PICK UP
2019.07.17
若い世代を開拓した阪急三番街 きっかけは”フードコート”
樋口尚平の「ヒントは現場に落ちている」 vol. 66
ここのところ、いわゆる“ニューリテール”を切り口にした小売店舗や商業施設をご紹介してきた当コーナーだが、今回は王道の取り組みで新規の客層を取り込んでいる事例を取り上げる。大阪・梅田の老舗地下街、阪急三番街だ。昨年春に北館地下2階の大きな区画を全面改装し、「梅田フードホール」として再スタートを切った。ショッピングモールでよく見られる中央に食事用のテーブルを配置したレイアウトが特徴だ。
ファミリー層を取り込んだ北館
阪急三番街はJR大阪駅およびその周辺施設と地上・地下の両面で連絡している物販施設だ。施設の中央付近には阪急電鉄のターミナル、梅田駅があり、JRからの乗り換え客が頻繁に行きかう道中に位置する。地上2階、地下2階の4層構造で、地階と地上1階にテナントが集中している。飲食系と物販系の売り上げがほぼ半分ずつという、最近では珍しいタイプの施設である。2018年度の売上高は350億円(104%)で、台風や地震などの影響で営業日数が減少したにも関わらず、健闘した。
歴史ある施設ということもあり、その構造はやや複雑だ。初めて訪れた者は少々、戸惑うかもしれない。大阪駅側の南館と阪急電鉄寄りの北館で構成されていて、その連絡は地上と地下2階からのみである。そのため、両館の回遊性や知名度の向上が継続した取り組み課題だった。ちなみに阪急電鉄の梅田駅は、両館のちょうど連絡通路上にある。
昨今、重点的に力を入れているのが北館。あえて南館とターゲット層にメリハリをつけ、働く女性をメーンにする南館に対し、北館1階は「働くお母さん」をコンセプトにした。昨春オープンしたフードコート「梅田フードホール」はその地階に位置する。北館は30代メーン、南館は20代後半のOL層をイメージしている。
週末にファミリー層が来館しやすいようにするのが主な目的だったが、実際の利用者数も増えているそうだ。同地下1階には「キディランド」「ユザワヤ」「ニトリ」などが出店しており、このフロアもファミリー層には便利な区画だ。北館はこのように「働くお母さん」やファミリーを意識しているが、地階の「梅田フードホール」は新しい客層を取り込む呼び水にもなっている。
顧客の利用シーンの幅を広げる
北館の活性化に一役買った「梅田フードホール」
個性派の料理を提供する計19のテナントで構成する「梅田フードホール」。前述したように、中央付近にテーブルを配置し、注文した料理を食べることができるレイアウトだ。こうした構造や提供の仕方は、郊外型のショッピングセンターでよく見かけるが、都市部型の地階で展開する事例はあまり見たことがない。
幅広い客層がより利用しやすいよう、こうしたスタイルを採用したという。またショッピングセンターのフードコートよりも「上質なテナントを集積し、差別化を図った」(阪急阪神ビルマネジメントSC第一梅田営業部営業・フロア責任者、小森涼平氏)。料理の種類=ゾーンごとに内装を替え、入りやすい環境を整えた。
同施設は顧客の年齢層が全体的に高い傾向にあるが、昨春の改装以降は若い世代の利用が増えている。前述の通り、入りやすいレイアウトにより、様々なシーンで活用できるフードホールの効果が表れたようだ。北館の地上階も好調な推移である。
同施設ではSNSを活用しておらず、販促ツールは駅媒体とダイレクトメールという王道スタイルだ。立地特性も関係していて、毎日のように利用する客層には、こうしたアピールの方が効果的のようである。
アパレル関連テナントも健闘
南館のアパレルテナントも健闘している(南館地下1階)
一方、南館を中心としたアパレル関連テナントも健闘している。フードホールの改装と直接、関係はないが、着実に顧客を取り込んでいるテナントが多いこと、主力テナントが自前のSNSを強化していることがプラスに働いているようだ。2018年度の「アパレル」部門の実績は99%とほぼ前年並みの推移だった。第1四半期が終了した今期は、105%と好調な経過である。
好調テナントは「ノーリーズソフィー」「ユナイテッドアローズグリーンレーベルリラクシング」「ナチュラルビューティーベーシック」「ルージュ・ヴィフ ラクレ」など。南館の地下1階に集積するレディステナントだが、おしなべて好調だ。
レディスに比べ比率は少ないが、メンズテナントも着実に強化を進めている。オーダースーツの「ファブリックトウキョウ」を導入したほか、既存店では「麻布テーラー」が堅調だ。「リングジャケット」の別業態「テーラーリング」も徐々に顧客を取り込みつつある。「ユナイテッドアローズグリーンレーベルリラクシング」のメンズ商材の売り上げも伸びている。
改装により、南館と北館でターゲット層にメリハリを付けた同施設。ターミナル立地を活かして、幅広い客層を効率良く取り込んでいるようだ。
樋口 尚平
ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。
|