをぼかしている。多くのモデルがかぶった、中南米風のフラットトップ帽子や素朴な質感のポンチョはラテンテイストをまとわせていた。ヴィクトリアン調も交わらせ、首に巻いたスカーフや肩を包むケープでレディー感を添えた。
まばゆい刺繍やきらめくシャンデリアイヤリングがリュクスもプラス。手の込んだクチュール仕立てと、ラテンフォークロアの快活さが響き合う。モデルの人種的ダイバーシティーの多彩さもクロスカルチャーを強調していた。
◆ポーツ 1961(PORTS 1961)
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「ポーツ1961(Ports 1961)」のアーティスティックディレクターに迎えられた、著名なスタイリストのカール・テンプラー(Karl Templer)氏は、ツイストの利いたデビューコレクションを美術館「テート・モダン」で披露した。ブライトカラーと大胆柄を組み合わせた、チアフルな装いを発表。彩りたっぷりのマキシマリズムなルックでリスタートをポジティブに盛り上げた。
記念すべきファーストルックが今コレクションを象徴していた。コラージュ風のカラーリッチなワンピースは、左半身だけにプリーツを配した、いたずらっぽいアシンメトリー。その後も色・柄ミックスや、パッチワーク、切り替えなど、動きに富んだ表現が続いた。縦横に走るストライプ柄、白黒ルックを躍動的に見せるゼブラ柄も投入。チェック柄のトレンチコートや、パジャマライクなセットアップはジョイフルな着映え。
足元にはローヒールのサンダルで軽やかさを呼び込んだ。ダブルフェイスのバッグ、ボリュームイヤリングなどは、服に加え、アクセサリーを重視する取り組みを際立たせていた。
◆マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)
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ブリティッシュテイストとジェンダーレスという「軸」がぶれない「マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)」はメンズとウィメンズの合同形式でランウェイショーを開いた。知的ムードとトラッド風味を帯びたテーラードジャケットはクロップドパンツでアクティブに演出。ビーニー帽(ニットキャップ)が若々しさを添え、ユニフォームとスクールルックを融け合わせたかのようだ。
足元もソックスとサボサンダルで抜け感を呼び込んでいる。落ち感のあるスラウチなシルエットがこなれたムードを演出。イエローやグレー、アイボリーなど、同系色でまとめる「トーン・オン・トーン」でニュアンスのある装いに仕上げた。ビッグラッフルを襟にあしらったブラウスがたおやかで愛らしい。
来年で50周年を迎えるブランドならではの、タイムレスな装いがかえってモダンなテイストを醸し出していた。
◆トーガ(TOGA)
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古田泰子デザイナーがショーのキーコンセプトに据えたのは「unnecessary(不必要)」という言葉だ。あえて過剰なまでの装飾を施しつつ、テーラードとスポーティーを響き合わせた。光沢を帯びた生地で仕立てた本格ジャケットとショートパンツのセットアップで幕開け。足首にストラップを巻き付けたフラットサンダルが抜け感を添えた。
ストラップやコードは繰り返し、装いに盛り込まれた。フィッシュネット風にまとったり、フリンジ状に垂らしたり。スカーフは長く垂らしたり、髪を包んだりと、着姿に動きを加えた。鮮やかな花柄プリントをあしらった。花モチーフの大ぶりコサージュも着映えを華やがせた。キャンディの包み紙を思わせるきらめきとシワ感を帯びた素材はトーガらしい風合いだ。
パンツはファスナーを膝上まで走らせ、ジャケットは袖に深い切れ込みを入れた。つややかなジャケットを腰に巻いたかのようなミニスカートも提案。全体にウィットフルな着想がルックにスパイスを添えていた。
◆ハウス オブ ホランド(House of Holland)
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1970年代ディスコ気分と90年代レイブカルチャーを交差させ、「ハウス オブ ホランド(House of Holland)」はプレイフルな装いをそろえた。公園での屋外ランウェイという会場設定にも、アクティブ感が漂っている。グラム感とアスレジャーを融け合わせ、野外音楽フェスティバルに着ていきたくなりそうなルックを打ち出した。
大襟のテーラードジャケットに、メタリックなミニスカートを引き合わせるような、ナイトクラビング向きの装いを連打。ネオンカラーを随所に差し色で利かせた。サイケデリック色やグラデーションで、キャミソールのミニ丈ワンピースを彩った。レオパード柄、ポルカドット柄も若々しく着姿を弾ませている。サイクリングパンツやサンダルが軽快なスポーティー感を添えた。
デニムのセットアップも披露。ピンクのつやめいたジャンプスーツはフェミニン×アクティブといった異なるムードが交じり合う。フーディーやレギンスで、アスレティックな装いを試した。チュールの重ね着でムードを深くした。蛍光色のスニーカーがフレッシュな足元を印象づけている。一般来場者に有料チケットを販売するという、ロンドンでは初の試みも話題を集めた。
◆レジーナ ピョウ(REJINA PYO)
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ロンドンの次世代を担う成長株が「レジーナ ピョウ(REJINA PYO)」だ。韓国・ソウルに生まれ、ロンドンに拠点を置く女性デザイナーは、2011年に名門のセントラル・セント・マーティンズで修士号を取得。16年に自らの名前を冠したブランドを立ち上げた。
今回のショーではイージーフィットのシルエットで、リアルとコンセプチュアルを巧みにねじり合わせた。肩から袖にかけてバルーン状に膨らませ、強さと朗らかさを同居させている。リラクシングなテーラーリングを試し、パンツスーツにはチェック柄を織り込んで、しなやかでさわやかな着映えにアレンジ。
オレンジやグリーン、イエローなどのジューシーカラーが着姿をみずみずしく彩った。スカート横に張り出したフープ(輪っか)飾りがアイキャッチー。風呂敷風のクラッチバッグも愛らしさとファニーな気分を添えていた。
ロンドン・ファッションウィークでは、グラマラスな気分を帯びつつも、動きやすさ、リラックス感などを盛り込んだ「グラジュアル」なウエアが目についた。アスレジャーやユーティリティーといった、ここ数年来の流れを引き継ぎながら、エレガンスやリュクス、正統派感を重ねる試みだ。着心地に優れ、自在に着こなしやすい点で、着る側のニーズに寄り添っている。
ロンドンで目立った、もう一つのうねりは、サステイナビリティーの盛り上がり。もはやトレンドを超えて、新たな「コード」になりつつあった。こちらは消費者のエシカルなマインドに寄り添う取り組みと言える。
目先の流行をにぎわせるのではなく、グラジュアルとサステイナブルの両面から、タイムレスな価値観を問いかける、クリエイターたちの態度からは「モードの持続可能性」を探る意識がうかがえた。ファッションの意味が問われる中、創り手なりの「答え」が示されたと映ったファッションウィークだった。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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