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2018.12.20
【2019年を知るキーワード―コレクション・レディス編】ルールにとらわれない機能的でアイキャッチーな装いがネクスト・スタンダードに
文:宮田理江
目先のトレンドを超えたうねりが2019年のファッション界を揺さぶりそうです。SNSの浸透を追い風に、「誰かのコピー」ではないスタイリングや、旧来の約束事にとらわれない着こなしが勢いづいていきそうです。
たとえば、18年に盛り上がった「ダッドスニーカー」のように、これまでのイメージを逆手に取るような、ウィットフルでアイキャッチーな装いが次のスタンダード(当たり前)へ。機能性や使い勝手の重視が新コーディネートを後押しします。スタイリングのルールが崩れ、自由な発想のアレンジが受け入れられます。
数年前から注目されている季節、性別、地域などの枠を越えるものはさらに進化。新時代の装いで軸になるのは、ファッションを自己表現と考える「コンセプチュアル(哲学・思想的)」な姿勢です。
あえて歴史や文化をクロスオーバーさせる「クロスカルチャー」の試みは宗教や民族の違いまでも乗り越えていきそう。エシカルやサステイナビリティーといった、広い意味での「正義」を意識した選択も広がっていく見込みです。
◆キーワード1:
ビヨンドレガシー(beyond regacy)
シーズンやジェンダー、シーンといった、これまではおしゃれの「前提条件」と位置づけられてきた事柄に見直しが加わります。これらを「守るべき約束事」ととらえるのではなく、むしろ「過去の遺物(レガシー)」ととらえ、乗り越えていこうと試みる動きが広がりそう。英語の「ビヨンド」はこれらのレガシーを飛び越えていくイメージを表しています。
最も分かりやすいのが、既に「シーズンレス」として広がりを見せている、季節感の無視でしょう。ブーツを夏に履いたり、チュール・レースのアイテムを冬に着たりといった、従来の季節感になじまないアイテムの活用は、これから先もバリエーションが広がる一方。重たくないうえ、速乾・通気性に優れた高機能ウエアがシーズンをまたぐ通年使いを押し上げます。
メンズ売り場に足を運ぶおしゃれウィメンはもう珍しくなくなりました。性別にとらわれないジェンダーミックスはもう一段、進化。紳士物と混ぜて、「ずれ感」を演出するのではなく、シャツやパンツに目立たないよう、当たり前にまとうように。自然体の中性的な装いが広がる気配です。逆に、メンズアイテムでも桜ピンクの小物やコスメなども登場しています。
場面を固定しない「シーンフリー」はパジャマを街着使いする典型例が有名ですが、19年に活気づくのは、街中とリゾート、オンとオフ、アスレティックとデイリーなどを自在に行き来するような着こなし。テイラーリングが新トレンドに浮上するのを受けて、オフィスルックの普段使いも広がりそう。サイクリングパンツやバミューダショーツも街着用に提案されています。
素材のレガシーも崩れつつあります。工業的質感を帯びたPVC(ビニル)はつやめきが好まれ、キーマテリアルに昇格。従来のチープなイメージを逆転させました。一方、天然由来の風合いを象徴する麻系素材も脚光を浴びています。あえてPVCやラメ素材と組み合わせ、「人工×天然」のクロスオーバーに仕上げるミックスはコーデの幅も広げてくれそうです。
◆キーワード2:
タクティカルオッド(tactical-odd)
(左から)HYKE、KOTOHAYOKOZAWA
大胆でポジティブなアレンジが装いに取り入れられていきそうです。着る側の態度に戦略的(タクティカル)な要素が強まります。わざとバランスやムードを崩すかのような、不ぞろい(オッド)感が新鮮な装いに導き、テクノロジーを組み込んだスタイルも広がりを見せます。
既に支持が広がっている「アシンメトリー(非対称)」はさらにアレンジが拡張します。たとえば、身頃の左右で色や素材が全く異なるワンピースや、ジャケットは片袖がなく、ワンショルダー風ビスチェ風になっていたりと挑発的な不ぞろいが登場。靴やソックスは左右でワンセットという常識が壊れます。
シーンフリーとテクノロジーが相乗効果を発揮して、服のノマド化が進みます。作業服の「ワークマン」が新たなトレンド発信地になったように、機能性ウエアがおしゃれコーデに溶け込みます。海外有力ブランドからも作業着をテーマにしたコレクションも登場。アウトドアルックを街着に持ち込む「ゴープコア」は19年に本格化しそう。タフでヘビーデューティーな風情を漂わせます。
道路工事の作業・保安員ルックでおなじみの反射材を着こなしに生かすアレンジのような、カスタマイズの選択肢が広がります。ヒールを交換できるパンプスといった、DIYやハンドメイドはオッド的な演出を生かしやすいアプローチです。意外なポジションや見え具合の外付けポケット、ベルトポーチなども着姿に戦略的な遊び心をもたらします。
ヒーター内蔵のジャケットのような、機能面での提案も広がる気配です。悪天候が珍しくなくなったことを背景に、雨風、暑さにテクノロジーで立ち向かうハイスペック服の出現が期待されます。賢く暮らすための戦略的パーツとしての服や靴という、ワークウエアや登山ルックのような発想が街中でも広がって、見慣れた装いからのオッド感が強まっていく見込みです。
◆キーワード3
コンセプチュアル(conceptual)
短期でうつろうトレンドがいくらか弱まってきたということは、自分のポリシーやスタイルを持った「自立派」が増えてきたことと関係があります。ここでいう「自立」とは、こだわりや哲学を持つ、いい意味で「自己中(心的)」なおしゃれのこと。そうしたリスクテイカーたちが従来の発想にとらわれない装いを選び取りつつあります。
民族や宗教、歴史といった、風土に根差した装いにもアレンジの余地を見いだす冒険が試されています。たとえば、ムスリム(イスラム教徒)の女性が髪を隠すのに用いるスカーフ状の「ヒジャブ」を、モダンにカスタマイズする提案は複数のブランドで見受けられます。インドのターバン風ヘッドアクセサリーもヒットの兆し。単に風変わりな見た目を面白がっているのではなく、「グローバル市民」のような感覚で受け入れる態度にコンセプチュアルらしさが感じられます。
クロスカルチャーの対象は海外にとどまりません。青森県の伝統的な刺し子の技法「こぎん刺し」、大正ロマンを薫らせる絹織物「銘仙」のように、各地に根付いた服飾文化を見詰め直す取り組みは多くの国内デザイナーが進めています。英国やイタリアでは古典的なテイラーリング(仕立て)の職人技をモダンに取り入れるアプローチも盛り上がりを見せています。
商品の原料や製造方法にも気を配る消費者が増えてきました。動物を犠牲にしないケミカル素材を優先的に用いたり、地球環境にやさしい植物由来素材を使ったり。羽毛ダウンの代わりになる新素材(化繊)や、人工ダイヤモンド、合成レザーなども利用が広がってきました。広義の「社会正義」に目配りしたものづくりはコンセプチュアル志向の消費者から支持を得ています。
原料だけではなく、労働や販売手法、在庫管理などの面にも、サステイナビリティー(持続可能性)やエシカル(倫理的)の面から、筋の通った説明を求める傾向が強まってきました。正義を感じやすい商品に愛着や共感を覚えるという流れが生まれつつあり、19年はコンセプチュアルな消費者との向き合い方がファッションの重要テーマになっていきそうです。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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