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2019.01.08

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.54】「機能とモード感」「伝統と革新」入り交じる~2019年春夏ファッションの6大トレンド~

 2019年春夏シーズンのファッショントレンドは、しばらくぶりにロングトレンドの切り替わりを迎えそうだ。ビッグトレンドだった「ストリート」が落ち着きを見せ、定番の仲間入り。新たに台頭してきたのは、テイラードやクチュールといった、正統派寄りの装い。ビッグシルエットの傾向もやや安定し、コンパクトなシルエットが打ち出され始めた。一方、シーンフリーやジェンダーレスのうねりはさらに勢いを増している。着心地を重視する「コンフォート(快適)」志向は新たなシーズンも多くのトレンドを下支えする。

◆スポーツテーラリング Sports Tailoring

(左上から)LOUIS VUITTONPRADA
FENDISPORTSMAX

 健やかなムードの装い「アスレジャー」が品格をまとい始めた。パリやミラノで相次いで提案されたのは、紳士服の仕立て文化を、アスレティックなウエアに交わらせる試み。本格的なパンツスーツやジャケットを、軽やかな雰囲気でまとうスタイリングは若々しくスタイリッシュ。正統派ジャケットにサイクリングパンツ(バイカーショーツ)を引き合わせるような、「スーツ」の常識にとらわれない着こなしも打ち出されている。

 

 ジェンダーレスの流れを受け継いで、オーバーサイズのシルエットが軸になる。クラシックなスクエア型がメンズ風味を帯びる。ヘリンボーン柄やツイード生地がトラッド感を醸し出す。ただし、本気のパワードレッシングではなく、むしろエフォートレスとの相性が試されていて、しなやかな着こなしが鍵になりそう。ノースリーブのコートや、凜々しいタキシードジャケットもテイラード感を印象づける。

ワーク・アウトドアフェミニン Work・Outdoor Feminine

 アウトドアのムードが濃いスタイリング「ゴープコア」が盛り上がる。登山やハイキングに由来する、タフで行動的な装い。しかし、武骨にまとめるのではなく、マウンテンジャケットとフリルスカートを組み合わせるように、フェミニンな味わいを足し込むのが今の流れだ。いわゆるガテン系にみられるワークウエア(作業着)に近いオールインワン(コンビネゾン)、カーゴパンツもキーアイテムに位置づけられている。

 

 アノラック、ウインドブレーカー、シェルパーカ、レインコートなどのアウター類が主役。悪天候への備えが利くのに加え、ボディラインの輪郭をぼかしてくれる。着こなし面では量感の豊かな羽織り物に、ワンピースやタイトスカートのようなフェミニンなムードのものと合わせるようなコーディネートが提案されている。張り出しポケットや飾りジッパーが表情を添える。リュックやボディバッグ、ウエストポーチといったハンズフリー小物がアクティブなムードを呼び込む。

ミドルイースタン(中東) Middle Eastern

(左上から)DiorMaxMara
MISSONIAGNONA

 地域を越えたカルチャーミックスが勢いづく中、イスラム圏、とりわけ中東・西アフリカの伝統的なファッションが脚光を浴びる。象徴的なアイテムは、髪の毛を覆うヒジャブ風のヘッドアクセサリー。エキゾチックでスポーティな雰囲気を寄り添わせる。女っぽさを薄めるジェンダーミックスの演出にも役立つ。ターバンライクなヘッドスカーフも登場している。

 

 服ではカフタンやチュニックが中東気分を招き入れる。風通しや汗抜けに優れるシャツドレスやサファリジャケット、サルエルパンツなどにも砂漠の国らしさが漂う。砂を連想させるアースカラー、ナチュラル感を帯びる生成りなどがキーカラーに。幾何学的なアラベスク模様もイスラムムードを醸し出す。素材面では天然のリネン(麻)のヒットが確実。リアルなリネンのほか、リネン風にみえて実は化繊で扱いやすいというテック系素材も登場している。

アーバンビーチ Urban Beach

 浜辺の気分がタウンウエアに持ち込まれる。場所に縛られない「シーンフリー」のうねりがリゾートと合体。ビーチルックと街着が融け合う。ボディスーツやブラトップ(クロップトップ)、バミューダなど、スイムウエアのバリエーションとも見えるアイテムがサマールックを軽やかに弾ませ、アクティブな着映えに誘う。

 

 フィッシュネット(メッシュ)、ラフィアなどがリゾート感を添える。ガウンやフラットサンダルも海辺のたたずまい。タイダイ(絞り染め)やトロピカル柄にはマリンテイストが薫る。陽気な鮮やか色のイエロー、オレンジ、ナチュラルムードのブルー、グリーンが装いを彩る。全体に元気でヘルシー、ナチュラルでボーホーな風情が漂う。

テクノスタルジー Tech-Nostalgie

 「新と旧」の相反するムードをクロスオーバーさせた装いがタイムレスな風情をまとわせる。テクノロジーとノスタルジーの交差がこなれた着映えに導く。PVC(ポリ塩化ビニル)で仕立てたサマーコートに、ヴィンテージ風のスカートを引き合わせるようなコーデが「レトロフューチャー」の入り組んだテイストを成り立たせる。

 

 工業的クールさと懐かしげなぬくもりのミックスが表情を深くする。ネオンカラーやエナメル、ラメ、ジッパーなどのテック感が装いを若々しくスリリングに見せる。未来的な雰囲気を印象づけるグラフィカル柄やサイエンスなムードのデジタルロゴも多くなる。ケミカルな素材は機能性の面でも頼もしい。リサイクルやオーガニック素材でサスティナビリティーを高める取り組みはさらに加速する。

ロマンティッククチュール Romantic Couture

 若々しさとリュクス感を兼ね備えた、ロマンティック風味の装いが提案されている。台形のミニスカートやボディコンシャスなミニドレスが復活。ガーリーな着姿と、凝ったクチュール系ディテールが同居する。アシンメトリー(不ぞろい)なシルエットのほか、フリルやラッフル、リボン、ノットなどの飾り、フェザーを含むリッチ素材などが響き合う。

 

 シフォン、チュール、オーガンジーなどの透ける生地が多用される。カシュクール、ワンショルダーといった、印象的なシルエットは着姿にドラマを宿す。色はピンクを柱として、スモーキーパステルカラーで控えめな甘さの大人感がポイントに。ドット柄はファニーなムードを漂わせる。ジャボ(胸飾り)付きのブラウスは古風な見栄え。パフスリーブは愛らしさをささやく。

 

 テイラードやクチュールに代表される「本格志向」への接近は19年春夏の目立った変化だろう。ジェンダーレスはさらに浸透して、「ビヨンド(超越)ジェンダー」と呼べそうな域に至りつつある。「強い女」の意識もゴープコア人気を支える。目先の流行に影響されにくい「タイムレス」なテイストを求める気分が着る側に高まる中、トレンドの方向感にも「伝統と革新」「機能とモード感」といった相反する要素が複雑に入り交じる傾向が一段と強まっているようだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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