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2019.04.03
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.56】2019-20年秋冬東京コレクション<1/2>
宮田理江のランウェイ解読 Vol.56
「Amazon Fashion Week TOKYO(アマゾン ファッション ウィーク東京、通称・東京コレクション)」の変化を印象づけたのは、デビューコレクションの多さだ。ウィメンズブランドがメンズをデビューさせるケースが一気に増えた点も目についた。クラシカルやテーラードといった正統派・エレガンス回帰の流れは東コレにも押し寄せた。しかし、プレイフルや解体といった、「癖が強い」服づくりを志向する動きも見えた。伝統的な技法や国産の上質素材を重んじる提案も増えている。
◆アンリアレイジ(ANREALAGE)
パリ・ファッションウイークに参加し続けている「アンリアレイジ(ANREALAGE)」は2019年春夏に続き、東コレでランウェイショーに臨んだ。これまでとの最大の違いは、メンズコレクションを初めて本格的に発表した点だ。表現手法も様変わり。森永邦彦デザイナーは「神は細部に宿る」をコンセプトに、ディテールのデフォルメを試みた。オーバーサイズに変形させたトレンチコートやジャケットの襟だけを巨大化。過剰な量感がユーモラスなムードを呼び込んだ。ジャンボなディテールはファスナーの引き手、セーターのアーガイル柄、ダッフルコートのトッグルなどにも施された。安全ピンまで特大化され、パンク精神が薫る。ブランドアイコン的なパッチワークはブルゾンをカラフルに彩った。「アンバランスの美」が全体をスリリングに支配していた。
◆ビューティフルピープル(beautiful people)
発表の場をパリに移している「ビューティフルピープル(beautiful people)」が2年半を経て、東コレでもショーを開いた。ショー会場となったのは、霞が関の官庁街にある経済産業省の講堂。クラシックな空間にふさわしく、熊切秀典デザイナーが得意とするテーラードのジャケットやスーツ主体のコレクションとなった。全体に英国調を薫らせながらも、型にはまりすぎない転調を利かせている。スーツと言っても正統派にもモードにもアレンジ可能になっていて、1枚の服が何パターンにも着こなせるデザインだ。細身パンツの上からニーハイのレッグウォーマーをオンするようなスタイリングにも小技が光った。
◆ハイク(HYKE)
「ハイク(HYKE)」はミリタリーウエアを引き続き、ベースに据えた。「ザ・ノースフェイス(THE NORTH FACE)」とのコラボレーションは今回でラストシーズンとなる。アウターがアイテムの、ロングフリンジがディテールの柱。ファーストルックのロング丈ダッフルコートはトッグルボタンを斜めに配置。ライナー(裏地)をあえて見せるユニークなアレンジも披露。米国ウエスタンのムードを漂わせるロングフリンジが歩くたびに揺れ動き、ボトムスをチラリと透かし見せる。小物使いでは眼鏡を差す目新しいネックレスや大小のバッグ2個持ちも動きを生んだ。
◆ザ・リラクス(THE RERACS)
欧米のモード界で大きなうねりになったクラシック回帰やテーラード志向を鮮明に印象づけたのは、倉橋直実デザイナーの「ザ・リラクス(THE RERACS)」。2010年の設立から10年の節目を迎え、東コレでは初のランウェイショーを開催。クリーンでトラッドなムードの装いを組み上げた。ジャケット・アンサンブルやチェスターコートなど、古典的な定番的アイテムをモダンにアップデート。膝丈スカート・スーツはワンボタンのジャケットが端正なたたずまい。静かなシルエットを、「Made in Japan」の上質生地が支えた。グレーを軸に、ネイビーやベージュなどの静かな色で大人っぽさと品格を薫らせている。トッグルやノルディック柄などがモノトーンの中で上質カジュアルな着映えに誘っていた。
◆チノ(CINOH)
初めてのランウェイショーを披露した「チノ(CINOH)」の茅野誉之デザイナーは「グランジ」をテーマに据えた。着古したネルシャツや、よれたカーディガン、穴開きジーンズといったイメージのあるグランジだが、今回の提案はエレガント寄りの味付け。グランジロックの代名詞的なバンド「ニルヴァーナ」を思わせるチェック柄を繰り返したが、モダンにアレンジしている。ぼかしチェック柄(オンブレ)のシャツは裾フリンジのスカートと引き合わせた。レオパード柄のスカートはウエストで深々と折り返して、裏のレザーをたっぷり見せてリッチに。ディテール面ではフリンジが主役。ロングコートの裾は短冊状に遊ばせた。髪の毛風、すだれ状など、様々なタイプのフリンジをあしらった。全体に縦長シルエットで、しなやかグランジを印象づけていた。
◆ポステレガント(POSTELEGANT)
「東京ファッションアワード 2019」を受賞している中田優也デザイナーが2017年に立ち上げた「ポステレガント(POSTELEGANT)」も初めて東コレを発表の場に選んだ。「タイムレスなモダンウエア」を掲げるだけあって、全体に大人テイストの静かなルックが多い。ファーストルックの立ち襟ロングコート以降も、縦長シルエットが打ち出された。布の起伏を生かしたルックや、プリント柄を使わず、折りや編みで模様を忍び込ませた装いを提案。トーン・オン・トーンでまとめ、穏やかな着映えに整えている。キーアイテムとなった真っ赤なコートをはじめ、男女のモデルがほぼ同じアイテムを着て現れるルックがいくつもあり、ユニセックスの立ち位置を鮮明にしていた。
◆レインメーカー(RAINMAKER)
京都発のブランド「レインメーカー(RAINMAKER)」は東コレでのランウェイデビューをスーツ、アウター主体のショーで飾った。「和」のエッセンスは服づくりの構造に生かされている。羽織り物の上からベルトや締め紐を巻くアレンジや、着物ライクなカシュクールのセットアップなど和服の風情を宿した。チェック柄は格子が大きくて、穏やかな和テイストを醸し出している。端正なジャケットはウエストシェイプを利かせ、マニッシュなパンツとのめりはりを出した。スカジャン風のブルゾントップスは裾をウエストインしてスタイリングに意外感を強めている。京都らしい独自のアプローチは東コレで異彩を放っていた。
◆ザ・ダラス(THE Dallas)
日本では珍しいアール・デコ様式の洋館レストラン「ロアラブッシュ」を会場に選んだのは、東コレで2度目のショーを開いた、田中文江デザイナーの「ザ・ダラス(THE Dallas)」。「感情」を意味する「EMO」をテーマに、感情の揺れ動きを装いに写し込んだ。アンティークな空間に似つかわしく、ヴィンテージ風味を帯びたタイムレスなルックが登場。ファーストルックの膝丈パンツスーツには、レオパード柄の特大ボウタイを添えた。パイソンレザーはバングルにもベルトにも使った。コルセットはジャケットの上から巻いている。ビッグイヤリングも装いのアクセントに。肩を張ったパワージャケットが凜々しく、デビッド・ボウイを思わせるモデルたちの雰囲気と相乗効果を生んでいた。
◆マラミュート(malamute)
ニットに強みを持つ「マラミュート(malamute)」だが、小高真理デザイナーは今回、大人リュクス寄りに舵を切った。洗練されたエレガンスにシフトしたことを端的に示すのは、スーツやセットアップがコレクションの主役に据えられたことだろう。しかし、スーツも肩口にフリルをあしらい、相反するテイスト同士を無理めにねじり合わせている。セットアップもダークトーンでまとめ、ミステリアスな風情。クラシックとスポーティーといった、筋違いの違和感ミックスがエスプリを帯びた。床に届くほどのロング丈のニットパンツやスーパーロング袖など縦長感を強調。ニット、布帛、デニムなどをパズル状に組み合わせ、ムードを深くしていた。
◆ティート トウキョウ(tiit tokyo)
水彩画の素敵な画集をめくるようなショーを、「ティート トウキョウ(tiit tokyo)」は用意した。絵の具がにじんだような、淡いウォーターカラーが穏やかなムードを醸し出す。植物モチーフをあしらった総プリントのすっぽりしたワンピースが心地よさげ。シルエットもゆったりめで、服の中で体が泳ぐよう。パジャマ風ナイトウエアを思わせる、のどかなフォルムが夜の気分を連れてくる。パンツの裾下でネオンカラーのショートブーツがにぎやかに主張。透けるチュール素材を重ねたレイヤードはファンタジーを宿すたたずまい。ブランド初のメンズコレクションも同じショーで披露。レインボーに彩られたランウェイがやさしげなカラーパレットを引き立てていた。
◆アオイ ワナカ(AOI WANAKA)
和中碧デザイナーの「アオイ ワナカ(AOI WANAKA)」は東コレで2シーズン目となるコレクションを発表した。テーマは「Reward of holiday(=休日のご褒美)」。タイトルにふさわしく、オフの日のリラックスした気分と、上品な大人感が同居する装いを披露した。フェティッシュとクラシックを巧みに交差させている。たとえば、マニッシュなパンツスーツの上から、革のハーネスベルトを重ねた。ドレスの上にはブラトップをオン。ゆったりしたオーバーサイズのウエアでのどかさとけだるさを交じり合わせている。しだれ落ちるルーズ感、袖長のベルスリーブがアンニュイな気分を醸し出す。張り出しポケットやペンダントバッグ、ロンググローブなどの小物使いも目を惹いた。
◆リエカ イノウエ ヌー(RIEKA INOUE GNU)
ドレスとヘッドピースのブランド「RIEKA INOUE GNU(リエカ イノウエ ヌー)」は東コレで初めてのショーの舞台にムーディーなバーを選んだ。井上里英香デザイナーはイスラム教徒も着られる「モデストファッション」も提案している。モデルが踊りながらルックを見せるミュージカル風のショーは、ミステリアスな黒のロングドレスでスタート。手の込んだこしらえのビスチェやコルセット風ベルトも妖艶なムードを醸し出す。パフスリーブやシースルーが程よいフェミニンを宿す。レースや花柄、赤紫色を多用して、ドレスにあでやかさとクラシック感をまとわせている。チョーカー風のネックレス、アラビア風のヘッドスカーフはエキゾチックな風情を呼び込んでいた。