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2018.12.25

【2019年を知るキーワード―テキスタイル編】SNS、スポーツ、エコの時代を反映したテキスタイル・トレンドは?

 ファッションビジネスにおいて最も大きな変化が起きている流通分野ではありますが、それに伴うもの作りにも明らかな影響が生じています。インターネット、SNS、インスタグラムやメルカリなどのツールを利用した消費者個人のビジネス参加、企業がスリム化や細分化を行い消費者と直接の繋がりを持つ仕組みなど、スピード感や生産量、新しい店舗の形、キャッシュフローの在り方も変化を見せています。

 

 しかしながら、仕組みが変わっても素材を用いて服やアクセサリーを作る原理は同じであり、その流れや方向性を知ることは、ビジネスの成功のためには欠かせません。世界に情報発信をしているプルミエールヴィジョン展、東京、パリ、ロンドンの市場を見て感じたキーワードを挙げてみました。

◆キーワード1:
フェイクという本物

プルミエールヴィジョン2019~2020秋冬展から

 “fake”はその意味の通り”偽物“を指します。繊維業界で毛皮に似せたフェイクファーが一般的に使われるようになったのは80年代で、本物に似せはしたものの明らかに偽とわかるものではありましたが、それなりに重宝されジャケットやショートコートなどに使われました。元来は毛布やぬいぐるみに使われている毛足の長いアクリルのニット素材で長い歴史を持つが、ファッションアイテムとは分野を異にしていました。

 

 90年代のエコロジー運動とともに毛皮を着ることへの反対が起こり、フェイクファーは一気に開発が進みました。やがて貴重な本物の毛皮が再び受け入れられるようになりましたが、様々な機能性を持つフェイクファーは“エコファー”とも呼ばれ、偽物の域を超え確固たるポジションを築き、新しい時代の素材として、本物の毛皮とは別にファッションアイテムに受け入れられています。

◆キーワード2:
機能性とファッションの融合

プルミエールヴィジョン2019~2020秋冬展から

 今では当たり前になった機能性ではありますが、ファッションとして一般的に使われたのは80年代後半になってから。吸汗速乾やウォッシャブル、防シワ、防縮などをキャッチフレーズにして機能性がアッピールされました。しかし、何といっても最も市場性を得たのは、フィット感や着脱がしやすい機能を持つ“ストレッチ”でしょう。

 

 元来下着やスポーツウエアの分野では欠かせないストレッチは、バブル崩壊後の90年代に世界の合繊メーカーが競って開発を進め、ファッション分野でもすべてのものに受け入れられるようになりました。加えて90年代はテクノロジー開花の時代ともいわれ、糸、織り、仕上げの段階で多くの技術が開発され様々な機能性が新たに生まれました。着やすく快適で便利という機能素材は瞬く間に浸透しました。下着や競技用のスポーツウエアの持つ優れた機能性が日常的に使われるようになり、アウターにまで広がりを見せています。

 

 機能性は表舞台に出て、スポーツウエアのデザインが多様化しモードの世界にも登場するようになりました。競技用の道具やスニーカーのメーカーが機能性のあるウエアのイメージを具現化しスポーツウエアをファッションアイテムへと昇華、クリエーターたちもモードの中にスポーツウエアの要素を取り入れることに躊躇しませんでした。

 

 機能という技を楽しみ、生活を豊かにしてくれる機能性は、これからのファッションを支える優れた黒子役としての期待がかかります。

◆キーワード3:
エレガンスと無頓着

プルミエールヴィジョン2019~2020秋冬展から
キーワードの1つ「ノンシャランス(nonchallance)」を表現したビジュアルが会場内で披露された(写真左上)

 ファッションを語る中で常に存在するのは「エレガンス」であろう。カジュアルが主流、スポーツ意識が高まったといわれながらも、女性はエレガンスに対する気持ちを失わない。しかし「エレガンス」を取り囲む意識の変化は確実に起こりつつあります。

 

 1980年代の終わりに提言されたエコロジーは30年をゆうに過ぎ世界中の日々の暮らしの中に定着しました。ファッションではその生産において、素材開発において、環境になじむように、人々の暮らしに役立つように、健康を考えスポーツを愛するエコロジー意識と共に歩んできました。それは自然への接し方とみることもできます。

 

 プルミエールヴィジョンが19~20A/Wに向けて提案したキーワードの一つに「ノンシャランス(nonchallance)」があります。過去においても使われたキーワードではありますが、その意味は光りや風、空気にあたりながら自然体でゆったりと暮らし、時の喧騒や煩雑さから遠い存在というイメージでした。今回はそのイメージと少し異なる解釈がなされています。長い金髪をドライヤーの風に自由気ままになびかせしなやかさを強調。自然に任せた受け身のノンシャランスから人工的な風でしなやかさを気付かせるノンシャランスを提案。それが無頓着に見えるエレガンスであり、自然と共存する新しいエレガンスを意味しているようです。

◆キーワード4:
水の色・光の色

プルミエールヴィジョン2019~2020秋冬展から

 従来の色調や色相に加えて、最近は水の色、光の色が堂々と登場します。水は流れるような布の表現にも使われ、濡れたような色、透明感、よどんだような色などと色のイメージは自在に変化します。水面に生まれる波や泡、しぶきなど形も色も想像力を膨らませてくれ、それを新しい技術によって実際の素材として手に取ることができるようになったのです。

 

 光りは素材の持つ自然な光沢から磨き上げたような艶など昔から高級感の象徴でもありました。生活の中でLEDの普及、反射光、太陽や月の光が入り混じり、フラッシュカラーやビーム(光線)などの強い光り感、蛍光色、モルフォ蝶や真珠、鱗といった独特の光りも色として配色に使われます。

 

 光りが作る“影”も、色味として頻繁に登場するようになりました。黒に近い様々なダークカラーがトーンダウンしてナチュラルな色合いを添える。素材の透け感も色を一味変化させる。透明感と光りの色は、色環の間に微妙な色の隠れた存在を明るみに出しているかのようです。


北川 美智子(きたがわ・みちこ)

テキスタイル・ディレクター

 

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