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2019.08.27

【インタビュー】アーバンリサーチが推し進めるサステナブルブランド「commpost」の実態に迫る

 リサイクルを始めとするサステナブルな取り組みの中でも、高度なモノづくりの考え方と言われている「アップサイクル」。アップサイクルとは、単に素材の再利用をするのではなく、素材を再利用する際に、元の製品より良い製品や価値の高い製品の製造を目指す考え方を指します。この敷居が高いと思われがちな「アップサイクル」に、ファッションの分野からスタイルのある新しい価値や考え方を提示しているアーバンリサーチの「commpost(コンポスト)」。同ブランドを立ち上げた萩原直樹執行役員に、取り組まれている内容の詳細やサステナブルな活動をするときに意識すべきことなどについて伺いました。

きっかけは「デッドストックの廃棄をなくしたい」という問題意識

――「commpost」はどのような経緯、背景で誕生したのでしょうか?特徴やブランド名の由来なども含めて教えていただけますか?

 萩原直樹氏(以下:萩原):「commpost」は、デッドストックを異業種が協力してアップサイクルしたブランド名です。このブランド名は「common (sense)」(共有・共同・常識・良識)と、「post」(郵便・提示・標柱)を組み合わせた造語で、ファッションの立場からアップサイクルなどに対して新しい価値観や考え方をポストし、それを皆で共有していく、そんな思いが込められています。

 

 「commpost」を作るきっかけは今から2年ほど前になります。当時、デッドストックの廃棄をなくしたい、という問題意識がありました。このデッドストックは主に不良品や汚損品であり、売れ残り在庫ではありませんが、出さないようにしてもどうしても一部発生していました。この問題を大学や研究グループ、NPO、他企業や有識者の方々等と一緒に考えることになって、その交流の中からのつながりで「commpost」を作ろうとなりました。

 

 「commpost」の第1弾商品であるマルチパーポスバッグの仕組みは以下の通りです。

 

 1.デッドストックを色で仕分け
 2.色ごとのシート作成
 3.商品製作
 4.販売
 5.回収

 

 マルチパーポスバッグには、京都工芸繊維大の木村名誉教授が率いる研究グループ「カラーリサイクルネットワーク」の技術が活かされています。

 

植栽の鉢カバー・ランドリーバッグ・ゴミ箱・ステーショナリー収納・キッチン周りの収納・キャンプ道具収納など
ユーティリティーに使用できる撥水性のあるバッグ

 また、縫製などのお仕事は、大阪箕面市のNPO法人「暮らしづくりネットワーク北芝」に委託しています。これによって、どこかに雇用されて、決められた時間のあいだは仕事をする、という働き方が合わない方々(小さいお子さんのいる女性、体力にあまり自信のない高齢者、障害者など)のはたらく機会を生み出しています。

 

 この取り組みをSDGsの17の目標に当てはめると以下のようになります。

 

 (8)障がい者をはじめとした就労困難者の雇用創出
 (9)衣料品をアップサイクルする技術を活かし、資源を持続的に活用する基盤構築
 (12)生産者の責任として、デッドストックの処分を大幅に削減
 (13)アップサイクル商品の循環構築により気候改善
 (17)研究グループ、NPO、弊社(民間企業)などが協力して付加価値を創造

 

 なお、「commpost」の素材として再生できない衣料品等があるのですが、それらのうち使えるものは、ミャンマーでの学校建設や井戸掘り、ベトナムの地域伝統や環境保全などに取り組むNPO法人ブリッジ エーシア ジャパン様に寄付しています。

――「commpost」は環境面だけでなく、労働や社会に対しても向き合っているのですね。実際にマルチパーポスバッグを販売した際のお客様の反応はいかがでしょうか。

萩原:マルチパーポスバッグを2018年11月に販売開始し、ご好評のためすぐに生産が追い付かない状況となりました。お買い求めいただくお客様は、ストーリーではなく、デザインで買っていただくことが多いと聞きます。

 

 マルチパーポスバッグは最初からデザインにこだわり、商品そのものの魅力を高めることに注力しました。また、価格についても経済性と就労困難者の雇用の継続を同時に実現できるよう、緻密に計算しました。これに加えて当社の販売スタッフが関係者の思いをお客様にしっかりと伝えてくれたり、商品を目立つように配置したりしてくれたりしたことも力になりました。そういうことが積み重なってよい結果につながっていると思います。今度はこれを継続・拡大していくところがポイントと考えています。

会社ではSDGsを全社的に推進するためのプロジェクトチームも

――「commpost」以外にも御社ではサステナブルな取り組みはされているのでしょうか。

萩原:2019年秋冬に向けて、当社が力を入れているもう一つの取り組みがグリーンダウンプロジェクトです。グリーンダウンプロジェクトは、使い古した羽毛製品を回収し、その中から羽毛を取り出して洗浄・加工することで、新毛よりもきれいな羽毛に再生して使う取り組みです。羽毛資源には限りがあり、また中国において投機対象となったことで価格が高騰するなど、様々な理由で供給量が減少しています。

 

 この解決策として再生羽毛を推進する一般社団法人Green Down Project様に、当社は全面的に協力しています。この取り組みには様々な企業・団体等も参加していますが、羽毛製品の店舗回収量は、昨年、当社が実績No.1でした。また、今年の再生羽毛を使った商品生産量は全体の3分の1を占め、こちらもNo.1となっています。

使い古された羽毛製品は店頭で回収

 また、今年は春に次世代を担う学生の方々を対象として、グリーンダウンのデザインコンペティションを実施しました。これは羽毛が限りある資源であることの理解や、今後のアパレル企業においてサステイナビリティを考える大切さを伝え、これをきっかけに学生の方々が環境問題などに関心を持つきっかけなってもらえれば、との思いから実施しました。今回の優秀者のデザインは、11月頃に商品化したものを販売する予定ですので、ご覧いただけるとうれしいです。

――今後サステナブルな活動をさらに推進していくためにどのような取り組みを考えているのでしょうか。

萩原:当社における今後のサステイナビリティは、SDGs支援の枠組みの中で実現することを考えています。当社ではSDGsを全社的に推進するため、昨年11月にSDR(Sustainable Development Research)というプロジェクトチームを作り、15名程のメンバーで毎週、議論を行っています。先ほどお話したグリーンダウンのデザインコンペティションも、SDRメンバーの中から提案されたものです。

 

 また、今年春に子会社として株式会社URテラスを設立しました。この会社は障害者雇用に特別の配慮をした特例子会社としての申請を行っています。会社名には、ライフスタイルを提案する株式会社アーバンリサーチから飛び出して、見晴らしのよいところで、希望をもって、新しいことにチャレンジできるような場所にしたい、という願いを込めています。障害者の方々がこの会社の中で活躍していただくためにも、今後、更なるイノベーションを生み出し、新しいお仕事を増やしていく必要があると考えています。

 

サステナビリティの実現には社会課題の解決と経済性のバランスが重要

2019年春に設立されたURテラス

――SDGsを意識した、サステナブルな取り組みに意欲的な御社から見て、ファッション企業がサステナブルな活動する上で大切なことはどのようなことでしょうか。

萩原:ご参考になるかどうかはわかりませんが、我々がサステイナビリティを考える上で意識していることは、その案件が自分たちのスタイルというか目指す方向性に合っているかどうか、という部分です。そこがずれていれば良いお話であっても進行しないようにしていますし、逆に合致するのであれば、SDGsの番号に該当するものがないとしても実行するようにしています。

 

 とはいえ、我々も営利団体ですので、スタイルに合致していれば利益度外視で実施するのかと言われればそうではありません。そこは社会課題の解決と経済性を同時に解決する必要があり、そこのバランスが取れていないとサステイナビリティにはならないと考えています。そういう意味で、今回の「commpost」は、経済性と社会課題の解決を同時に解決する一つの良い事例だったのではないかと思います。

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