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2017.11.01
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.44】2018年春夏東京コレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.44
ファッショントレンドが見えにくくなってきたと指摘される昨今だが、2018年春夏シーズンの東京コレクションは多様な切り口や方向感を打ち出した。ジェンダーレスやシーズンレスといったこれまでの流れに加え、ケミカル、スーパーミックス、日本回帰などの新テイストが登場。東コレが示したモード発信力の新たな可能性を探る。
工業系の素材使いが盛り上がったのが、今回の東コレの目立った変化だ。「ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)」はまばゆいメタリック素材に、透けるチュール生地を交わらせて、質感ミックスを印象づけた。足元を彩ったブーツもビニール風のつややかな表情。フューチャリスティック(未来感覚)なムードを濃くした。イエローやグリーン、レッドをワントーンで押し出した。左右で色を変えたアレンジはポジティブでチアフル。スポーティーとエレガントを響き合わせる提案が若々しくてアスレティック。チュール仕立てのアームウォーマーはレディー感を漂わせていた。
複雑なレイヤードに女性の多面性を託す表現が広がりを見せている。「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」はブラトップ、コルセットなど、ランジェリー系のトップスを内側に着込むのではなく、一番外側から重ねて重層的に仕上げた。肩や袖、裾のあちこちにカットアウトやスリットを施して素肌をさらし、肉体までレイヤードに組み込んだ。アームウォーマーのようにふくらみを持たせた量感がレディーライクな起伏を生んだ。シルエット全体は縦長にまとめられているが、布の特質を生かして、ギャザー、シャーリング、ドレープなどで抑揚を与えている。半透明のビニール系ウエア、スポーツウエア風のドローコード(紐)などが元気でアクティブな気分を呼び込んでいた。
ミリタリーやアウトドアの勢いが衰えを見せない中、このフィールドでの圧倒的な強みを見せたのが「ハイク(HYKE)」。解体や再構成を加え、ムードをひねった。軍用ジャケットの着丈をボレロ程度に思い切って詰めたような独創のアウターを打ち出した。胸の下あたりでゆるく弧を描くラウンド裾はギャザー仕上げがやさしげ。タフネスとたおやかさを絶妙に両立させた。ノースリーブのジャケットにトランスペアレントのプリーツスカートを合わせるような、マニッシュとフェミニンの交差が冴える。シースルーのアームカバーは淑女の風情。ロングアウターもフーディーもワンピース風に仕立て直し、ヘビーデューティーをドレッシーに操っている。
シーズンレスのうねりもあって、季節をまたぐ装いはさらに勢いづく気配を見せている。旅先を思わせるリラクシングな重ね着を柱に据えたのは、湖畔のリゾートを舞台に設定した「ティートトウキョウ(tiit tokyo)」。落ち感が引き立つエフォートレスなシルエットが基調になった。布のドレープやたるみが穏やかなムードを醸し出す。リゾートホテルでまとうラウンジウエアのようなアイテムはシーンフリーで着こなせそう。ドローストリングスやフリンジなど、様々な紐を垂らして、縦に長いイメージを引き出している。グリーンやベージュなどのナチュラルトーンは自然体の気分を寄り添わせた。
見慣れた服の解体と再構成が世界規模で加速しつつある。東コレで大胆な「破壊と再生」に挑んだのは、アバンギャルド路線で知られてきた「ミキオサカベ(MIKIO SAKABE)」。日本の伝統的な着物文化を読み換え、過剰のスパイスを加味。大襟のロングジレや、着物ライクな打ち合わせのミニ丈ワンピースには和服の残り香が漂う。足首から下をまるごとくるんだようなスーパー厚底シューズは花魁の履き物を思い起こさせる。解体に加え、デフォルメ(誇張)を施し、朗らかな毒を盛った。オーバーサイズをあちこちに取り入れ、ブラウス袖やパンツ幅をふくらませている。量感を揺さぶるスタイリングが立体的なレイヤードを弾ませていた。
性別にとらわれないどころか、あえて境界線を行き来するかのような「ジェンダーミックス」は東コレでも定着してきた。「ミューラル(MURRAL)」は小花柄をキーモチーフにした、、一見、ガーリーな着姿を示しながら、ダブルブレストや紳士靴の面影を写し込んで、趣を深くした。フラワーモチーフはグローバルトレンドでも2018年春夏に再び盛り上がりそうな兆しが見えている。ラッフルが身頃を斜めに流れ落ちるブラウス、細めのプリーツを配したスカートもたおやかな着映えに導いている。半面、トレンチコート風のワンピース、パジャマ風のセットアップはマニッシュ感を残す。モンクストラップの紳士靴から足の甲をカットオフしたような真っ赤なシューズはジェンダーを融け合わせているように見えた。
異なる時代や文化、民族などを強引気味にねじり合わせる「スーパーミックス」がグローバルトレンドとして広がりつつある。「グローイングペイン(GROWING PAINS)」は大正時代のおしゃれな女性たち「MOGA(モガ=モダンガール)」をテーマに据えつつ、パンク風味を加えて、クロスカルチャーの潮流を受け止めてみせた。大正時代らしいクラシックムードと、ストリート感を帯びたケミカル素材を組み合わせた。大襟トップスやボウタイ・ブラウスは古風なたたずまい。着物女性のプリント柄、右から左につづるカタカナロゴにも大正が薫る。一方、光を放つトラックパンツ、二の腕ごと胴に巻いたベルトはロック気分を注ぎ込んでいた。
ニューヨークから広がった「見てすぐ買える」式のショー形式も広がった。東京ブランドに特化したセレクトショップ「ステュディオス(STUDIOUS)」で知られる企業「トウキョウベース(TOKYO BASE)」が手がける、メイド・イン・ジャパンのオリジナルブランドが「ユナイテッド トウキョウ(UNITED TOKYO)」。東コレでは初となったランウェイショーを開催し、17-18年秋冬と18年春夏のアイテムを混ぜて披露した。ウィメンズとメンズも一緒に発表し、ジェンダーとシーズンの両方をミックス。ショーの終了直後から、発表したばかりのアイテムを売り出した。葛飾北斎の浮世絵を描き込んだニットトップスで、「日本発」という持ち味をアピール。エポレットなしのトレンチドレスや、マフラーと一体化した半身のニットジャケット、パジャマ風の花柄セットアップなどで、ありきたりのフォルムを揺さぶって見せた。
アマゾンジャパンが支援するようになって、東コレの認知度は少しずつ上がってきたように見える。スペシャルプログラム「AT TOKYO」の一環として開催された「10.20 サカイ / アンダーカバー」「トーガ(TOGA)」「ブラックアイパッチ(BlackEyePatch)」は大きな話題となった。ショーで発表した直後から新作の予約を受け付けるシステムのファッションECサイト「@SeeNowTokyo」(「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」「モト ゴー(MOTO GUO)」)なども加わり、バリエーションが広がった。パリコレの常連ブランドが参加したうえ、様々なアワードが伸び盛りの新鋭を後押し。ファッションウィークとビジネスに欠かせない、クリエーションとマーケティングという両輪に勢いが加わった。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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