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2019.05.23

【インタビュー】「ルルレモン」本国メンズデザイン責任者に聞く コミュニティーづくりと“OTC”で日本メンズ市場を開拓

 カナダ・バンクーバー発のブランド「ルルレモン」。米国市場において“アスレジャー”ブームの火つけ役とされる同ブランド。現在も米国市場での業績は好調で、高利益というビジネスモデルも注目されている。日本には2016年に再上陸。現在全国に7つの店舗を構え、2019年5月21日には日本公式ホームページもローンチした。5月9日は、メンズデザインのシニア・バイス・プレジデント、ベン・スタビントン(Ben Stubbington)氏が「ロバート ゲラー」とのカプセルコレクション「Take the Moment」発表のため来日。「ルルレモン」流の高付加価値モデルの秘訣、日本メンズ市場への展望、ミニマルデザインの広がりなどについて話を聞いた。

ジェネラル対応の“OTC(オフィス、トラベル、コミュート)”でメンズを開拓

―ルルレモン流の付加価値創出の秘訣は。

 

 「ルルレモン」は、ブランド創設当初からライフスタイルへのアプローチをしてきたブランドです。“コミュニティーづくり”をブランドが出来た日から意識してきました。「ルルレモン」というのは、ギブ&テイクではなく、とにかく与える。1人1人をサポートしたい。よりよい人生、自分が望む人生を送っていただくように、私たちにできることを精一杯しています。その中の1つのチョイスがコミュニティー形成です。ヨガの無料のクラスを提供し、アンバサダー制度もあります。アンバサダー制度というのは、セレブリティーを起用するというのではなく、地元でヨガ、フィットネスなどの活動で頑張っている人たちをアンバサダーとして起用し、サポートする制度です。全ては自分たちの周りにいる人たちのために、私たちは常に活動している。このことは、ブランド当初から変わらない。そこが今、結果として付加価値として認められているのかなと思います。

 

 

―ヨガというイメージが強いルルレモンが、メンズで新たなコレクションを発表します。日本ではヨガは女性先行型のマーケットですが、懸念点はありますか。

 

 おっしゃる通り、確かにチャレンジの部分もあるかもしれません。ただ、私たちは「運動するからそのギアを用意する」というより、彼らが一日を通してなど、人生を通してより快適に過ごしていただけるものを与えるようにしています。私たちは“OTC”という言葉を使っています。“オフィス、トラベル、コミュート”の頭文字をとったものですが、オフィスや出張、デート、家族で過ごす時間、その全てのオケージョンで快適に過ごしていただくという考え方です。チャレンジの部分あるかもしれないですが、私たちは彼らにとってサポートする存在でありたいと思っています。

 

 

―日本の余暇の過ごし方や好むスポーツなどは、カナダやアメリカと異なる点はありますか。

 

 はい。ライフスタイル自体がそもそも違います。例えば、“クロスフィット”というトレーニングは日本だとまだまだ広がっていませんよね。リーボックがスタジオをやっていますが、日本だとまだスタジオは限られている。一方、香港や北米では、“クロスフィット”のような汗を沢山かく運動がメインになってきている。フィットネスやスポーツのマーケットや、ライフスタイルは国によって違いがあります。

 

 

―日本では空前のアウトドアブームですが。

 

 ルルレモンは全ての商品について“OTC”を意識しているので、どこのシーンであっても対応できる。例えばアウトドアブームだから、アウトドア用の商品をつくるというのではなく、アウトドアだけでなくオフィスにいても快適に過ごせる汎用性の高い商品が大事だと思っています。そのような商品づくりを心がけています。

 

 

―ジェネラルに対応できるということですね。

 

 そうですね、はい。どこにいても同じような機能性。例えば私が「ルルレモン」で最初に世に出した商品に「サージ ジョガー」というパンツがあります。トレーニングの前後や、軽いウォームアップ用とされていますが、それ着てキャンプ行っていただいても大丈夫ですし、ハイキングに行っても大丈夫。全ての動きに対してベストな素材、技術を用いているからです。それぞれの競技に合わせて商品を開発するというのは、「ルルレモン」ではありません。「ルルレモン」のメンズが北米で成功している理由というのは、そこにあります。どのシーンでも同じように使っていただけるアイテムを届けているからです。

人生に大事なのは“Take the Moment(自分に戻る瞬間)”

「ロバート ゲラー」とのカプセルコレクション「Take the Moment」

―今回のメンズコレクションについて聞かせてください。

 

 今回の「ロバート ゲラー」とのコラボレーションコレクションは、ロバートの96時間を形にしたものです。ロバートは、休日には、父親として子どもとサッカーをして遊んだり、ワークアウトクラスで汗を流したり、家族でビーチまでドライブして泳いだり。そして休日を過ごした後には、東京まで飛行機で移動をしたりするなど、様々なシーンで色々な動きをします。そのように多忙な彼の様々なシーンで構成される96時間の動きにフォーカスしました。「ルルレモン」らしく、いろんなシーンに対応できるようなコレクションにしたのです。

 

 

―ロバート・ゲラーと組んだ理由は。

 

 実は元々古い友人で、15年くらい友人関係にあります。お互いCFDA(アメリカファッション協議会)会員でもあるので、色々と繋がりがありました。コラボしたいという話も以前からしていました。「ルルレモン」でコラボレーションするのに大事なことは、両者がお互いに視座を一緒にできるかだと思います。特に、人生で何を大切にしているかという考え方が両者で同じでないとコラボしない。今回、私がロバートと話した時にはそこが合致したので、コラボレーションすることができたのです。

 

 

―具体的にどのような点で合致したのでしょうか。

 

 コレクションのタイトルに“Take the Moment”というものがあります。“Take the Moment”というのは自分に戻る瞬間とでもいいましょうか。自分のことを理解できる、自分と繋がれる時間のことです。これが人生において大事だということが、ロバートと合致したところです。二人で話していたのは、その人生においては“Take the Moment”が大事だと。私みたいにヨガをしたり、瞑想したり。ある人にとっては家族と過ごす時間かもしれないし、もしかしたらパーティーすることがその人にとっての“Take the Moment”かもしれません。“Take the Moment”という一瞬、自分に戻る瞬間を表す言葉として使っています。

 

デザインで大事なのは“ミニマル”であること

―「ルルレモン」で仕事をしようと思われたきっかけは何ですか。

 

 バナナ リパブリック、カルバン クライン、セオリーなど、ニューヨークという大都会でずっとメンズデザインに携わってきました。セオリーではクリエイティブディレクターを8年務めました。ただ一方で、プライベートではサーフィンやサイクリングを中心としたライフスタイルを送っていました。このようなライフスタイルを持っていたので、「ルルレモン」がアプローチをくれた時に、すごくピンときたのです。自分が好きなものと自分が得意とするものが昇華できる場所なんじゃないかと思いました。「ルルレモン」は機能美を大事にしています。その一方、私が作ってきた服は、人物を美しく見せたり、美しさを強調するものでした。この長所を「ルルレモン」に持ってこられるというのが、非常に大事なことだと思います。「ルルレモン」は機能性が長所、私は美しいデザインが得意、それを上手く融合できるのではないかというアイデアが決め手となりました。

 

 

―「ルルレモン」は他のファッション企業とは違いますか。

 

 はい、まるで違いますね。働く人たちが違います。まず、チームで運動するのが好きな人たちが多い。今朝も、メンバーと一緒にヨガで汗をたくさんかいてきました。私のオフィスのメンバーには、スノーボードをしているメンバーもいるし、サイクリングしているメンバーもいる。汗をかくことを一緒にすると友だちになります。友だちという言葉が妥当かは分かりませんが、お互いのことをいたわる存在、そして大事な存在になる。そういった労働環境が、前にいた会社と違います。

 

 

―「ルルレモン」の購買客層は今までお仕事されたブランドと違いますか。

 

 シーンは違いますが、購買客層については実はあんまり変わらないと思っています。セオリーも毎日使えるようなお洋服を作ってきました。どうして購買客層が合致してくるかというと、「ルルレモン」はアクティブウェアの中では安い商品ではないです。その理由はちゃんとした素材や技術で商品を作っているからです。一方、セオリーを購入していた客層は、上質のものを買いたい。アクティブウェアで上質なものを選ぶと、「ルルレモン」ということになるようです。面白い現象だと思います。

 

 

―デザインをする際、大切にしていることは。

 

 今回話をしていて確信したのですが、大切にしたいことは2つで、機能性と美しさ。私が紙とペンでデザインを描く前に、いつも考えている質問が2つあって、「何で私たちはこれを作る必要があるのか」というものと、「それはどのように使われるものなのか」というものです。例えば、ポケット一つとっても、「どこにあるのがベストなのか」、「もしそこに付けたとしたら、なぜそこに付けたのか」、「どう使われるのか」、「生地も本当にベストなものなのか」ということを自問自答します。全てにおいて使う人のことをよく考えるようにしています。デザインのキーワードでいうと、ミニマルであること。副資材やディテールが本当に必要かを常に考えています。

 

 

―ミニマルに作るというのは、「ルルレモン」流のアプローチなのか、あなたがずっと行っているアプローチなのか。

 

 私自身が元々ミニマルに対するアプローチを持っていました。そして、「ルルレモン」もそうだった。不必要なものを全部取り除いて、美しく見える – そのままにすることを大事にしています。ですから、日本のミニマルなデザインがすごく好きです。一方で、もちろん機能性というのも非常に重視しています。これらを連動するためには、オーバードレスではなく、シンプルに絞り込んでいます。そして、機能美を追求していく。

 

 

―よりミニマルなデザインというのは、ライフスタイルの変化とともに広がっています。

 

 おっしゃる通り、ライフスタイルの変化というのがあると思います。その中で皆が求めているのは、一つのもので多様性を持つものでしょう。「ルルレモン」の服はその象徴であるかと思います。様々なシーンで着用可能なアイテムに対するニーズは高まっています。どのシーンでもきちんと機能を発揮でき、かつ美しく見える、シンプルなものが好まれているのではないかと。人がお洋服に使うお金というのは減っているかもしれません。ただ、そのことは多様なシーンで使えるアイテムを買う人が増えている証拠ではないかと思います。

 

「ロバート ゲラー」とのカプセルコレクション「Take the Moment」ローンチパーティー

―クオリティに対するこだわりなどを教えてください。

 

 選ぶ素材がきちんと機能性と、着心地(フィール)を両立しているか、というところはすごく気を付けています。日本の素材は、すごく優れているので、「ルルレモン」でももちろん使っています。

 

 

―今回のコレクションにおけるおすすめポイントは。

 

 色々あります。素材、デザイン、柄など。中でも特筆すべきはカラーパレット。ネオンイエローやピンクを使っています。スポーツウェアにはあまりないカラーパレットだと思います。そういう意味ではコレクションはすごく新鮮味があって新しいものに映るのではないでしょうか。

ベン・スタビントン(Ben Stubbington)氏:
「バナナ リバプリック」、「セオリー」、「カルバン クライン」でディレクターを歴任し、2016年10月から「ルルレモン」のメンズデザインのシニア・バイス・プレジデントを務める。

 

■「ルルレモン」日本公式サイト
https://www.lululemon.co.jp/ja-jp/home

 

(聞き手:山中健

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