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2019.06.26
【FOOD×SERVICE】異業種イベントから学ぶ ブランドと顧客のエンゲージメント ―老舗アイスクリーム屋「ブルー バニー」×便利屋マッチングサイト「タスクラビット」の場合
RINAのFASHION x IT レポート from NYC Vol.110
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apparel-web.comで2012年から執筆を始めたこのコラムでは、米国マーケットに見る「ファッション×テクノロジー」にフォーカスした情報をお伝えしてきました。しかし今の時代、どの業態もそうですが、自分たちの業界にアンテナを立てているだけでは、顧客が何に関心を持ち、何を求めているか気づくことが難しくなってきます。異業種にも目を向けることで、「私たちのビジネスに置き換えても面白いかも。もっと素晴らしいイベントやサービスが提供できるかもしれない」といった学びやヒントに繋がるかもしれません。
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この10年位の間でアーティサナルな(職人技の)アイスクリームブランドが増え続ける中、今回紹介するのは、懐かしい甘さがアメリカらしい、80年以上も前に誕生したウェルズエンタープライズ社の「ブルー バニー(Blue Bunny)」 というブランド。ソーホーで開催されたイベントは大人も無邪気になって楽しめる内容でした。
ソーホーでも人通りがひと際多いブロードウェイ沿いで今年5月に開催された「ブルー バニー」のポップアップは、便利屋の代行業社を紹介する米スタートアップ「タスクラビット(TaskRabbit)」と協賛のイベント。タスクラビットについては2017年に家具販売チェーン最大手のイケアが買収した企業としてご存知の方も多いでしょう。
「ブルー バニー」のカラーでもある鮮やかなブルーを基調としたイベント会場は、遠くからでも視線を奪うほど。私がイベント会場にたどり着いたときは、ちょうど来場者の入れ替えを行っており、安全点検をしている最中でした。入場前には20分ほど並ぶことになりましたが、その間にも、通りかかった人々が興味津々な様子で会場スタッフに話しかけている姿を何度も見ました。行列がさらに長くなっていくのがわかりました。
ですがここはアメリカ。待たせていることを謝罪するだけでは終わりません。待ち時間に飽きないようにスタッフが場を盛り上げます。「ブルー バニー」の場合は、無料でアイスクリームを配るという嬉しいサービスが。ブランドとのエンゲージメントは待っている間も無駄にされることはありませんでした。
このイベントでは多忙な生活を送る大人をターゲットに、インタラクティブなスペースを設置。アイスクリームを通じて大人が楽しめる空間を作りあげています。その中でもユニークだった3つのアトラクションを紹介します。
苦手な食器洗いは巨大な「キッチンシンク」で遊び心をプラス
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洗剤の泡を想起させるふわふわのスポンジが敷き詰められた巨大なキッチンシンクのセットには、プールに飛び込むかのような感覚で滑り台が付けられていました。
個人的な意見ですが、食後の食器洗いほど誰かにやってもらいたいと思う家事はありません。それを思わず笑ってしまいそうなほどの巨大セットで、大人も楽しめるプレイグランドにしてしまったのが面白いところ。日頃のストレスを発散できましたし(笑)、今回のコンセプトがよく表現されていたと思います。
「洗濯」さえ笑いに変えてしまうゲーム
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「ランドリー・ローンチ」というエリアでは、洗濯物に見立てた玉を、ラウンチャーに入れて発射。壁には洗濯機の扉を模した穴がいくつもあり、そこに命中させるというゲームが用意されていました。
意外と集中力がいるので、大人たちの顔は真剣そのもの。童心に戻ったようにこのシンプルなゲームに大人たちが没頭していた姿に、遊びを通じたブランドとの深いエンゲージメントを感じました。
大人になってもミステリー好き
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壁にはカーテンで隠された3つの穴。そこにはフレーバーの名前が書いてあり、その1つには、はてなマーク(開けてからのお楽しみ?)がついています。それぞれの穴の下についたボタンを押してみると、なんと壁の向こう側からフルサイズのアイスクリームをスタッフが手渡してくれるという、実にアナログな仕組み。
日本人の私は、子供の頃によく食べていた当たりクジ付きの棒アイスを思い出し、ノスタルジックな気分になりました。「当たったらいいな」「もう1本アイスが食べられるかもしれない」という、幼少の頃に感じたワクワク感を思い出させてくれました。
ほかにも、インスタ映えするようなスポットや、思わずシェアしたくなるようなフォトスポットが会場内に用意されていました。
協賛パートナーの「タスクラビット」が実施していたとしてキャンペーンは、応募するとタスクラビットのサービスで利用できるクレジット(金額)がプレゼントされるものでした。現代の多忙な大人たちにはなかなか嬉しい賞金です。片付けたいと思いながら、なかなか時間を作れずそのままになっている部屋をどうにかしたい。棚を取り付けたいけれど、工具もないし頼めるならば誰かにやってもらいたい。タスクラビットではそういった悩みに幅広く対応してくれるそうです。
アイスクリームのイベントというと、試食会だったり、サンプルを配ってみたり、子供や若い子を意識したものが多い印象があります。もちろんそれはそれで楽しいですし、一定の効果もあると思います。ですが、タスクラビットという異業種とのコラボレーションを行うことで、アイスクリームを通じた“楽しさ”や“喜び”に加え、ゲーム感覚で目的を達成するという“ミッション”を加えた部分は、ファッション業界でも参考にできる部分だと思います。
ファッションブランドが服だけを販売する時代や、消費者の物に対する関心が変化する今、伝える側はより視野を広げ、ライフスタイルにまつわる様々なことに関心を持つ必要があると感じます。文頭でも伝えたように、“ファッションじゃないから参考にならない”“自分たちのビジネスには関連しない”と、“ファッションビジネスに置き換えたらどんな形にできるだろう?”という発想に変えてみると。
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R I N A 90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。
以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。
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