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2018.01.31

【現地リポート】ベルリンファッションウィーク期間に開催 「#FASHIONTECH Berlin」が探るデジタル時代におけるモード業界のあり方

©FASHIONTECH BERLIN

サステナブルな未来へのアプローチ

 

 独・ベルリンでファッションウィークが開催されている期間中(2018年1月16~19日)には、数え切れないほどのキャットウォークにレセプションパーティ、バラエティ豊かなメッセが開催されているが、2015年から始まった「#FASHIONTECH Berlin(#ファッションテック ベルリン)」と名付けられたカンファレンスでは、モード産業の未来をメインテーマに捉え、ブランド、オンラインショップ、コンサルタント、メディア、各方面のエキスパートをスピーカーに招き、画期的なプレゼンテーションが行われる。舞台上だけでなく、イノベーション素材の発表や製造プロセスを公開することでも有名である。

 

 テクノロジーの合理性にフォーカスする傍ら、「#FASHIONTECH Berlin」が標榜するテーマはサステナビリティ、つまり持続可能な産業の発展。ドイツのモード業界は、プログレッシブにデジタル社会への移行を推進しつつ、一方で近年悪化が懸念されている環境問題や衣料業界が引き起こしている労働問題を内省する観点から、サステナブルな未来へのアプローチを詳細に示そうとしている。

 

デジタル時代のスマートなアプローチを模索する

 「#FASHIONTECH Berlin」のコントリビューターであり自らデザイナーのビョーン・レッドツケによれば、デジタル化とはインターネット技術による情報の国際化で個人間の間を横断的に情報が流れていくような現象を示しているという。例えば、スタイリストやバイヤーが発するコレクションが注目を浴びてInstagramのアカウントを成功させ世界的な影響力をもつようになる。このようなことが普通になりつつあるのが今日のソーシャルネットワークを母体とするデジタル社会だ。25年くらい前まではブランドと消費者を結ぶものは雑誌や新聞広告、デパート売り場、他に何があっただろう。

 

 ドイツ南部ミュンヘン発祥の高級レザーブランド「MCM」は、一時期人気は低迷していたが華麗にストリートファッションの代名詞的ブランドという地位を築き、単なる“高級バッグブランド”というイメージから脱却した。この背景には2005年以降(韓国のSung-JooグループがMCMを買収)のソンジュ・キム社長のデジタル戦略が功を奏したとみてよい。

ミレニアル世代に向けたブランディングとデジタルストラテジー

MCMのソンジュ・キム社長(左)©FASHIONTECH BERLIN

 「デジタル戦略は不可欠です」――そう語るのは、前出のソンジュ・キム社長だ。「The Journey and Transformation of a Global Luxury Brand into the Digital Era(デジタル時代に移行する世界的ラグジュアリーブランドの道のりと変換)」と称された対談の中で強調するのは、2つ。1つはミレニアル世代へのアプローチがこれまでのマーケティングとは違うという点で、デジタルメディアを介してコミュニケーションをするということは、より消費者の心理と行動を理解していく必要があるという点だ。「ミレニアルたちは受け身の消費者ではないし、古い価値観を押し付けられることを嫌い」「タイムマネージメントやモビリティへの意識も明確」、そして 「無駄を嫌い、所有への意識も違う」と語った。

オンラインファッションメディア「REFINERY 29 GERMANY」のクラウディ・ツァクロッキ

 また、女性向けオンラインファッションメディア「REFINERY 29 GERMANY」のクラウディ・ツァクロッキはプレゼンテーションの中で、「ミレニアル女性たちに受けるブランディングの4つのルール」を提言したが、それらはこれまでのファッション誌の視点とはまるで反対であると筆者は感じた。中でも「Don’t Make Assumption(根拠なしに決めつけない)」や「Give Her Tools, Not Rules(ルールではなくツールを与えよ)」は、従来メディアが提案してきたお姉さんの助言的なハウツーとは全く違う。動画を自由に扱えるデジタルメディアにおいては「The Power Of Live(ライブの力)」をストーリーテリングの方法として有効に使わない手はない。

オンライン&オフラインのシームレスなマーケティングとエンジニアリングが鍵に

©betahaus

 カンファレンスでは、「デジタル化」はもちろんのこと、「シームレス」というキーワードも「ミレニアル」同様、よく耳にした。今日の購買のための意思決定において、消費者は、商品力だけでなく“ 体験”を意識しているという。ここでいう体験とは消費体験のことであり、オンラインと実店舗のオフラインのシームレス化、またモバイル、タブレット、PCと複数のデバイスでオンラインのサイトを行き来する消費者の動きを途切れることなく繋ぎ合わせること――それがシームレスであれ、というのだ。そして消費者は、オンラインとオフラインのシームレスな消費体験を期待している、それにいかにマーケティングとエンジニアリングの方面で企業は答えていくかということが問題になっている。

 

 「デジタル化はそれが我々にあっているかどうかに関わらず、起こっています。私たちが生きて働くその仕様は深遠な変化を遂げています」。冒頭のビョーンの言葉だ。ファッションデザインはある種クラフトマン的な側面があるためデジタルと事実上ほど遠いものでもある。オンラインショッピングサイトの「Zalando」は、自らを通信販売会社であると同時にテック企業であると明言した。コンサルタントのジモーネ・ハートマンは「今日すべての企業はスタートアップである」とも。

 

 モード業界のデジタル革命は始まったばかり。未来のトレンドは常に新しいテクノロジーによって書き換えられていくであろう。デジタル化がもたらす今後の動向は未だその可能性も限界も明確でないからこそ、「#FASHIONTECH Berlin」は模索する者たちが集まり語り合い、議論しあうプラットフォームとして機能していこうとしている。次回2018年7月のファッションウィーク中に開催される。

 

#FASHIONTECH Berlin 公式サイト


 

 

進士 恵理子
Eriko Shinji

 

広告代理店での勤務を経て2003年にベルリンに拠点を移し、VICE Magazineや、Bread and Butter Berlinなどの音楽・ファッション・アート・ストリートカルチャーをベースにしたメディアで、フリーのエディター、コーディネーター、通訳・翻訳業務を行う。2007年からはWeissensee Academy of Art Berlinでデザインの実践と理論を学び、2017年ディプロムデザイナー修士学位称号。
 
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