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2019.06.05

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.58】クラシックに華やぐ~2019-20年秋冬ファッションの6大トレンド~

 2019-20年秋冬のファッショントレンドでは「ドレスアップ」が鍵になる。クラシックやゴージャスという、おしゃれの「上昇気流」が装いを華やがせる。一方、これまで勢いづいていたスポーツやストリートは、正統派でエレガント寄りの着姿にミックスされて新しいムードにシフト。単にオールドファッションが復古するのではなく、現代の女性像や着心地重視のニーズなどを写し込んで、モダンに返り咲くのが来季の新傾向だ。

◆ブルジョワクラシック Bourgeois-Classic

(左から)CELINEDior

(左から)MARC JACOBSDolce&Gabbana

 スポーツやストリートからの揺り戻しが起きて、ほとんど対極のテイストとして、富裕層の良家令嬢を思わせる装いが打ち出された。かつて人気を得た「BCBG(パリの上流階級風)」のレディー度を高めたような、グラマラス寄りのムード。ケープやマントといった、全身をくるむようなアウターが淑女ライクなシルエットを描き出す。ビッグボウ付きのブラウスはレトロな貴婦人イメージをまとわせる。

 

 ウエストのくびれを強調するコルセットも復活。アウターの上から巻く意外感が目新しい。イブニングドレスやロングガウンといった、ドレッシーウエアのリバイバルはこの新トレンドを象徴するかのよう。小物やアクセサリーでは主張と品格を兼ね備えた帽子のほか、ビッグイヤリング、超ミニバッグ、グローブ、スカーフなどが装いに華を添える。

◆テーラードクチュール Tailored-Couture

(左から)GIVENCHYFENDI

(左から)BURBERRYTHOM BROWNE

 伝統的な紳士服風の仕立て技術を生かしたスーツやジャケットの装いが厚みを増す。先シーズンから続く流れだが、両肩を張ったパワーショルダーが新たに復活の気配。細めのウエストシェイプも加わる。品格を備えたクチュール感を高め、ジャクリーン・ケネディ風のレディーライクな風情に。エグゼクティブ女性を引き立てる「ビジネスクチュール」も盛り上がりそうだ。

 

 英国調の本格スーツに加え、ダブルブレスト・ジャケット、タキシードなどもウィメンズ仕様に姿を変える。セットアップはフリュイド(流れ落ちる)なソフトフォルムがシーンフリーの着こなしに誘う。プレッピー風の若々しいジャケットコーデも登場。モチーフの面でも英国のオーソドックスなチェック柄、アーガイル柄がテーラーリングを引き立てる。レオパード(ヒョウ)やフローラル(花柄)、ドット(水玉)柄などとのミックスも提案されている。

◆シャドーロマンティック  Shadow Romantic

(左から)PRADALOUIS VUITTON

(左から)Alexander McQueenHERMES

 ミステリアスなムードを帯びた装いが相次いで打ち出されている。どこか影(シャドー)のある、ダークな雰囲気とロマンティックな風情を交じり合わせる大人テイストだ。モードの時間軸が全体に過去へ向かう動きを受けて、ビクトリア朝やエドワード朝を思わせる、タートルネックのラッフル襟といった、古典的なディテールも呼び戻された。アシンメトリーやランジェリー使いでセンシュアル(官能的)な表情をまといながらも、沈んだカラートーンや凝った素材感で、甘く見せないバランス感が特徴だ。

 

 色は様々な濃淡のパープルやピンクがアイコン的にあしらわれる。ネオンカラーやサイケデリックも差し色として採用される。ディテールは彫刻的なネックラインやパフィな袖(ジュリエットスリーブ)などがクラシックな時代感を印象づける。装飾面ではラッフル(フリル)をはじめ、ブロケード、ドレープ、ビジュー刺繍、レースなどが着姿を彩る。素材はふんわりフェザー(羽毛)や艶めきレザー(合皮も含む)が目を惹く。ホログラフィーやグラデーション、オンブレ(ぼかし)などの演出も、妖艶な見え具合に導く。

◆ユーティリティーエレガンス Utility Elegance

(左から)DRIES VAN NOTENMaison Margiela

(左から)BALENCIAGAJIL SANDER

 自在に着こなしやすい、ユーティリティー(使い勝手に優れた)ウエアは、トレンドを超えた「必需品」に育ちつつある。たとえば、ニット・セットアップは身体を締め付けず、穏やかな着映えに仕上がる点が支持されて、スーツの居場所を脅かす存在に。ロングトレンドに成長したミリタリーやアウトドア、ワークウエアは「強い女性像」を求める気分にマッチ。来季はこれらに添えるエレガンス濃度が高まり、ミニマルとフェミニンが交差するテイストが勢いづく。

 

 オーバーサイズのボリュームアウターは中性的なシルエットを描き出す。パフィなパッデッド(詰め物)ジャケット、キルティング加工のロング丈コートなどは防寒面でも頼もしい。足さばきが楽なバギーパンツやキュロットはテーラードとなじませやすい。ディテール面でシンボリックなのは、ポケットの多用だ。張り出しポケットをいくつも添えるアレンジはアクティブ感を寄り添わせる。素材ではレザー、フリース、リネン、サテンなどが動きやすさや軽やかさをサポートしてくれる。

◆ノスタロック Nostalgie-Rock

(左から)SAINT LAURENTBALMAIN

(左から)LOEWEETRO

 1970~80年代の気分を懐かしむムードが広がっている。モード全体がグラマラス感を強める中、当時盛り上がったロックやナイトクラビングの雰囲気を、モダンによみがえらせた。パンクロックからグランジに至る歴史を踏まえつつ、ボヘミアンやユーティリティーなどのテイストを響き合わせて、ノスタルジックなたたずまいに整えている。ボンデージやフェティッシュなどを写し込みながらも、ハードなロックガール風ではない、大人グラマラスに着地させるのが来秋冬のまとめ方だ。

 

 バンドのロゴをプリントしたTシャツに代表される、かつてのロックファッションとの違いは、やりすぎ感を避けるさじ加減にある。ロックの硬質感と、レトロ風味のヴィンテージテイストをクロスオーバーするようなアレンジだ。70~80年代の楽観的な雰囲気、夜遊びの弾けっぷりなどを、グリッターなメタリック生地が呼び覚ます。サイケデリックカラーを筆頭にピンク、イエロー、オレンジ、グリーンなどが妖しいパワーを帯びさせる。レオパード柄、ゼブラ柄、タイダイなどのモチーフも装いにエナジーを注ぎ込む。

◆フリーレス Free-Less

(左から)GUCCIMOSCHINO

(左から)Stella McCartneyMARNI

 旧来の「約束事」を軽やかに飛び越えるような装い方が新たな「当たり前」になってきた。性別にとらわれない「ジェンダーレス」はテーラードやユーティリティーの下地になった。勢いが衰えたように見えるスポーティーやストリートは、場面を固定しない「シーンフリー」の潮流に支えられて、「常識」になったのであり、消滅したわけではない。スポーツドレッシングやエフォートレスリュクスといった、着心地と優美さを兼ね備えた装いは来秋冬も表現の幅が広がる。

 

 年齢を気にしない「エイジレス」の波はガーリーテイストのリバイバルにつながった。生き物を犠牲にしない「アニマルフリー」の発想はエコファーやエコレザーへの乗り替えを促している。季節感にしばられない「シーズンレス」も一段と自由度の高い着こなしに導く。地域性を越える「ボーダーレス」は、異なる文化を積極的にクロスオーバーさせるカルチャーミックスを加速。イスラム教徒風のモデストファッションも受け入れが広がりそうだ。長い時間軸を重んじる「タイムレス」はサステナビリティーを後押ししている。

 

 上品でクラシックな新トレンドが浮上する半面、スポーツやユーティリティーのロングトレンド化が進んでいる。登場し始めた頃の「アスレジャー」に比べると、なじませ方がずっと自然になり、こなれ感がアップしている。ジェンダーレスもいかにもメンズ服という見え方ではなく、穏やかな収まり具合に熟成が進んだ。トレンドを自分流に受け止め、時間をかけてアレンジしていくという、消費者のモードとの向き合い方こそが最も影響力の強い「トレンド」となってきたようだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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