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2019.03.06

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.55】2019-20年秋冬ニューヨーク&ロンドンコレクション

 ストリートとスポーツのロングトレンドが先シーズンで落ち着いたのを受け継いで、2019-20年秋冬シーズンのニューヨークとロンドンのファッションウイークでは、グラマラスやドレスアップに流れが傾いた。盛り上がりの続くテーラードを軸に、マント風のビッグケープや、ドレッシーなパワースーツが登場。クラシックな風情や、フェザー(羽根)・レザー使い、ガンメタリックカラーなどが相次いで提案され、装いは勢いを得た。目立ったテイストは、ジャクリーン・ケネディを連想させるような、飾り立てすぎないドレスアップで、「ドラマティックミニマリズム」や「ビジネスクチュール」といったムードを帯びている。

ニューヨークコレクション

◆マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)

 「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」はたおやかなビッグボリュームで優美なシルエットを描き出した。キーピースはケープドレス。裾に向かって広がるトラペーズラインがクラシックなムードを醸し出す。古風なクリノリンで膨らませたかのような、スカートの量感がノスタルジック。袖にもこんもりと膨らみを持たせた。クチュール感が高く、リュクスな着映えが相次いだ。華やいだ雰囲気を印象づけていたのは、フェザーの多用。ファーに代わるリッチ素材としてフェザーを用いる流れを印象づけていた。

◆ザ・ロウ(THE ROW)

 ウエストを細くシェイプするのは、今回のNYで目立ったシルエットだ。「ザ・ロウ(THE ROW)」は、お得意のテーラードと交わらせて、細身で縦長のフルイドルックに仕上げている。ジャケットは着丈がイレギュラーに長く、流麗な着映え。あご先を隠すほどのハイネックもロング&リーンのフォルムを印象づけている。ジャケットとコートを主役に、マニッシュとエレガンスを交差させた。ビッグコートとパンツの組み合わせで、凜々しいシルエットを構築。ミニマル感と硬質さが響き合って、ブリットでシャープなルックにまとまっている。

◆プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)

 テーラードを全体に取り入れて、「プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)」はマニッシュな装いを印象づけた。ジャケットやコートを軸に、クールなムードを演出。カラーパレットを黒、白、グレーなどの静かな色に絞ったおかげで、シャープな落ち感が際立っている。カーキやベージュに、黒を交わらせて、装いを引き締めた。オーバーサイズに仕立てる一方で、ウエストを絞って、細いシルエットを描き出した。動きを添えているのは、アニマルプリントの活用だ。デニムや黒革などの異素材を投入。質感の違いがスタイリングに深みをもたらしている。

◆コーチ(COACH)

 先シーズンから盛り上がったサイクリングパンツ(バイカーショーツ)に続き、ショート丈のアクティブなパンツが勢いづいている。「コーチ(COACH)」はバミューダ丈のパンツで、サーフやスケートの気分を呼び込んだ。カリフォルニアやグランジロックのムードを帯びたフリンジやタイダイがアメリカンなたたずまい。万華鏡を思わせるサイケデリック柄がダークでグラムな華やぎを醸し出す。伝統工芸のキルトと、重層的なファブリックが手仕事感を宿し、米国史をまとうような装いに導く。テーラーリング技とオーバーサイズをねじり合わせ、ロカビリー風味と落ち着きを両立させていた。

◆マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)

 ドレスアップに誘う提案が相次ぐ中、「マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)」は1970年代NYの伝説的なナイトクラブ「スタジオ54」のカプセルコレクションを組み込んで、グラマラスなムードを濃くした。フェザーで埋め尽くしたマラボーやネックウエアでゴージャス感を添えた。テーラードジャケットやパワースーツが洗練された着映えに整えている。フェイクファーやメタリックカラーで、ナイトクラビングの気分を乗せた。レザーのパッチワーク、袖をたるませたディテールも、楽観的な気分を漂わせる。ロングブーツ、プラットフォームシューズが足元から装いを弾ませていた。

◆3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)

 ファーフリーやエキゾチックレザーフリーを表明する動きが広がってきた。「3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)」もファーフリーの取り組みを表明。デザイナーのエコ志向は、長く着続けやすい服の提案にもつながっている。奇をてらわず、黒や白、グレーといったシックな色を軸にしたのも、愛着を持って着続けてもらえる服を考え抜いた結果だろう。過剰な飾り気を抑えた、ユーティリティー風のシルエットにも、服本来の機能を重んじる意識がうかがえる。丸みを帯びたコクーンコートやウエストがシェイプされたコートなど、丁寧なテーラーリングで上品さやエレガンスを引き出した。

ロンドンコレクション

◆アーデム(ERDEM)

 「アーデム(ERDEM)」はダークトーンとつやめき色を交じり合わせて、ドレッシーな装いを組み立てた。シャイニーなブロケード刺繍がクラシカルなレディー像を立ちのぼらせている。繊細なレース、あでやかなフラワーモチーフが古風でフォーマルな社交の雰囲気をまとわせた。編み柄のきれいな黒タイツもミステリアスなムード。淑女テイストを印象づけたのは、大ぶりの黒ボウ。フリル襟や首飾りのレース使いも高貴な風情を寄り添わせている。シルエット面の主張は抑えながらも、フェザーやレースで品格を加え、ダークロマンティックな着映えに整えていた。

◆ポーツ 1961(PORTS 1961)

 「エレガンス」の意味を、様々な角度から問いかけるような試みが相次いだ。「ポーツ 1961(PORTS 1961)」はドレッシーの象徴的アイテムであるドレスで、片方の肩だけを露出するようなアシンメトリーを仕掛けた。グレーや黒、白をベースカラーに据えつつ、トリッキーな袖のディテールで動きを加えている。ドレスをパンツに重ね、中性的なフォルムに仕上げた。不ぞろいの始末やスリット、カットアウトを多用して、全体に「未完成」の雰囲気を演出。洗練と解体を交錯させた。自然な落ち感を引き出し、スーツやドレスにもリラクシングな風情を漂わせている。

 今回のNYとロンドンでは、モードのトレンドがグラマラスでドレッシーな方向に転換したことがはっきり示された。ストリートやスポーツからの「揺り戻し」と見えるが、ウエストシェイプを利かせたコートに見られるような、英国調の本格仕立てが多用されていて、クラシカル、ノスタルジックといったムードも帯びた。グラムロック風の1970~80sテイストも織り込まれて、ヴィンテージ風味とゴージャス感が重なり合う演出も、着姿にパワーと華やぎをもたらしていた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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