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2019.01.16

開業20周年を迎えた「HEP FIVE(ヘップファイブ)」 競合激しい大阪・梅田で定位置を確保

 長らく、関西一円の商業施設のレポートを書いているが、このコーナーで「HEP FIVE」(ヘップファイブ)をご紹介するのは初めてである。大阪・梅田の老舗ファッションビルと言っても過言ではないヘップファイブは1998年11月にオープンし、昨秋には20周年を迎えた。まだ梅田の商業施設の集積度合が低かったころの開業だ。競合施設が増え続けている状況下で、どのように住み分け、生き残りを図っているのか取材した。

中心顧客は10~20代のヤングレディス層

「ヘップファイブ」入り口の吹き抜け部分、鯨のオブジェ

 ご存知の方も多いと思うが、ヘップファイブと言えば、屋上に設置された巨大な観覧車が象徴的だ。遠くからでもすぐに視認でき、開業当時は梅田の新しいランドマークになると指摘されていたし、今もそうである。メーンの入り口は吹き抜けになっていて、大きな赤い鯨の像が天井から吊り下げられている(後に、小さな子供の鯨も追加された)。各ショップの面積はコンパクトで、賃貸面積21,100平方メートルに約170のテナントが出店している。

 

 当時も今も館の外装や構造は個性的だ。前述の観覧車は言うに及ばず、赤を主体にした外壁、鯨のオブジェ、吹き抜けなど、坪効率を重視する傾向の強いファッションビルとしては、かなり珍しい造りである。ヘップファイブの開業と同時に、隣接する別棟の商業施設「ナビオ阪急」を「HEP ナビオ」と改名した。同じ「HEP」の文字を入れることで、相乗効果を狙ったと記憶している。ちなみに「HEP ナビオ」は当時、ミセスファッションを主体とした施設だった。現在は居抜き改装されて、「阪急メンズ大阪」(メンズ館)に生まれ変わっている。

 

 ピーク時には年間270億円の売上規模を誇っていたヘップファイブ。年々、競合施設が増えていく中で、最近は190億円まで減少した。しかし、2018年度(2019年3月期)は2%増の見通しと健闘を見せている。中心顧客は10代から20歳辺りのヤングレディス層で、多少変動はあるが、基本的な客層は開業当時から変わっていない。開業当時は25歳前後のOL層まで取り込めていたようだ。全体的に、20代前半以上の層を大阪駅周辺の新興商業施設――グランフロント大阪やルクアなどが取り込んだため、ティーンエージャー寄りに顧客層が絞り込まれた構図である。

赤い商材が売れる?売れ筋予測が難しいSNS世代

 今回、10数年ぶりにお邪魔して、最も関心を抱いたのが売れ筋動向だ。通常、各施設の主要顧客層とそのニーズの傾向は、天候不順や天災などの不可抗力がなければ大体、想定できるものだ。梅田の周辺施設を見ても、トレンドや人気のテイストなどから、好調なテナントが見えてくるものである。しかしヘップファイブでは、その売れ筋予測が難しいのだという。

 

 「来店客はファッションに興味を持ち始めたティーンエージャーが多いため、それほどブランドに対するこだわりがない。友達とのSNS情報を重視するようだ。しかし、ファッションに興味を持っていることは間違いない」と阪急阪神ビルマネジメントのSC第一(梅田)営業部HEPファイブ営業・リーシング担当、城戸美有紀マネージャーは分析する。前述したように“赤”のイメージが強い館のせいか、「赤い商材、派手なデザインが売れる」(城戸マネージャー)傾向があるようだ。

 

 そのため、リーシングの基準は、「面白そうなテナントに飛び込みで頼む」(城戸マネージャー)そうだ。こうしたMD方針もあり、ティーンエージャーを中心とした来館客には、ファッションの“入門編”の館として、色々な商材が集まるおもちゃ箱的な魅力があるようだ。とは言え、主力はアパレルで、売り上げの約70%を占めている。雑貨、アミューズメントが10%、残りが飲食といった内訳だ。

2018春 “館の顔”1階をテコ入れ

1階フロアの「ニコアンド」。メンズを中心に健闘している

 昨春、定借契約の満了を機に、館の顔である1階フロアを思い切ってテコ入れした。東側の一角に、「ニコアンド」を導入した。カフェ「ニコカフェ」を併設した業態である。従来の同館のテイストとは少し異なるが、オープン後は特にメンズが好調だという。ちなみに以前はレディスの「オペーク」が店舗を構えていた。

 

 今年の初売りは天候にも恵まれ、売り上げ・客数共に103%と好調なスタートを切った。オープン前には最高、2,500人ほどが列を作ったという。福袋も人気店を中心に、オープン後30分程度で完売するなど、根強い人気があった。

 

 商業施設の集積度が高まった梅田地区において、ヤングの館として定位置を守り続けている。一方、1階フロアでは新しい試みを始めている。ファッションに目覚めた移り気な女の子の心をつかむべく、これからも地道な努力が続く。今後の変化、進化が楽しみである。

 

「ヘップファイブ」公式サイト


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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