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2018.01.17

“似てない”2館が生み出す相乗効果 大阪・梅田のディアモール大阪×イーマ

個性派「イーマ」 大阪ダイヤモンド地下街が事業引き受け

個性派テナントを集積する「イーマ」(写真は南側1階のエントランス部分)

 「イーマ」は以前、ザイマックスプロパティズ関西が管理・運営していた施設で、2002年に、プロパティマネジメント物件として、商業施設――ファッションビルとして開発された。今ではすっかり定着した観のあるPMだが、当時は日本ではまだ珍しかった運営手法だ。地主とは別組織の管理会社がリーシングから運営までを請け負う。専門家の手に委ねることで、より効率的に収益性を高めようという目的がある。

 

 2006年に年間の最高売上93億円を達成した「イーマ」だが、その後は周辺に新しい商業施設(ルクアやグランフロント大阪など)が開発されるに連れ――商業施設の宿命とも言えるが――苦戦の色合いが濃くなっていった。当初の売りだったセレクトショップなどの人気テナントのいくつかは、そうした新しい商業施設の開業と共にそちらへ移転していった。直近では、37億円にまで売り上げが落ち込んでいた。

 

 2015年4月、「イーマ」は開業以来の全館規模の改装を実施した。個性派のセレクトショップや、ウエディングなどのサービス施設、そして3階フロアには「アークテリクス」「マムート」といったファッションシーンでも人気のあるアウトドア系ブランドの集積を作った。開業当時からの、“エッヂ”の効いた――路面志向のテナントを集積し、再び周辺施設との住み分けを強化しようとしている。

 

 こうした個性派セレクトショップ(「ストゥディオス」「ギルドプライム」「A.P.C.」「ロフトマン」「アダムエロぺ」等)やアウトドア系ブランドが着実に顧客を取り込みつつある。今秋はこうした顧客をしっかりつかんでいるテナント群が堅調に推移しているようで、上昇の兆しが顕著になりつつある。大阪ダイヤモンド地下街が「イーマ」のPM事業を引き受けた背景にも、こうした個性派テナントが集まるファッションビルであることが関係している。

 

 イーマ館長で、同社のテナント開発課長とPM事業部の課長も兼ねる木村芳一氏は、「(セレクトショップなどの)キーテナントが落ち着いていること、リフレッシュすることでディアモール大阪との相乗効果を活かして、潜在能力をさらに発揮できることが大きな魅力」だと語る。後述するが、「ディアモール大阪」と「イーマ」の主要顧客層は競合していないため、住み分けが可能と判断したようだ。

2館共同で初売り販促

幅広い客層を取り込む「ディアモール大阪」(写真は吹き抜けのある「カジュアルストリート」の一画)

 「ディアモール大阪」はJRや地下鉄、大阪駅前ビルなどをつなぐ地下通路を商業施設として開発した地下街だ。主要な顧客層は20代後半から40代前半の女性客で、ファッションを中心に化粧品や雑貨類、最近ではカフェのテナントも強化している。対する「イーマ」の主要顧客層は70~80%が30-40代の男性客だそうで、うまく住み分けが図れている。「ディアモール大阪」は通勤通路を兼ねている面もあるため、たいへん利便性の高い立地である。以前は平日と週末の比が1対1.4程度だったというが、現在はその差がほとんどないという。

 

 カフェテナントを強化していると述べたが、やはり主力は全体の60~70%を占めるファッション関連商材である。立地特性上、「デイリーユースの需要が多い」(同社営業部、足立直之運営課長)。OL・キャリア向けブランドを中心に、今年の8、9月辺りから前年比を超える推移だという。対する「イーマ」は顧客比率が高いため、夕方以降や週末に集客のピークを迎える傾向がある。商材も“ハレ”向けの者が多いようだ。

 

 今年の初売りでは、初めて2館共同の販促を実施した。「ディアモール大阪」と「イーマ」の名前を印刷したポスターが館内のあちこちに張り出された。とはいえ、まだ2館の運営体制は始まったばかり。「取り組みはこれから具体化していく」(木村館長)という。デイリーユースを追求する「ディアモール大阪」と、個性派テナントの集積を強みにする「イーマ」。それぞれ、やるべきことは明確だという。その1つが、「おでかけカード」。阪急阪神グループ共通のポイントカードで、「ディアモール大阪」に引き続き「イーマ」でも今年4月から導入する予定だ。

 

 幅広い客層が流れ込む「ディアモール大阪」。その中から、「イーマ」の個性的なテイスト・世界観に関心を持つ顧客をどれだけ取り込んでいけるか。2館の相乗効果を発揮する今後の方向性は、そういった取り組み内容になるようだ。「ディアモール大阪」の一画に「イーマ」の地階へつながる連絡通路がある。元々、共に回遊性のあった施設同士だが、運営母体が同じになり、今度どういった相乗効果が表れるのかが楽しみだ。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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