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2019.08.07

【連載―ファッション×○○業界に学ぶ】 感覚的な理想論を事業につなげるビームスとスペースシャワーTV による“台本のない”映像作り

アパレルウェブ「AIR VOL. 24」(2019年6月発刊)より

 

編集:福塚真一郎(アパレルウェブ)
編集協力 編集:株式会社ロースター/文:角田貴広/撮影:藤井由依(ロースター)

(話を聞いた人)日高正幸/ビームス クリエイティブ 販売促進本部 PR戦略部 プレス 係長 PR ディレクター(写真左)、森岡重光/スペースシャワーネットワーク アライアンス本部 アライアンス事業部 EYESCREAM事業課 課長補佐 プロデューサー

 ビームスが2016年7月に日本最大級の音楽専門チャンネル「スペースシャワーTV」と始めた共同プログラム「PLAN B」。アーティストのいつもの姿(A面)ではなく、新たな側面(B面)を発見することを目指し、アーティストとクリエイターを掛け合わせて“予測不能な”音楽と映像を作るという実験的な取り組みです。1クール3カ月でその時のムードにあった注目アーティストを3組ピックアップし、毎月コンテンツを発表するプログラムですが、なんと台本や絵コンテなどの準備は一切ゼロ!だからこそ、これまでにはないハイクオリティーな映像が次々と生まれているわけです。どんなきっかけでこのコラボが生まれ、どうやって予測不能な企画を続けてこれたのでしょうか。

ポイント: 心から信頼できるパートナーに対して「面白い」を徹底的に共有・追及する
狙い: 見たことのない音楽とファッションの融合コンテンツを作る
効果: 映像制作にとどまらない、多面的なクリエイションが実施できた

―まずはPLAN B が生まれた背景や経緯 について教えてください。

 

森岡:スペースシャワーはもともとCSの音楽専門チャンネルからスタートしたんですが、今では山中湖で夏に「Sweet Love Shower」という大型フェスを主催したり、ライブハウス「WWW」の運営やアーティストマネジメントなども手掛けています。事業が多角化する中で、日高さんがお客さんとして「Sweet Love Shower」に来てくれて、出会ったんです。

 

日高:5年前くらいですね。今でこそ音楽業界からファッション・アイコンになるような人たちが多く出てきていますが、当時はファッション業界に新しいアイコンがいないことに危機感を感じていて。同時にビームスとして、どうやって若年層と対話をしようということを考えていた頃で、「Sweet Love Shower」に行ったら、僕らがお客さんとして来て欲しい若者がいっぱいいたんです。

 

それで、まずはフェスに協賛をさせていただくことになり、森岡さんといろいろ話す中で、感覚の近い人だなと思いました。アーティストに対するリスペクトがあって、単純に音楽業界というくくりには収まらない気がして。特異というか、この人たちとだったら、なにか突っ込んだことができるかもしれないと感じたんです。そうして話している中で、と言ってもカルチャー談義みたいな雑談から、ふと生まれたのがPLAN Bだったんです。

 

森岡:世代も一緒で、通ってきたカルチャーも一緒で、僕たちの感覚が合っていたことは重要でしたね。

日高:でも、明確なビジョンは正直なくて、むしろ、みんなが今こういうことがあったら喜んでくれるんじゃないかという気持ちだけで動いていました。普通は企画をきちんと立てて会社を説得するものですが、感覚的に集まってくれる人たちを大切にしたくて。当初は、これほど音楽シーンがビックトレンドとしてフォーカスされるとは思っていませんでしたし。

 

―最初は日高さんから映像を作りたいというアイデアが出てきたんですか?

 

日高:そうですね。仕事として考えた時にこれから映像コンテンツは来るだろうし、近い将来音楽シーンからアイコンが出てくるかもしれないという予感はあったので、そういう点では(スペースシャワーは)鬼に金棒じゃないですか。彼らは段違いのブッキング力を持っていて、彼らだからこそ話せる人たちもたくさんいて、こんなにすごいんだということを実際にやっていく中で実感しました。彼らと仕事をすると、単なるクライアントワークにならないんですよね。

 

森岡:通常だと、拡散力のあるモデルを起用するとか、“どメジャー”なことをまず一番に求められます。この企画に関しては、日高さんにはそういう考えがなくて。変化球が来るから、こちらも変化球を返せるというか。そもそもの入り口が他のプロジェクトとは違いましたね。

 

日高:友達と話していて、自分が好きなマニアックな音楽とかを紹介して、どういうリアクションが返ってくるか、って考えると楽しいじゃないですか。でもこれはマニアックなものを知っていて、さらに広げてくれる人とじゃないと、成り立たない。だから「PLAN B」は誰とでもできる企画ではないんです。ここまで続けてこれた要因は、最高のパートナーに出会えたことだと思います。

 

森岡:協賛とか提供番組などの座組みは昔からありましたが、普通は台本を作って、香盤表を作るという映像制作のセオリーがあります。僕が面白いと思ったのは、今回はそれを全部取っ払ったことですね(笑)。ガチッと固めることはやめましょうと。筋書きも台本もない映像制作はかなり斬新でした。

 

日高:出てもらうアーティストの選定に一番時間がかかるんですね。自分たちの気分を3カ月というワンクールの間に3組みのアーティストで表現するとなると、ピックアップするのがめちゃくちゃ難しくて。でも、ちゃんとコンテンツをシビアに考えるからこそ、僕らが発信したいメッセージは自然と映像に集約されるんです。普通は流行っている音楽とかアーティストを起用して、それだけだと伝えたいことが入っていないから、そこに広告的なコンテンツを載せるわけですが、僕らは真逆のアプローチです。僕らがリスペクトしているアーティストが自由に作るコンテンツこそ、メッセージが一番太く伝わるんです。この企画だけじゃなく、こういう考え方はビームスならではなのかなと。

 

森岡:今ではいろんなアーティストから出たいと言われるようになって。

 

日高:ありがたいことですよね。これからもアーティストへのリスペクトと対話は忘れてはいけないですね。

  • ビームスは、スペースシャワーTV「SWEET LOVE SHOWER 2018」にも協賛

  • ビームスは、スペースシャワーTV「SWEET LOVE SHOWER 2018」にも協賛

  • ビームスは、スペースシャワーTV「SWEET LOVE SHOWER 2018」にも協賛

制限を設けないからこそ、予想を超えるアイデアが生まれる

 

―そもそも、両社の業務分担はどのような形でしょうか?

 

日高:制作面はもちろん全てスペースシャワーに担当していただいていますが、それ以外はとくに分担はしていなくて。毎週定例会議をやっていて、企画内容を常に話しています。その時の気分を伝えることに一番時間を使っているかもしれないですね。

 

森岡:といっても、世間話の延長で、チームのみんなが持ち寄ったコンテンツとか人選を話していくんです。こんな企画の進め方はなかなかないじゃないですか。

 

日高:何度か納得できなくてヒートアップすることもありましたが、全然嫌な感じじゃなくて。むしろやりきった感があるし、なんならアーティストが作品を作ることで、僕たちのイメージをはるかに超える答えを出してくれることもあって。さすがに痺れます。クライアントワークだとなにかと規制をかけざるをえないものですが、しっかり対話してアーティストと共にモノ作りを行えた時にしか見えない景色をたくさん見せてもらっています。

 

―ちなみに、はるかに予想を超えてきたアーティストの一例を知りたいです。

 

日高:たとえば、Dos Monosとか。映像を作る前に一応趣旨を説明してもらうんですが、彼らの意図が最初は全くわからくて(笑)。それはどういうことだ、といろいろ聞きすぎちゃったんですが、出来上がった作品を見たら、完璧に彼らの雰囲気が伝わる作品で。あれはやられましたね。

 

森岡:絵コンテがないなんて普通はありえないですが、映像が上がってくるまで僕らも想像がつかないので、一視聴者として毎回楽しみにしています(笑)。

 

日高:こうした企画を続けられるのって本当に珍しいことです。普通は感覚論ではなくて成果を可視化だったり、数値化しなくちゃいけない。けどこの企画は、音楽とファッションっていう感覚的な表現と、それを支持してくれている人たちのテンションとかそういうものが成果だったりする。

 

これって、ものすごく測りにくいものですよね。それを続けられているって、両社がそもそもそういうテンションを評価できる集団だからなんだと思います。最近では映像から飛び出してインストアライブをやるようにしていて、これは、集まってくる人のパワーとかを現場にいる全員や、間接的にでも周りの人たちが感じられるからなんですよね。世代の異なる社員からも、この空気感を体感することでプロジェクトを支持をしてもらえるようになったっていうのもあります。

 

森岡:ショップをライブ会場に作り変えたり、無茶してきましたね。

―視聴者や顧客からの反応はいかがですか?

 

日高:今はデジタル上の映像がメインなので、もっとダイレクトに反応が見えたら最高だなと思っています。そのためにインストアライブがあるわけですが、毎回たくさんのお客さんが集まってくれるので、ちゃんと届いてるんだって実感しています。

 

―話を聞いていると、PLAN B自体がなんらかの効果を生むというより、ここで学べたことや、他の企画・領域に生かせたことが多いんじゃないんでしょうか。

 

森岡:最初は1クール限定のつもりで始めたのに(笑)。今では両社の関係も発展できて、次は何仕掛けようかということを2社で考えられるようになったのは「PLAN B」がきっかけですね。

 

―最後に、今後の両社の展望を教えてください。

 

日高:そもそも何かを届けたいというより、ビームスが好きなものを共有したいという思いが強くて。「あの子いいよね」に対して「俺も好きだよ」といえる場所でありたいので「PLAN B」は今後もできるだけ変えずにやっていきたいと思います。もちろん、それ以外にも色々考えていています。5月には台湾でのライブ開催も実現します。

 

森岡:ここからさらにどんどんアイデアが広がるのは目標ですね。台湾は初めての場所なので不安もありましたが、情報解禁したら2日でチケットがソールドアウトしました。ビームスは台湾にもあるので、彼らのPR力もあってこそですが、ちゃんと「PLAN B」が海外にも届いたというのは嬉しかったです。

 

(インタビューを終えて)

 本当に面白いものを作ろうと始まったビームスとスペースシャワーによる映像制作プロジェクトですが、期待を超えるほどのコンテンツを生み出し続けることができるのは“信頼関係”あってこそなのだと、話を聞いて感じました。価値観の合う仲間を見つけて妥協なき議論を重ねつつも、筋書きを作らない、感覚を具現化するといった“不安定”な要素を残していることがこのプロジェクトの特徴だと思います。可視化できない部分を残しつつコンテンツを作るためには、担当者と会社、クリエイター、協業相手といったあらゆる方向との信頼関係が必要となります。生まれた映像は(広告感のない)純度100%のコンテンツながらも、きちんと両社が伝えたいことが凝縮されており、結果として、顧客層とも継続的な信頼関係が生まれているのではないでしょうか。

アパレルウェブ「AIR VOL. 24」(2019年6月発刊)より

 

 


■AIR(APPARELWEB INNOVATION REPORT)とは…

 

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