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2019.02.21
【インタビュー】バーチャルテクノロジーで世界と戦う 日本発のグローバルスタートアップ――株式会社Psychic VR Lab「STYLY」
written by ケルビン(AIR編集員)
STYLYの渡邊遼平CMO
VRの最前線を追うために、AIR編集員のケルビンが都内に開発拠点を構える、VRクリエイティブプラットフォーム「STYLY」を提供する株式会社Psychic VR Labへ取材してきました。「STYLY」の取り組み及び事例、そして今後の展望について、Chief Media Officer(最高メディア責任者)の渡邊 遼平氏をお招きして、対談形式でお届けします。
「STYLY」の魅力は無料だけではない
ケルビン まず簡単に、「STYLY」の特徴をご説明いただけますでしょうか?
渡邊 「STYLY」はWebブラウザのみで稼働するVR空間の制作、配信が可能なVRクリエイティブプラットフォームです。MacやWindowsに対応し、VR対応型PC以外の普及型PCでも稼働します。いくつか特徴がありますが、まずすべての機能が無料で利用できます。また、VRを制作したことがない初心者の方でも、直感的な操作で手軽にVR空間の制作が可能な点も特徴的です。一般的に3Dグラフィック関連の編集や開発には高性能PCが必要となります。もちろん価格も一般的なPCより高いです。STYLYの場合は、普及型のPCでだれもがVR空間を制作できるクリエイターになることができます。
ケルビン これはユーザーにとって、利用のハードルがだいぶ下がりますね。無料でカジュアルに試せるのが魅力的ですね。
渡邊 そうですね。プログラミングの知識がなくでもドラッグ&ドロップで簡単に操作することができますし、STYLYはGoogleが提供する「Poly」という3Dモデルの共有サイトと連携しているので、ユーザーがSTYLYでキーワードを検索すれば、 Polyの素材をVRのコンテンツ制作に生かすこともできます。さらに、動画や音源、PDF形式のコンテンツなども外部からSTYLYに取り込んで利用できます。たとえば、PDF形式のコンテンツを、STYLYが作り出すVR空間の中では、バーチャルの本のように、ページをめくるような動きもできますね。
ケルビン 無料でここまで充実した機能も揃って、STYLYは柔軟で、拡張性能が高いプラットフォームなんですね。
渡邊 その通りです。VRコンテンツの体験も簡単で、いままではユーザーがコンテンツ(アプリ形式)ごとに1つ1つダウンロードしなければならなかったのですが、STYLYは制作機能だけではなく、プラットフォームとしての配信機能もあるので、STYLYの「VR viewer app」というアプリだけをダウンロードすれば、STYLYのあらゆるVRコンテンツが体験できます。コンテンツが完成し次第、専用のURLを発行し、STYLYで配信します。ユーザーは指定のURLにアクセスするだけで、VRコンテンツが体験できます。STYLYの操作に慣れてくると、コンテンツ作成から配信までは10分、20分程度で完成できます。
3DスキャナーSTYLYがもたらす 新しいファッションの可能性
ケルビン STYLYの機能面はわかってきました。STYLYを使った御社のコンテンツでは、ファッションブランドの「ヨウジヤマモト」の2018年春夏パリコレクションのランウェイを体感できるものが印象的です。360度空間を映したコレクションムービーをVRヘッドマウントディスプレイを介することで、お店にいながら、パリコレクションの現場にいるようにショーを鑑賞するものでしたが、それ以外にファッションECに関連する取り組みはありますか?
渡邊 これまで、我々はファッション x VRというテーマでさまざまなVRコンテンツを制作してきました。 次は、ファッションとVRの可能性をより広げるために、当社が持っている高精細な3Dスキャナーを活用することにしました。スキャンした服のデータをファッションブランドのコンセプトを反映させたVR空間の中に取り込むことで、新たなショッピング体験を実現できると思い、伊勢丹様やパルコ様と一緒にコンテンツ開発を行ってきました。具体的には、3Dスキャナーに搭載されている125個の高感度カメラで洋服を撮影します。その撮影した画像を20分程度で3Dモデル化し、STYLYに入れ込むと、仮想空間の中で、洋服のデザイン、シルエット、細部の風合いまで再現が可能です。
ケルビン 確かに、先ほどVRコンテンツを体験したときに、仮想化した洋服を思わず触ろうとしてしまったぐらいリアルでした。従来のECと違って、商品詳細画像が3Dモデルになり、そのブランドのコンセプトやシーズンテーマに合わせて、背景を森や浜辺にして、加えて音楽の演出まで実感できました。これは本当にECでもリアルでも味会えないですね。VRが従来のECと店舗の購買体験を進化させた理由がわかった気がします。
最初からグローバルの舞台で戦うという決意
ケルビン 先ほど、事務所に入ったときから、いろいろなVRデバイスが目に入りましたが、特にHTCのVIVE™(台湾)、Oculus Rift(米国)などの海外勢がVRデバイス市場のトップシェアを握っていますが、日本のプラットフォームとして今後御社はどう対抗していきますか?
渡邊 おっしゃる通りですね、基本的にマーケットを支配しているのはやはりGoogleなどの欧米企業ですね。ここ数年は中国勢も目立っています。我々はVRの領域でのはプラットフォームとして巻き返したいです。だからこそ、最初からグローバルベンチャーとして事業をスタートしました。冒頭に紹介したSTYLYのウェブサイトも最初から英語のみで作っていました。アクセスの7割~8割が海外からです。グローバルチームも抱えて、今日一緒にデモをしてくれた日本人のエンジニアは英語、中国語、広東語も流暢に操ります。いろいろな文化や背景を持った多様化な組織にしていきたいですね。
アメリカでも多く実績をあげている
渡邊 今日体験していただいたMR(MixedRealit y:複合現実)のファッションECコンテンツは、マイクロソフト社(Microsoft)のMRデバイス「HoloLens」を使用しました。実は当社は先日、日本マイクロソフト社が主催しHoloLensアプリケーション開発コンテストで、このMR購買体験のコンテンツがビジネス部門の最優秀賞を受賞しました。実際MRデバイス「HoloLens」の開発者であるシアトル本社に在駐するアレックス・キップマン氏に直接的に開発したコンテンツを直接見せに行って、「CoolなUIだ!」と喜んでいただきました。
またカリフォルニア大学をはじめ、アメリカの8つの大学、延べ150名の生徒と教員に向けてSTYLYを活用したVRワークショップを開催しました。現在も多くの方に利用していただいています。
ケルビン 今日はじめて、VRとMRを体験しまして、本当に可能性を感じました。まるでガラケーがスマートフォンに進化した時代みたいです。VRやMRをきっかけに、今後ファッションの体験が今後どこまで進化できるか、楽しみですね。
――アパレルウェブ「AIR VOL. 13」(2018年7月発刊)より