PICK UP

2019.04.03

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.56】2019-20年秋冬東京コレクション<2/2>

◆コトハヨコザワ(kotohayokozawa)

 横澤琴葉デザイナーの「コトハヨコザワ(kotohayokozawa)」はニットとデニムを主体に、ファニーな装いを送り出した。グラフィカルなニットが朗らかな表情を帯びた。タイ語のロゴを生かしたポップアート風のモチーフは陽気でにぎやか。あちこちに肌見せのカットアウトを施した。レイヤードで重ねたキャミソールはおへそエリアをくり抜いて肌をチラ見せ。デニムを解体し、ショートパンツも膝近くまでずり下げた。レザー仕立てのブラトップは重ね着にオン。ペットボトルのヘアアクセサリー、くしゅくしゅ厚手ソックス、サンダルなどの小物類もいたずらっぽい仕掛け。常夏のタイで遊ぶかのような、元気でチアフルなルックに勢いがあった。

◆アクオド バイ チャヌ(ACUOD by CHANU)

 ジップへの偏愛をコレクションに注ぎ続けている李燦雨デザイナーの「アクオド バイ チャヌ(ACUOD BY CHANU)」。恒例のダンサーのオープニングショーに続いて、ブルゾンやコートなどのアウターを軸にショーは進んだ。目新しいアイデアの1つがPVC(ビニル)の四角いポケット。額縁のように四角く縁取ってスタッズを打ったポケットをたくさんあしらった。モチーフ面ではデジタルサンプリングを施したカムフラージュ(迷彩)柄を投入。黒ベースの装いにグラフィカルなマルチカラーを加えた。ジップを開け閉めして表情を変えるアレンジは引き続き、アウターに生かされ、パフィなキルティングジャケットは背中がジップで大きく開く。パンキッシュなムードが全体に漂った。

◆ケイスケ ヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)

 「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」の吉田圭佑デザイナーはゴシックやフェティッシュのにおいを立ちこめさせた。頭部を覆い隠すボディスーツ風のウエアで顔だけを残してくるみ、服の奇抜さを引き立てている。シルエットは肩を張ったパワーショルダーが目を惹く。袖にも不規則なボリュームを持たせた。ダッフルコートでおなじみのトグルボタンをキーディテールに選んで、スーパーハイウエストのパンツにたくさんあしらった。サイハイブーツにも、編み上げディテールを25段ほども配して過剰に演出している。服の解体を試み、トレンチコートやMA-1ジャケットを大胆に変形。バッグ付きのブルゾンやパイソン柄のパンツなど、アイキャッチーなアイテムも、「こなれ感」の対極に立つ奇想を印象づけていた。

◆リョウタムラカミ(RYOTAMURAKAMI)

 「リョウタムラカミ(RYOTAMURAKAMI)」はいったん休止していたメンズラインを復活させた。今回の見どころはデザインの「壊れ」っぷり。お得意のニットセーターは袖の位置や全体のボリュームがちぐはぐに。普通は右胸に位置するポケットは真正面に配置。まるで「福笑い」のように居場所がずれている。チェック柄のダッフルコートはオーバーサイズの度が過ぎて、人形の「奴(やっこ)さん」みたい。ガーターストッキングは派手に破れている。テーラードスーツはニットワンピースと入り組んでいて、2着を無理に接着したかのよう。イレギュラーなムードがファニーで挑発的だった。

◆コシェ(KOCHE)

 約2年ぶりの東コレ参加となった「コシェ(KOCHE)」は渋谷駅前の商業ビル「QFRONT」の屋上をストリート風にしつらえてショーを開いた。今回もストリートキャスティングされた素人モデルを含め、ライブ感の高い演出。サッカーのユニフォームを解体した、アスレティックな装いを並べた。各国のユニフォームを切り絵風にコラージュしたマルチカラーのワンピースはチアフルで躍動的。レースやスパンコール、ラッフルを配して、エレガントとストリートをミックス。『ポケモン』が好きだというクリステル・コーシェ氏は実写映画『名探偵ピカチュウ』とのコラボレーションアイテムも発表。ピカチュウイエローで彩った。日本産の素材を使い、フィナーレで『上を向いて歩こう』を流したデザイナーの日本愛が空に溶けて広がった。

◆シロマ(SHIROMA)

 「シロマ(SHIROMA)」は複合ビル「渋谷ストリーム」前の広場という屋外をランウェイショーの場に選んだ。城間志保デザイナーが打ち出したのは、複雑に入り組んだレイヤードルック。斜め掛けのブラトップ風ビスチェを、様々なウエアに重ね付け。トレンチコートの上からもアシンメトリーに重ねた。和柄ライクなフラワーモチーフの刺繍で腕や背中を彩った。ラッフルやドレープも立体感を添えている。服の解体を試み、MA-1ジャケットはデコルテを露出。ウエストにしわを寄せたハイウエストボトムスは半身だけで仕立てている。異なる素材の組み合わせや、スリット、カットアウトの多用、前後のアシンメトリーなどが重層的な装いに導いた。

◆ハレ(HARE)

 アダストリアのブランド「ハレ(HARE)」は「リバース」をテーマに据えて、異なる要素の組み合わせを試した。穏やかな生成り色のレイヤードには赤いソックスとパイソン靴を添えて、まとまりを崩した。本来は内側に隠してあるブランドタグを背中の真ん中に置くアレンジはウィットフル。マニッシュなトレンチコートの背中には着物柄を配してしっとりムードに。ロングカーディガン風ニットウエアにはデジタル柄やメタリック素材をミックスして、風合いのずれ感を際立たせている。ハイネックのトップスが全体を貫くキーピースに。ボリューミーな服と落ち感のあるアイテムのレイヤードのように、両極を掛け合わせて共存させた。

◆サルダリーニ カシミヤフレークス バイ ウジョー(SALDARNI CASHMERE FLAKES by UJOH)

 ミラノ・ファッションウイークでコレクションを発表している「ウジョー(UJOH)」は、イタリアのサルダリーニ(SALDARNI)社製の「カシミアフレークス(CASHMERE FLAKES)」を使った、アウターのカプセルコレクションを発表した。動物に負担をかけない「アニマルフレンドリー」の素材だ。「ウジョー」の服の上から、コラボアウターを羽織らせた。パターンメーキングの巧みさで知られる西崎暢デザイナーらしく、アウターの量感を出しすぎないカッティングが冴えた。うねりやアシンメトリーを生かして、立体的な着映えに整えて、ジェンダーレスな雰囲気のプレゼンテーションを披露した。

◆まとふ(matohu)

 日本の伝統的な工芸や素材を生かしたクリエーションを続けている「まとふ(matohu)」は前シーズンに続き、青森県津軽地方に腰を据えた。前回は夏の津軽から着想したが、今回は冬の津軽版。津軽の伝統的な刺繍「こぎん刺し」を今回はウールに施した。シグネチャーアウターの長着をはじめ、落ち着いた風情のジャケット、総レースの白ワンピースなどを披露。雪の結晶を思わせる六角形モチーフをこぎん刺しであしらった。伝統工芸の津軽塗は服のボタンに落とし込んだ。アンティークのアクセサリーのような存在感のあるボタンがハンドクラフト感を忍び込ませている。漆を何度も塗って、その後に削りをかけて、複雑な柄に仕上げていくという、丹念な手仕事が和の品格とヒューマンな穏やかさを添えていた。

◆サポートサーフェス(support surface)

 「サポートサーフェス(support surface)」の研壁宣男デザイナーはシンプルなフォルムの探求を深めながら、ロングコートやタートルネックセーターなど、見慣れたウエアを軸に据え、シルエットを磨き上げた。オレンジやイエロー、朱赤などのこっくりしたきれい色を多用。抽象画家のマーク・ロスコを思わせるグラデーション染めのロングコートも見事な仕上がり。立体裁断のカッティングに強みを持つデザイナーならではの、自然な曲線がしなやかな輪郭。ハリのある素材で仕立てたコートは朗らかなコクーンシルエットを描き出した。パンツ・セットアップはジャケットが曲線を描いて打ち合わせる。ドレープ使いをはじめとするディテールが優美。正面にたっぷり遊ばせた布の起伏がアスコットタイのように気品をまとった。

◆タエ アシダ(TAE ASHIDA)

 初めて本格的なメンズコレクションを発表した、「タエ アシダ(TAE ASHIDA)」の芦田多恵デザイナーは多様性を前面に押し出した。メンズとウィメンズで同じ色や素材を使い、トーンを同調させている。パープルのフェイクファー・コートに、ナイロンパーカ、デニムパンツを組み合わせ、リュクスとカジュアルを巧みに同居させた。テーラード仕立てのジャケットはウエストシェイプが利いている。レザーを襟や袖、トリミング(縁取り)に用いてつやめきを添えた。マント風のアウターはエフォートレスなたたずまい。後半はブラックとグレーを主体にニアカラーの切り替えでシャープな着映えに。ベルベットやスパンコール、シースルー、フェザーなど、質感やムードの異なる素材を多彩に組み合わせて、表情を深くしていた。

◆ヒロココシノ(HIROKO KOSHINO)

 ピアニスト・横山幸雄が奏でる即興的な調べを贅沢な伴奏に迎え、ショーを催したのは「ヒロココシノ(HIROKO KOSHINO)」。3次元を平面に変え、さらに立体に戻すという作業を落とし込んだウエアを提案した。穏やかな雰囲気のグレートーンのニット・セットアップは両腕の出し方をトリッキーに表現。やがて鮮やかな赤が加わり、ドレスはグラマラスに。秋冬のキーアイテムになりそうなケープも披露。ストライプ柄のベストは表と裏がひとつながりの不思議な仕立て。絵画調のビッグモチーフが印象的なワンピースはまるでアートをまとうかのよう。エフォートレスな縦長シルエットを中心に、レディーライクなムードも醸し出していた。

◆フクシマ プライド バイ ジュンコ コシノ(FUKUSHIMA PRIDE by JUNKO KOSHINO)

 コシノジュンコ氏は福島県の伝統工芸、地場産品を生かしたブランド「フクシマ プライド バイ ジュンコ コシノ(FUKUSHIMA PRIDE by JUNKO KOSHINO)」のウィメンズウエアをランウェイショーで初披露した。コシノ氏は福島県の復興支援につながるこのプロジェクトをかねてから支援している。今回はヤマブドウのつるで編んだ素材や、地元産のシルク、ニットなどを用いてコレクションを制作。静かなモノトーンを基調にしつつ、左右のアシンメトリーがドラマティックなドレスを数多く送り出した。まるで折り紙のような立体感が楽しいミニドレスがアイキャッチー。ショーを締めくくった、風をはらむ、極薄の羽織り物は福島から吹いた新風を象徴しているかのようだった。

 テーラーリング重視やクラシック志向といったグローバルトレンドは、東コレでも顕著に見受けられた。アウターを軸にしたきれいめルックや、肩の力を抜いた縦長シルエットなどに、マーケットとの折り合いを重んじる意識がうかがえた。一方、ダークエレガンスやトリッキーディテール、ミステリアスムードなど、オーソドックスな装いを揺さぶる試みも相次いだ。クリエーションだけではなく、見せ方やショー構成の面でも多様化が進み、さらなるダイバーシティー(多様性)への期待が広がる今回の東コレだった。

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宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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