PICK UP

2019.02.20

大阪「阪急西宮ガーデンズ」  10周年を機に開業以来2度目の大規模改装

サービス面を重視した「ゲート館」。最寄駅「西宮北口」と直結している

 ショッピングモールも様々な形態の施設が開発されているが、郊外型で百貨店を核テナントにした成功事例はそれほど多くない。今回ご紹介する「阪急西宮ガーデンズ」(兵庫県西宮市高松町)は、その数少ないケースである。昨年11月、開業から10周年を迎えた同施設は、今年3月に開業以来2度目の大規模リニューアルを計画している。

既存テナントのブラッシュアップも狙いの1つ

 阪急西宮ガーデンズは、阪急阪神不動産および阪急阪神ビルマネジメントが手掛ける複合商業施設だ。阪急電鉄・西宮北口駅が最寄りで、大阪・梅田や神戸・三ノ宮から10数分とアクセスが良い。近隣には夙川など高級住宅地があり、関西では高級でハイソな地区として認識されている。2008年10月、西宮球場跡地に開業したのが、阪急西宮ガーデンズだった。阪急百貨店を核テナントとして、259の店舗が出店している。いわゆる“2核1モール”の形態で、もう1つのアンカーテナントをGMSのイズミヤが担っている。

 

 “本館”の延床面積は約24万7000平方メートル、賃貸面積が約10万7000平方メートル。一部を除き、地上4階の構造だ。昨年秋に、最寄駅の西宮北口駅近くに「ゲート館」(賃貸面積は約8080平方メートル)が、本館の南側に「別館」(同2340平方メートル)が開業し、3館体制となった。特に「ゲート館」の相乗効果が大きく、3月の改装へ向けてクローズしているテナントが多い本館への集客を後押ししている。ちなみに、「ゲート館」のテーマは“育み”。大学やカルチャーセンターなど、学べる施設を重点的に誘致している。西宮北口駅と連絡する3階フロア(本館への連絡橋=ペデストリアンデッキになっている)には、カフェなどの飲食テナントを配した。

 

 2017年度の売上実績は815億円。来館者数は2005万人で安定した推移だった。来館者数は毎年、増え続けているという。商圏は足元を中心とした阪急沿線で、東灘区から尼崎、宝塚などで全体の80%を占める。10年目を迎え、周辺地域にもその存在が認知されたようである。

 

 改装オープンは来たる3月、3度に分けて順次、実施する予定。全テナントの約30%に該当する73店が対象となる。うち新規出店が26店、移転・改装が47店。既存テナントのブラッシュアップも、今回の改装の狙いの1つである。館内のトイレ施設や床のカーペットも全面的に新しくした。「10周年を迎えるにあたり再度、(ハード面の)売り場環境の刷新」(三輪谷雅明館長)を念頭に置いた。「現在のマーケットニーズに対し、MDにずれが生じたからと言うよりも、館をアップデートするという意識が強い」(同)。

本館をつなぐ「ゲート館」の開業で、改装による入館客の落ち込みが緩和されている

要望の多かったテナントも強化

 今回の改装の強化ポイントは、既存テナントのブラッシュアップだと前述したが、顧客から要望の多かったカテゴリーのテナント誘致もその1つだ。定番ショップであるが、セレクトの「ビームス」、「スターバックスコーヒー」などがその典型事例である。話題性という点では、スポーツショップの「デカトロン」だろう。国内初出店の同ショップは、品揃え型ではなく、全て自社ブランドで展開するSPA型のスポーツ店舗。「要望の多かったスポーツショップで住み分けを考えた時、初出店の『デカトロン』へと自然に落ち着いた」(三輪谷館長)という。

 

 そのほか、既存テナントの配置換えを実施するのも、今回の改装の特徴だ。インテリアの「フランフラン」や「ケユカ」、「ビーミングライフストアバイビームス」「ノーリーズコレット」「マーコート」などがその一例である。

 

 3月の改装オープンを控え、現在はかなりの区画がクローズしている。にも関わらず、「ゲート館」のオープン効果もあり、来館者数はそれほど減少していないようだ。1月度の来館者数は、トータルで104.8%と前年同期比を上回った。上期(18年春夏)は災害などの影響で苦戦傾向だったが、下期は健闘している。また、クローズせずに営業している既存テナントは軒並み前年比を越えているという。

軸足がファッションという姿勢は変わらず

 阪急西宮ガーデンズは、強いマグネットテナントになっている阪急百貨店を筆頭に、イズミヤやそれに付随する準核テナントとでも言うべき「ユニクロ」や「ロフト」などの大型店が館をけん引している。そのグループに「デカトロン」も間もなく加わることになる。これら大きな核モールをつなぐように、専門店街が存在している。物販、中でもファッション関連テナントが依然、主力になっている。

 

 “育み”をテーマにした「ゲート館」やカフェなど、非アパレル系テナントの強化に目が行きがちだが、「軸足がファッションという姿勢は変わっていない」(三輪谷館長)。むしろ、軸のファッションを活かすために、非アパレル系テナントを強化する、と言った方が正確かもしれない。館全体で集客する際、様々な要素を組み合わせで提案する必要性が高まっているのだろう。

 

 少し本題から離れるかもしれないが、「西宮」と言えば、住みたい街ランキングの常連である。ちなみに関東では、吉祥寺が人気ナンバーワンだという。とある住宅供給企業の調査によると、「西宮北口」が6年連続で関西の住みたい街ナンバーワンになったという。前述の夙川などが本来の「西宮」の本丸だそうで、「西宮北口」は少し中心が外れたカジュアルな場所のようである。阪急西宮ガーデンズの開業が1つのきっかけになって、人気のある街に生まれ変わって行ったのだろうか。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

アパレルウェブ ブログ

メールマガジン登録