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2019.02.07
第四次産業革命 EC化率50%の未来―アパレルウェブCEO千金楽健司
18世紀に起こった第一次産業革命から300年。いま、私たちは第四次産業革命という嵐の真っ只中にいます。 IoT、人工知能など、新興技術を駆使したデジタルデータの活用が中心となって起こっている第四次産業革命の影響範囲は非常に広大です。デジタルテクノロジーが世界を変えていくと言っても過言ではないこの時代をどのように乗り切ればいいのか。世界の最新事例や動向を交えて解説します。
技術の進歩によって得られるビッグデータ
第四次産業革命はデジタルテクノロジーを中心とした革命です。ビッグデータやAIが重要な役割を果たすことから「AI革命」とも呼ばれています。いま起こっている革命は、世界の商習慣や企業のビジネスモデルを根本から変えてしまうほどの影響力を持っています。もちろんファッション、小売、流通業界も例外ではありません。
近年スマートフォンの普及により私たちの生活は劇的な変化を遂げました。それに伴い、企業が提供するサービス、マーケティング活動も各個人が持つスマートフォンへ向けてのものに変わっていきました。いわゆる「スマホファースト」と呼ばれる考え方です。しかし、今や「スマホファースト」は過去のものになりつつあります。スマートフォンに続く新たなデバイスがいくつも誕生しているのです。例えば、Amazon Alexaなどの音声認識デバイス、最近では体の中に埋め込むBiochip(ビオチップ)が一般的なものになっている国もあるほどです。IoTからIoH(Internet of Human:ヒトのインターネット化)へと時代は進んできているのです。
第四次産業革命下では、新しい技術によって、今まで取れなかったデータ(よりパーソナルなデータ)を大量に取得できるようになります。こういったビッグデータが第一次産業革命のときの「石油」のような価値を生みだすのです。
デジタルテクノロジーを武器に100年企業を追い抜く
図1:世界時価総額ランキングの比較(週刊ダイヤモンド2017年7月29日号、単位=兆円)
ビッグデータが大きな価値を生むようになると、企業の価値も一変しました。Google、Amazon、アリババなどに代表されるデジタル上のプラットフォームを持つ企業(プラットフォーマー)たちが軒並み時価総額を上げています。2015年の時価総額ランキングを見ると、石油・資源関連企業、情報通信企業、製造企業が上位を占めていることがわかります。しかし、2017年になると「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)」が上位に入り、ランキングは大きく様変わりしました(上の図1参照)。
2004年に創立されたFacebook社はGE(ゼネラル・エレクトリック)など、100年以上の歴史を持つ名門企業を抑え、一躍世界的な巨大IT企業へと成長しました。Facebook社の躍進劇は、今後、デジタルテクノロジーを武器とする企業が世界のビジネスをリードしていくことを予感させます。ほかにも、電気自動車で自動運転技術の開発を進めているテスラモーターズ(2004年設立)は、2017年に時価総額で、全米最大の自動車メーカーでありゼネラル・モーターズ(GM)を抜き、全米首位の自動車メーカーとなっています。
危機感を持ちIT改革を進める大企業
2016年の全米小売業大会では、非常にインパクトのある対談がありました。それはクレジットカード決済大手のアメリカン・エキスプレス(AmericanE xpress)の元CEOであるKenneth Chenault 氏と元百貨店チェーン大手Macy’sの元CEO Terr yLundgren氏による対談です。Kenneth Chenault氏が「カードという形は別に無くしても構いません。我々の脅威は他のカード会社ではなく、急速に普及するデジタル決済です。重要なのはカードとモバイルの違いではなく、デジタル決済を用いて、どれだけお客様に新しい価値を提供できるかということです」と語った背景にあるのは、第四次産業革命によって引き起こされている変化に対する危機感です。急速に普及するデジタル決済に対して「これまで通りは通用しない」ということをアメリカン・エキスプレスの元CEOが認め、サービスを見直すと発言したことは大きな話題になりました。時期を前後して、アメリカン・エキスプレスはUberとの業務提携も行っています。
これまで業界をリードしてきた大手企業であっても「デジタル決済」という大きな目線で、企業の在り方まで変革しようとしています。このことは、旧来型のビジネスモデルを継続させていくだけでは今後ビジネスが厳しくなっていくことを象徴しているのではないでしょうか。った背景にあるのは、第四次産業革命によって引き起こされている変化に対する危機感です。急速に普及するデジタル決済に対して「これまで通りは通用しない」ということをアメリカン・エキスプレスの元CEOが認め、サービスを見直すと発言したことは大きな話題になりました。時期を前後して、アメリカン・エキスプレスはUberとの業務提携も行っています。
異業種はライバルであり重要なアライアンス先でもある
異業種からの脅威の一方で、異業種同士の提携もここ数年増加傾向にあります。ファーストリテイリング社がクラウドの活用で米Googleと提携したケースが代表的です。また、トヨタ自動車とソフトバンクグループは移動サービス事業での提携を発表しています。 この様に、これまで無縁もしくは、ライバル同士だった企業が、業種の枠を超えて、共通の価値を生み出すために提携するケースが増えています。昨日までライバルだった企業が明日からアライアンス相手となる時代がきているのです。
Amazonの脅威
欧米では「アマゾンエフェクト(アマゾン効果)」という造語が生まれる程、Amazon社は全業種によって大きな脅威となっています。アジアにおいても、アリババグループやテンセントに代表される中国のIT企業があらゆる市場を独占していくという記事や報道が後を絶ちません。特にAmazonとアリババは、自社に蓄積されたビッグデータ(顧客データ)を軸に、本業であるECモール以外のあらゆる分野に事業を拡大しています。
2018年9月、Amazonはニューヨークに新業態「Amazon 4-star」をオープンしました。ここは、ECモール内のユーザーレビューで4つ星以上の評価を獲得している商品を中心に品ぞろえされている店舗です。ここ数年、ホールフーズの買収、 無人コンビニ「Amazon Go」の展開など、EC上のデータを活用したリアルへの取り組みも活発化してきました。技術面においても、人工知能やIoTデバイスの開発、金融サービスの開始、そして無人配達まで、数え切れないほどの領域に事業を拡大しています。
世界一の品揃えを目指すAmazon
世界で一番品揃えの多いECモールを掲げているAmazonの商品カテゴリーは非常に多いです。
皆さん一度はこの画面(上図)を見たことがあるのではないでしょうか。これはAmazonの商品カテゴリー一覧ページです。家電、日用品、食品、もちろんファッションカテゴリーも含めて、中分類で234種類ものカテゴリーがあります(2018年10月現在)。一方でAmazonは展開商品のPB(プライベートブランド化)も進めています。Amazonでは、顧客の好み、購買行動、パターンなど顧客が何を欲しいかを自社に蓄積されたビッグデータで分析した上で、PB商品を製造しています。もしかしたら、Amazonにとってヒット商品を生み出すことは我々が想像している以上に簡単なことなのかもしれません。
今後、ここにある商品のすべてがAmazonブランド(PB)になると考えてみてください。 Amazonがファッション業界のみならず、あらゆるジャンルの商品の小売業、製造業に大きな影響を与える可能性を持っていることが痛感できるのではないでしょうか。
――アパレルウェブ「AIR VOL.17 」(2018年11月発刊)から一部抜粋