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2019.06.19
“西梅田OL”を取り込め 阪神梅田本店レディス売り場の全館再編集
樋口尚平の「ヒントは現場に落ちている」 vol. 65
阪神梅田本店4階レディス売場
昨年(2018年)6月1日に建て替えられた第Ⅰ期棟がオープンした阪神梅田本店。今年の6月で丸1年が経過した。Ⅱ期棟が完成するグランドオープンは、2021年の予定だ。およそ2年後のグランドオープンを見据え、第Ⅰ期棟の売り場では新しい試みが進められてきた。今回は、その象徴的な事例――中層階のレディス売場を取り上げる。最も特徴的なことは、従来あまり取り込めていなかった客層を狙った取り組みで、売り上げも当初目標をクリアするなど、成果が表れた。
西梅田OLを新しいターゲット層に
阪神梅田本店4階の「イベントスペース ステージ」。集客力アップの後押しになっている
第Ⅰ期棟の売場面積はおよそ2万7000平方メートル。初年度の全館の売上高目標は420億円。JR大阪駅側の部分――北半分の館がⅠ期棟で、昨年6月に先行オープンしている。元々、60-70代を中心としたミセス層が強かった同店だが、今回の全館建て替え工事を機に、「西梅田のOL層」を新たなターゲットとして掲げた。同じ梅田商圏内にあるグループ百貨店の阪急うめだ本店は、“ハレ”のシーンを意識した売場構成であるのに対し、阪神梅田本店は日常使いの百貨店という位置付けだ。コンセプトも、「毎日を幸せにする百貨店」である。
象徴的、特徴的な取り組みは、3階から5階にかけての「イベントスペース」を常設した区画だろう。3-5階のこれらの区画にはそれぞれ、ウエルネス、リアル・クローゼット、リラナチュールという名前が付けてあり、各テーマに適したテナントや商材を集積している。「イベントスペース ステージ」は、いずれも各区画の中央付近にあり、壁面のファッション系テナントがその周りを囲むレイアウト。約1週間ごとに商材が入れ替わる「イベントスペース ステージ」が、集客の大きな原動力になっている。アパレルや雑貨などのほか、スイーツなど食品類も扱う点が目新しい。このスペースをフックに、回遊を促す狙いがある。
新たに西梅田OLを取り込もうとした際、いくつかの点に留意して商品を編集した。デーリーユースを考慮して、まずは買いやすい、値ごろ感のある商材であること。また、衣料品に限定せず、食品や雑貨など、幅広い商品を品揃えしたこと。それら商材の感性が各フロアで共通していること、などである。「館全体で同じコンセプトを共有・発信している。(西梅田OLという)同じターゲット層へ向けた提案なので、各フロア間で買い回りも増えた」(阪急阪神百貨店 阪神梅田本店 婦人ファッション営業統括部、武藤千香子ゼネラルマネージャー)とその成果を説明する。
インスタを活用 フォロワーは3万人に
2、4階「イベントスペース ステージ4」。スイーツなど食品類も扱う点が目新しい
また、インスタグラムを開設し、関西在住のインフルエンサーに登場してもらい、継続して売場の情報や魅力を発信した。現在のフォローワーは約3万人。有名人を起用するのではなく、共感を得られる身近な存在――インフルエンサーを活用した。こうした取り組みも功を奏したのだろう、キャリア・OLを意識した4階フロアでは、20代後半から40代半ばの新規顧客層が増加した。特に20-30代の伸び率が高く、レディスカテゴリーの初年度の売上高は、計画を上回った。共通のテイストを持った幅広い商材を複数階で展開し、西梅田OLの取り込みに一定の成果を挙げた。
好調なテナントは、4階ではレディスファッションの「ビアズリー」、OLのスーツニーズをうまく取り込んでいる「インディヴィ」、「アニエスベー」など。3階では、ヴィーガン向けメニューも提供するカフェ「コスメキッチン アダプテーション」の関心も高いようだ。ウエルネスを切り口にしている4階も含め、「健康」が1つのキーワードのようである。
各フロアの買い回りが増えたことで、滞留時間も増加した。従来はミセス客がメーンだったため、平日の昼間の来館が多かった同店。建て替えオープン後は平日の夕方以降、週末の来館が増加した。西梅田OLのプラス分がもたらした状況変化だ。
自主編集売場も健闘を見せる
リニューアルした自主編集売場やプライベートブランド(PB)も健闘している。4階のフロア中央付近にある「パンツショップ」は、同階の売り上げのけん引役になっている。旧館では「ジーンズハウス」と呼んでいた自主編集型売場で、ジーンズ関連商材が強みだった。改装後もジーンズ系の商材が主力であることに変わりはないが、トップス類やリラクシングパンツなど、展開する商材の種類は豊富になっている。
5階フロアの中央付近に売場を構えるのがPBの「色えんぴつ」だ。歴史のあるPBで、良き定番商材である。セーターやカットソーなど、ベーシックものが主体で、以前は50-60代のファンが多かった。リニューアルを機に40代女性も取り込めるよう、商品企画を一新した。定番のカラー、ベージュの種類を増やしたニット商材が好評だという。ほとんどの販売スタッフが「パーソナルカラー診断」のスキルを持っている点も、後押しになっているようだ。
以前の百貨店は各フロアで扱う商材やカテゴリーが分かれていたが、顧客ニーズの変化と共に、従来型の編集が通用しなくなっている一面があった。今回のレディス売場の試みは、こうしたセパレート型の売場編集からの脱却を模索した取り組みと言えるだろう。グランドオープンへ向けて、色々アイデアはあるようだが、「売場の最終形態のイメージは?」と聞くと、武藤マネージャーからは「ノーコメント」という微笑付きの答えが返ってきた。。
しかし1年を経て、顧客ニーズに関する情報もかなり集まったようだ。どこを深掘りし、強化していくのかという点は、明確だという。2年目は「さらにイベントに磨きをかけて、精度を高めていきたい」(武藤マネージャー)という。
樋口 尚平
ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。
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