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2017.11.07

【マカオレポート2017】マカオファッションの“今”を知る 8年目を迎えた「MFF2017」の見どころ

(右から)2017年のサンプル製作コンテストを受賞した「GELEE」のエスター・レオン、「POURQUOI」のラライスミ・ワイ、「CLASSICO MODERNO」のヴィクター・ラオ、「Soul」のレオ・ウォン。「マカオファッションギャラリー」前で撮影

 マカオ政府がいま、マカオの産業活性化の原動力として力を入れるのが、“クリエイティブ文化の創造”。ファッション分野においても、地元ファッションデザイナーたちがグローバルに活躍できるための活動を、教育からビジネス、販売、プロモーションに至るまで全面的に支える。その取り組みの成果を示した「マカオファッションフェスティバル2017(MFF2017)」は、マカオファッションの“今”が凝縮されたイベント。8年目を迎えた同イベントの見どころを振り返りつつ、マカオファッションが目指す今後について、主催者やゲスト、デザイナーに話を聞いた。

東南アジアからも参加 国際色豊かに

最終日にショーを行った「HANZ COQUILLA Alta Costura」は、フィリピン人デザイナー、ハンズ・コキーラによるドレスブランド。立命館アジア太平洋大学(別府)でコレクションを披露したことがあるという。

 MFFでは、アジア諸国を中心に、海外デザイナーを積極的に招致している。2017年は、初日のオープニングセレモニーを兼ねたランウェイショーで、「nuno & nono」(中国・広州)、「Cheng Pai Cheng」(台湾・台北)、「Kevolie」(香港)、「Pattric Boyle」(タイ)の海外勢4組がショーを行った。また、最終日には、フィリピンから参加した「HANZ COQUILLA Alta Costura」がマカオのドレスブランドとともに最新コレクションを披露し、同イベントを華やかに締めくくった。CPTTM(※)でクリエイティブ事業のシニア・ディレクターを務めるレニー・ンは、「SNSなどのメディアを活用したプロモーションを行うなかで海外のデザイナーたちとの繋がりを強めている。今回はタイやフィリピンなど東南アジアからの参加も実現した。マカオと海外デザイナーの交流が深まるだけでなく、海外勢の参加が増えれば、その国のメディアに注目してもらえる。今後も積極的に参加を促したい」。音楽などファッション以外のコンテンツを加えることも検討しているという。

「HANZ COQUILLA Alta Costura」

マカオファッションのレベルアップに サンプル製作コンテスト

芸術家として活動するユン・ペンの作品

 会期2日目に行われたのは、サンプル製作コンテスト「Fashion Exhibition of the 4rd Subsidy Prgramme for Fashion Design and Sample Making」の受賞者8人がコレクションを披露するショー「スタイル・エンカウンター・モーメント(Style・Encounter・Moment)」。マカオ政府文化局とCPTTMが主催する同コンテストは、賞金16万パタカ(約240万円)を競って行われる。サンプル作品とともに、事業・販売プランも併せて提出する必要があり、クリエイティビティーとビジネスの両面で評価される。4回目を迎えた今年は、ジディオン・タム「KC GIDEON」、ラライスミ・ワイ「POURQUOI」、アロ・ロー&レイニー・チョイ「AURALO ARTE」、ヴィンセント・チェン「WORKER PLAYGROUND」、ユン・ペン、エスター・レオン「GELEE」、 レオ・ウォン「Soul」、ヴィクター・ラオ「CLASSICO MODERNO」が受賞した。
 デザイナーのラライスミ・ワイは、2度目の挑戦で初受賞した。「前の年は、クリエーションに集中し過ぎて、市場が求めているものとマッチしていなかったのかもしれない。ほかのデザイナーたちの進歩を感じるとともに、私自身の成長も実感するイベント」と話す。ジディオン・タムも、「政府をあげての取り組みに感謝している。コンテストではあるが、デザイナー同士が競うことよりも、イベントが盛り上がることで、マカオのファッション業界が注目されることの方が重要だ」。
 受賞作品は、マカオ発ブランドを展示・直売している「マカオファッションギャラリー」で2017年12月31日まで展示されている。

CPTTM出身のアロ・ロー&レイニー・チョイによる「AURALO ARTE」

グラフィックデザイナーとしても活躍するヴィンセント・チェンによる「WORKER PLAYGROUND」

※金額は1パタカ=15円で計算

人材育成からバックアップ インキュベーションプログラム「マコンセフ(MACONSEF)」

「マコンセフ」学生らによるコレクション

 マカオ政府がクリエイティブ産業振興の一環として取り組むのが、ファッションデザイナーの育成。CPTTMが運営する「ハウス・オブ・アパレル・テクノロジー(HAT)」は、マカオ唯一のファッション&クリエイティビティーのスペシャリスト養成機関。MFF2017では、HATで優秀な成績を収めた学生が受講することができるインキュベーションプログラム「マコンセフ(MACONSEF)」の学生たちが作品を披露した。
 マコンセフでは、マーケット分析を含めたファッションビジネスを学びつつ、学生5人で1つのブランドを作り上げていく。香港ファッションウィークといった国内外のイベントでもランウェイショーを行うなど、2年間に渡りプロ同様の経験を積む。

(前列左から)ミッキー・チェ、ユナ・レオン、ユーニス・チョン、カリーナ・ラオ、セレスティーノ・マリア・コルドヴァ

■ユナ・レオン
 マコンセフでは、違うスタイルを持った5人がチームになって1つのコレクションを作り上げていくので、コミュニケーション力が問われるし、いい刺激になっている。マカオのマーケットが小さいので、将来は、中国市場を目指して活動していきたい。中国はマカオに比べると、新しいものを受け入れる土壌が整っているから。

■ミッキー・チェ
 7月の香港ファッションウィークに参加したことで、香港の成熟したファッション業界を目にすることができたのは、貴重な経験だった。また香港理工大学の学生など似た環境にある人たちと交流できたことも刺激になった。デザイナーになるためにはさらに経験値を上げなければならないが、デザイナーになったら、マカオが夜のきらびやかさだけでなく、多面的な姿を持っていることをファッションを通して伝えられるようになりたい。

■セレスティーノ・マリア・コルドヴァ
 マコンセフでは、デザインだけではなく、マーケティングを含め、商品化までのあらゆる勉強ができるのが魅力。日本のファッションに影響を受けているので、将来は自身のブランドを立ち上げ、日本市場で活動してみたい。マカオは服飾系の工場が減ってしまったが、服づくりの職人がまだ多く残っている。これはマカオ人デザイナーにとって大きなアドバンテージだと思う。

マカオのデザイナーたちがグローバルに活躍するために

CPTTMクリエイティブ事業のシニア・マネージャーを務めるレニー・ン

 「海外でのイベント参加やプロモーションが、マカオファッションの認知度向上につながっている」とCPTTMのレニー・ン。「FacebookやWeChatなどのオンラインメディアを活用し、海外メディアやバイヤーとのネットワークを広げている。それが参加者や来場者の増加につながっている」という。今年のMFFには、前年比7%増の1,396人が来場した。
 今年3月には、中国・上海で行われた「中国国際服装服飾博覧会(CHIC)」に、CPTTMのサポートのもと6ブランドが初参加した。「出展したブランドへの反響も高く、注力している市場の1つである中国本土へのイベント参加は非常に意義があった。会場では、100万超の視聴者を抱える中国のネットメディアがライブ配信を行ったこともあり、認知度アップにおいても効果があった」。また、同展示会への参加は、デザイナーにとって思わぬメリットもあった。「アパレル関連の工場が少ないマカオでデザイナーたちが苦労するのが素材調達。CHICには、世界中からアパレル・素材メーカーが集まっている場所。素材について学べる点でも大きな刺激になったようだ」
 今後は年に4回のペースで海外でのイベントに参加する計画。「マカオ政府が掲げるクリエイティブ産業の中には、IT業界なども含まれるため、ファッション業界に割り当てられた予算については明言できないが、予算が限られていることは確か。私たちにとって、より質のいいイベントは何かを吟味して参加したい。また、デザイナーたちの出展をサポートをするだけでなく、出展後のフィードバックや、定期的なチェックを行うことで、より大きな効果を生み出せるような取り組みをデザイナーとともに続けていく」
 日本でのイベント参加にも意欲を示す。「オファーもいただいて、非常に興味がある。しかしMFFが「第22回マカオ国際トレード&インベストメント・フェア(MIF)」との併催イベントであるため、開催時期(アマゾンファッションウィーク東京と同じ週)をずらすことは現状難しい。春のイベントへの参加は今後ぜひ検討してみたい」
 海外ではマカオ発ブランドならではの個性が求められる。「生産力を要するマス向け・大量生産型で勝負をしようとは考えていない。いかにユニークで付加価値の高いものを生み出せるかに商機があると感じている」

■ウォルター・マー(香港デザイナー協会副主席/ファッションディレクター)

 マカオのデザイナーたちは、産業の特性によって現地での素材調達に苦労することが多い。また、デザイン面においても、国際的レベルに達するにはさらなるレベルアップが求められるだろう。実用的でカジュアルなアイテムにも目を向ける必要があるかもしれない。しかし、マカオのデザイナーたちは、MFFのような政府のサポート体制もあり、かつ産業振興のための人材も集めやすい環境にある。国際的なイベントに積極的に参加し、海外デザイナーたちとの交流を深めることで、グローバルに戦える力を身に付けてほしい。

■ジディオン・タム(英国・中国を拠点に活動する「KC GIDEON」デザイナー)

 (繊維産業が栄えた1970~1980年代以降マカオの繊維工場が減少しているという指摘に対し)質のいいものであれば、必ずしもマカオ生産にこだわる必要はないと考えている。マカオには地の利を生かし、アピールできるものがたくさんある。海外からの観光地も多く、言葉の壁も低い。だから、マカオと聞いてカジノが思い浮かぶのではなく、文化的な面を想起してもらえるよう、ファッション業界を盛り上げていきたい。 特に若いデザイナーたちには、さらに団結、交流を深めてほしい。マカオでは素材調達が容易ではないが、苦労と思わずチャレンジすることが大切。海外に出て様々なデザイナーたちと交流することで、あらゆる知識も身につくはず。

(取材・撮影/AW編集部・戸)

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