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2018.12.21

【2019年を知るキーワード―コレクション・メンズ編】ポスト・ストリートを模索するデザイナーたち

文:山中健

(左から)コーチディオールバーバリーの2019プレフォールコレクション

 多くのブランドが、ミレニアル世代、Z世代に向けてコレクションを発表し続け、ストリートやロゴだらけとなったメンズコレクションシーン。業界では、ポストストリートとなるテーマやデザイナー探しに躍起となっていますが、ミッドマーケットやマスマーケットでは依然ストリートが強いのが現状。しかし、流行れば飽きが来るのが原理原則。コレクションシーンでは、2018秋冬から細めのシルエットが出始め、2019春夏、2019プレフォールシーズンではその傾向が強まっています。継続トレンドであるストリートやユーティリティー、スポーツの延長線上であるルックが目立つ状況ですが、コレクションシーンではストリートトレンドは転換点を迎えていると言えるでしょう。その転換点の先にどのようなことが起きるのでしょうか。

◆キーワード1:
ストリートはデフォルトとなりスポーツと融合して分化

 ストリートファッションは、市場全体に広がり、もはやデフォルトとなりました。プルオーバーやフーディー、ゆったりとしたパンツ、レトロなスニーカーなどがマストハブであることは変わりません。ストリートファッションは、様々なターゲット、テーマと絡み合い、細分化しています。現在の日本で力強いのが、アウトドアと融合したルック。「ザ・ノースフェース」や「カナダグース」などの、アイコニックなアウトドアブランドを核とし、広がっています。次の注目は、テニスやヨットなどエレガントスポーツなどとの融合です。「フィラ」や「エレッセ」などの記号化されたブランドは、すでにユースマーケットで広がりを見せていますが、大人マーケットに、エレガントスポーツの着こなしは広がりそうです。クリーンなカラーのセーリングジャケットやボンバージャケットなどを、ワンカラー、トーンオントーン、もしくはコントラストカラーで着こなす都会的なスポーツルックが2019春夏に浮上しそうです。

◆キーワード2:
テーラーリングがトレンドアイテムとして復活

 リアルクローズではストリートが主流となりますが、先端マーケットではテーラリングがトレンドアイテムとして復活します。今、コレクションシーンで、新鮮に見えるのは、「おじいちゃんの背広」とも言えるレトロでオーバーフィットなスーツ。英国調のテキスタイル、スモーキーなカラーなど渋い色柄を、抜け感を持って着こなしたルックに注目です。代表的ブランドは、「ステラ マッカトニー」。ロンドンのイーストエンドを歩く老人からインスパイアしたという英国調スーツルック。スーツがデフォルトだった頃の世代に敬意を表したこのルックが、業界から評価されています。グッチをはじめとする60’s&70’sヴィンテージミックストレンドとも相性が良いのです。一見渋い古着を着ているかのようなルックですが、実は現代のテクノロジーによって新しいアイテムとなっています。素材や工程をリノベーションし軽量化に成功。ポール・スミスのように従来の半分以下の重さに改良したスーツも登場しています。ツィードなどのがっしりした素材も、フリュイド(空気を含んだような)な着こなしが可能です。現段階では、先端層が街着として着こなすレベルですが、この先メンズマーケットにおけるテーラリング復活の一歩となりそうです。

◆キーワード3:
デザイナー交代が続いた2018年 「ボッテガ・ヴェネタ」「ベルルッティ」…2019年の注目ブランドは

 エディ・スリマンの「セリーヌ」、リカルド・ディッシの「バーバリー」、キム・ジョーンズの「ディオール」、ヴァージル・アブローの「ルイ・ヴィトン」と2018年は、スターデザイナーの交代劇が話題となりました。2019年はそれらが発売され、真価が問われる1年となるでしょう。そして、これらに続きリローンチするブランドたちにも注目したいと思います。その筆頭が、元セリーヌのダニエル・リーによる「ボッテガ ヴェネタ」です。2018年12月に公開した2019プレフォールコレクションを見る限り、期待が持てそうです。一見シンプルながら、ルックに組み立てることで主張がはっきり浮き出るという精緻なコレクション。目の肥えた大人に十分に通用するでしょう。シグジネチャーであるイントレチャートもマクロ化しリフレッシュしました。「ベルルッティ」を手がけるクリス・ヴァン・アッシュも気になります。本格的なコレクションは、1月に発表する2019秋冬コレクションですが、2019プレフォールは、「クリス色全開」という印象。彼のシグネチャーブランド時代の得意技をふんだんに盛り込みました。2019秋冬コレクションでは、「ベルルッティ」のヘリテージをどのように料理するのか見ものです。

◆キーワード4:
パリに集中するメンズコレ NYの挑戦は成功するか

NYメンズ前倒しのきっかけを作ったアレキサンダー ワン

 ファッションウィークの主導権握りに変化が起きるかどうかも2019年の見どころです。長年、ピッティ、ミラノ、パリの順にメンズコレクションは発表されてきました。しかし、2012年6月の2013春夏シーズンよりロンドンメンズが開始。一番早くコレクションを発表するファッションウィークとして定着しました。そして、2019年は、ロンドンより早く2020春夏NYメンズがスタートすることとなります。きっかけは、NYのスターデザイナー、アレキサンダー・ワンがコレクションの発表を早めたことですが、元々NYはウィメンズで、一番早くコレクションを発表してきました。そのアドバンテージをメンズでも発揮するかどうかも今年詳らかとなります。現在、メンズコレクションの目玉はパリに集中しています。ハイメゾンはもちろん、日本を含む各国の気鋭デザイナーや、リアルクローズも、他のファッションウィークに脇目もせずにパリでコレクションを発表するようになり、パリメンズだけ行けばメンズコレクションの全てを把握できる状況です。これに対し、NYが別のアイデンティティで風穴をあけることができるのか、現状通り単なるアメリカ大陸対象のファッションウィークを過ぎないのか見届けることとしましょう。


 

 

山中 健(やまなか・たける)

大手百貨店、外資系ブランド、大手経営コンサルタント会社を経て、ファッションビジネスコンサルタントとして独立。

アパレル業界を中心に、ライフスタイルショップ、百貨店、SCなど幅広い業態に対しマーケティングやMD、リテール、海外進出のコンサルティングを手掛ける。

トレンド分析、市場調査、戦略策定などのマクロなテーマから、個店支援、研修などの現場へのブレイクダウンまで様々なテーマのコンサルティングに対応可能。

また、欧米、アジア、国内のコレクション取材やファッションマーケット調査を数多く行っており、国内外のファッションビジネスの動向を語ることができる貴重な存在として注目されている。

2009年にアパレルウェブコンサルティングファーム主席研究員、2011年にアパレルウェブ編集長就任。

 

山中健 公式サイト
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