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2019.05.24

【インタビュー】「BUYではなくJOYを考える」 成熟市場を刺激する新キーワード“コン消費”とは――ファッション・クリエイティブ・ディレクター軍地 彩弓氏

 世界最大のスニーカーフェス「コンプレックスコン」やオンラインビューティーの一大イベント「ビューティーコン」といったコンベンション型イベントが、米国を中心に盛り上がりを見せています。そこでしか手に入らない限定アイテムに殺到し、憧れのユーチューバーに熱狂する。人々の熱量が消費を動かす、いわゆる“コン(=コンベンション)消費”は、新しいビジネスモデルとしても注目されています。その“コン消費”ブームが日本にも上陸すると話すのは、ファッション・クリエイティブ・ディレクターの軍地彩弓氏。ギャルやアラサーブームの火付け役であり、日本のファッションカルチャーを見続けてきた同氏に、“コン消費”とは何か、日本のファッション業界がそこから学べることは何かについて聞きました。

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ファッション単体では熱狂を生み出しにくい時代

―コン消費とは具体的にどういうものでしょうか?

 

 特定のカルチャーをベースに、ファッションや音楽、アート、スポーツなど色々な要素が混ざり合ったイベント型消費です。「コンプレックスコン」の場合、メインホストを務める音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムスとアーティストの村上隆の両氏がタッグを組むことで生まれる音楽やファッション、クラブシーンがあり、その複合的な要素が1つのカルチャーとして混ざり合い消費を動かすということです。

 

 

―ファッションはあくまでカルチャーを構成する要素の1つなのですね。

 

 日本では、ファッションがファッションの領域の中だけで消費される仕組みが根づいていますよね。ショップの中に洋服が置いてあり、お客様がそこに洋服を買いに来る、という単一な関係になりがちです。今は、デートに出かけるため、結婚式に出席するため、韓流スターのコンサートに行くため、というように、それぞれの目的があって商品を買うお客様が多いので、ファッションを一面的に捉えて消費させるような考えが通用しなくなっています。ライフスタイルの中の1つの軸としてファッションを捉えなければいけないですね。

 

 

―「コンプレックスコン」については、スニーカーマニアたちが限定アイテムに惹かれて集まる “モノ”が主役のイベントなのだと感じていました。

 

 ファレルや村上隆さんといったカリスマたちが作る限定アイテムは、確かにモノではありますが、どこでも手に入る大量生産品ではなく、そこでしか手に入らないものです。カリスマたちの背景にあるカルチャーもミックスされていく。マニアたちは、その他では手に入らない価値に対して行列を作るのだと思います。そこには、モノやファッション単体では作り得なかった熱狂が生まれるというわけです。

 

 

―ジュングループが2018年11月に「ジュンの文化祭―ファッション遊園地」を東京・青山で開催しました。アパレル企業が単体でやるイベントとして話題になりました。

 

 コンベンションはカルチャーが中心になっていますが、「ジュンの文化祭」は、遊園地のような空間の中で、食やフィットネス、アミューズメントといったコンテンツがあり、そこにファッションを絡ませるような取り組みでした。食のコンテンツではジュングループの飲食店の人気メニューを販売したり、ヨガ体験ではスポーツファッションブランド「NERGY(ナージー)」のウエアを披露するなどしました。お客様はそれぞれ、遊園地、食、ヨガなどを目指して来場した結果、ジュンという会社を認知することになるわけです。

 

 面白かったのは、足湯に浸かりながらジュングループの会社説明の動画を観るコーナーです。「ロペ」や「メゾン ド リーファー」というブランドを知っていても、ジュンという会社を知っている人は少ない。そういう人たちにどうやってジュングループという企業やブランドを知ってもらうか?が課題になります。

 

 ファッション単体の訴求力が弱くなっている今、ファッションだけで集客することに限界が来ています。そこで、お客様が遊園地のような空間やコンテンツを楽しみながら、ファッションに触れ、ブランドを認知してもらえるような仕組みを作ったわけです。一番大事なのは、“出会い”です。お客様が気に入ったものに“出会う”ことが、そのブランドを知るきっかけになります。近隣の方も多く来場したそうですが、従来のお客様とは違う方、ジュンを知らない方との出会いにもつながりますよね。

 

 「ジュンの文化祭」には、ブランドと社名認知を上げるという対外的な狙いがありましたが、社内の結束力が強まるきっかけにもなったそうです。イベントはほとんど社内で手づくりしたそうですが、普段一緒に仕事をすることがない部署同士が集まり、みんなで意見を出し合ったそうです。足湯コーナーもその中から出てきたアイディアだとか。社員みんなに当事者意識が生まれ、彼ら自身も楽しめるイベントになったはずです。

2018年11月に開催された都市型屋外イベント「ジュンの文化祭」。“ファッション遊園地”をテーマにした会場内では、ファッション・フード・フィットネスをコンセプトにした幅広いコンテンツを企画。限定・先行アイテムを販売するエリアや、フード&ドリンクを提供するコーナー、フィットネス体験ができるワークショップなどに、カップルやファミリーなどが多数訪れた。写真提供:ジュン

日本にも存在する“コン消費”

―「ビューティーコン」は、ビューティー業界のインフルエンサーが一堂に集まるイベントですね。その成り立ちには人の力が大きく働いている気がします。

 

 「ビューティーコン」の場合、メイクアップ商品やメイクのノウハウを紹介するインスタグラマーやビューティーユーチューバーという存在があり、そのインフルエンサーに直接会える、話を聞ける、というのがイベントの始まりだと思います。

 

 日本でいうと、音楽プロデューサーの秋元康さんが手がけたAKBと同じ手法ですよね。今までヒエラルキーの高かった芸能人やスターを、“会いに行ける”身近なスターにしました。山口百恵や浜崎あゆみ、安室奈美恵のように、何百万もの人が憧れるスターではなく、劇場に行けば会えるアイドルたちです。ファンは自分だけの“推しメン”に会いに行く。アイドル1人1人のファンが少なくても、それがグループとなれば、ビジネスにつながっていくのです。

 

 好きなモデルやスターに会いに行く、という点では、「東京ガールズコレクション」も同じことがいえますね。

 

 

―日本にもコン消費が存在していたのですね。しかしながら今、ファッションを含め、ものが売れない時代と言われています。

 

 もちろん昭和から、ずっと日本は高い消費欲に支えられていた時代が続いていました。例えば、安室ちゃんになりたい!っていう子たちが厚底ブーツを求めて渋谷109に殺到し、それに応えるように渋谷109のフロア全体に厚底ブーツが並ぶような現象です。それは、スターやモノが作り出す熱狂でした。

 

 ですが今は、「どうしてもそれがなければ生きていけない」といったものがある時代ではありません。日本全体が低成長期に入っているのと同時に成熟社会になっています。Tシャツは20枚、ジーンズなら10本、トレンチコートだって数枚持っているのが普通。そういう人たちに新たに何かを手にしてもらうために必要なのは、その人たちが「ほしい」と感じるものは何か?を突き詰めていくことではないかと思います。

 

 

―“ほしい”を作りだすということでしょうか。

 

 2017年には、「ルイ ・ヴィトン」が「シュプリーム」とコラボレーションし、店舗前に大行列ができるなどその過熱ぶりが話題になりました。ラグジュアリーブランドがその対極にあるカジュアルブランドと組むのは異例のことですが、そこに新しい価値を生み出し、「ほしい」を作り出したということです。

 

―“ほしい”を作りだすということは、“熱狂”という気持ちを作りだすことでもありますね。

 

 コンベンションの話に戻りますが、自分がリスペクトしている人の話が聞けた喜びや、共通の趣味を持つ友人たちと楽しい時間を過ごせたという思いは、そのイベントにかけたお金以上の価値があるはずです。BUY(買う)だけではなく、JOY(喜び)があることが、コンベンションには一番大切なことです。そういう価値を求めるロイヤリティの高いユーザーと繋がれるわけですから、企業にとっても参加する意味は大きくなります。高い出展費用をカバーできる利益はあると思います。

 

 モデルで実業家のカイリー・ジェンナーが自身のコスメブランド「カイリー コスメティクス」で成功し、「自力で成功した世界最年少の億万長者」となったことが報道されました。カイリーのようなぷっくりとした唇に憧れる女性たちにリップキットが爆発的に売れたわけですが、これと同じことを既存の化粧品会社がやっても、同じ効果は得られないはずです。

 

 カイリーは、カーダシアン一家の末っ子として米国で人気のリアリティー番組にローティーンの頃からから出演していました。圧倒的な知名度がある彼女は、リップキットの製作過程や使い方をインスタグラムで紹介していました。発売前から上手にその商品をアピールすることによって「カイリーみたいになりたい」というファンたちの熱狂を生んだのです。熱狂を生むには人の力も重要であるなと感じますね。

 

 

―やはりそこには人の力が不可欠なのですね。

 

 インフルエンサーがプロデュースするファッションブランドも増えてきています。日本では1980年代から2000年頃まで数多くのファッションブランドが生まれました。モード系、コンサバ系、ギャル系などにセグメントされました。結果、ブランドが乱立し、似たような服が同じようなファッションビルに溢れました。

 

 ひと昔前なら「誰かと同じ」、なものは受け入れられましたが、2019年の今は、みんなが持っているものが欲しいのではなく、ニーズはもっとピンポイントになっています。自分のお気に入りのインフルエンサーが着ているコート、というように。移ろいやすいユーザーのニーズをどう捉えるか、が大切です。

 

 

―多くのブランドが今ブランディングを重要視しています。何か取り入れられる点はあると思いますか?

 

 繰り返しますが、「ほしいものを作る」「必要なものを作る」というところに立ち返ることだと思います。在庫を消化するためだとか、前年比予算を達成する、といった考えは、店を維持するための考えであり、消費者には意味のないものです。

 

 スタンダードな量産型のものづくりは、ほとんどユニクロに集約されていってしまうでしょう。ユニクロはあらゆる知恵を入れ、デザイン性、機能性、品質の高さで、すでに中間層まで取り込んでいます。

 

 彼らは開発力もあり商品力もありますから、それに対抗するのであれば、例えば、快適性があって洗わないでいいシャツとか、可動域があって絶対疲れないシャツとか、ユニクロを超える価値を作り出さなければいけません。

 

 つまり店に単純に商品を並べるだけの商売では駄目だということです。例えば八百屋で人参を売るのでも、人参を使った料理のレシピを紹介したり、有名な料理人が作った人参のお惣菜を出す。あるいはシークレットな食事会を催すなどして、1つの人参の価値を高めることが求められているのだと思います。

 

 大量生産で均質的にものを作り、農家へ払う対価を安くして、隣より安く売ろう、みたいな競争をずっとしていては、疲弊してしまうだけです。結果、同業他社との比較や、前年比にこだわるような商売になってしまいます。

 

 曲がったり土がついていても美味しい人参の方が好きだと感じる人も増えているはず。それならば、美味しい人参を数量限定でもきちんと作っていく商売の方が永続性はありますからね。

 

――アパレルウェブ「AIR VOL. 23」(2019年5月発刊)より

軍地彩弓(ぐんじ・さゆみ)氏

 大学在学中からリクルートでマーケティングやタイアップを中心とした制作の勉強をする。その傍ら講談社の『Checkmate』でライターのキャリアをスタート。卒業と同時に講談社の『ViVi』編集部で、フリーライターとして活動。その後、雑誌『GLAMOROUS』の立ち上げに尽力する。

 2008年には、現コンデナスト・ジャパンに入社。クリエイティブ・ディレクターとして、『VOGUE GIRL』の創刊と運営に携わる。

 2014年には、自身の会社である、株式会社gumi-gumiを設立。現在は、雑誌『Numéro TOK YO』のエディトリアルアドバイザーから、ドラマ「ファーストクラス」(フジテレビ系)のファッション監修、情報番組「直撃LIVEグッディ!」のコメンテーターまで、幅広く活躍している。

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