PICK UP

2019.09.18

あべのハルカス近鉄本店 化粧品売場 “食べるコスメ”で新しい価値観を発信

強みの“食”を絡めた新しいファッション提案に挑戦するあべのハルカス近鉄本店

 日本一高いビルが何かと注目されがちの百貨店「あべのハルカス近鉄本店」だが、開館5周年を機に今秋9月4日にリニューアルオープンした2階の化粧品売場も、注目に値する新しい取り組みだ。強みの食品を応用した“食べるコスメ”を自主運営のショップで提供する試みである。デパコスと呼ばれる昨今の百貨店化粧品だが、近鉄本店はどういった取り組み、発信を目指しているのか。

発想の転換から生まれた新業態

“食べるコスメ”を扱う「Vegeru」ショップ。2階化粧品売場に隣接する

 “食べるコスメ”を提供する自主運営のショップ名は「Vegeru」(べジル)。英語の「ベジタブル」と、日本語の「食べる」を併せた造語だ。「美味しく食べて、体を美しく、健やかに。」という意味合いを込めた。レシピ作成は、インナービューティープランナーで薬剤師の冨尾明里紗さんから、サラダ製造や販売は、サラダカフェ株式会社(大阪府吹田市)からそれぞれ指導を受けた。

 

 新しいコンセプトのショップ「Vegeru」を立ち上げたきっかけは、「強みの食品をほかの売場や商材の活性化に応用することができないか?」(近鉄百貨店 百貨店事業本部営業企画部担当、山岸俊夫ゼネラルマネージャー)という発想の転換からだった。身体の内面から美しくなることを目的に、オリジナルのサラダとスムージーを主体にした新業態を開発した。ちょうど同フロアの化粧品売場を拡大・強化オープンする計画があった。この機に合わせ、化粧品売場に相乗効果をもたらす目的で、「Vegeru」をオープンした。

「Vegeru」ショップ。スムージーでは生分解ストローを採用

  「Vegeru」のターゲット層は、化粧品売場を利用する20-40代女性がメーン。レシピの特長は、「身体の内側から綺麗になることがポイントで、腸内環境を整える狙いがある」(監修者の冨尾明里紗さん)。サラダのドレッシングとスムージーには“麹菌”を含み、腸内環境の整備に貢献する。原則、砂糖を使っておらず、麹菌の自然な甘みが特徴だ。従来の化粧品売場では、外から綺麗になり、「Vegeru」では内側から綺麗になる。“食べるコスメ”を標榜する所以である。

 

 同店のある天王寺、阿倍野地区はインバウンド客も多く訪れる。百貨店の売りの1つである化粧品売場を強化するに際して、他店と差別化できる要素を模索していた。収益を上げることが第一義だが、化粧品売場の魅力を高めていくことも重要な課題だと認識していた。来店を促す――化粧品売場への相乗効果を発揮する狙いで、「Vegeru」が開発された。

新規9ブランドを追加、約70のコスメ集積に拡大

2階の化粧品売場。食を絡めた新しい価値観を提供し活性化を狙う

 さて、2階の化粧品売場だが、新たに9ブランドを導入し、約70ブランドにまで集積度が高まった。「アンプリチュード」や「ジョー マローン ロンドン」、マッシュグループが手掛ける「セルヴォーク」、ハチミツを配合した「ハニーロア」などが新たに出店している。既存の外資系、ドメスティックブランドに加え、選択肢が広がった。化粧品売場はJR天王寺駅からペデストリアンデッキで連絡する一等地。新規ブランドを導入した区画は元々、ファッション雑貨を扱っていたが、化粧品を拡大し、さらに売り上げの拡大を追求した形だ。

 

 また、化粧品売場のリニューアルに合わせ、エンドユーザーへ向けたイベント「ハルカスビューティーフェスタ」を初開催した。メークアップショーや指導、人気ブランドの新作紹介、トークショー、限定キットの販売、体験会など、総勢21ブランドが参加した大掛かりなユーザーイベントだ。ステージショーだけで計40回に及んだ。こうしたエンドユーザーとの新しいタッチポイントを模索する試みは、今年6月に東京で開催された「ビューティーコン」を彷彿する。

 

 カラー診断は以前、実施していたが、リニューアルを機にいったん終了していた。今後、売場全体で実施する計画はないようだが、サービス提供するブランドもあるようだ。売場に隣接するスペースでは、今後も「ハルカスビューティーフェスタ」のようなイベントを継続して開催していく計画だ。

 

 品揃えとイベントを掛け合わせたサービス構成で、売場の魅力を高めていこうとしている同店。新業態の「Vegeru」の年間売上目標は4,000万円。それほど高い目標ではないが、化粧品売場を活性化させるという優先目標がある。今後は、近鉄電車の沿線施設やファッションビルなどへの多店舗展開も視野に入れている。今回は、食を絡めた新しい試みは化粧品だった。主力商材の1つ、アパレルにおいても、何か新しい提案ができる可能性があるかも知れない。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

アパレルウェブ ブログ

メールマガジン登録